ツクモガタリ 語る ー深志城の幼姫は神社守りスー

冰響カイチ

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第3話 蝉時雨

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蝉の声がする。

ミンミンと実に朝から盛況なことだ。

「のぅ、昨夜は誰ぞ参拝に訪れたか」

「いいぇ、気づきませなんだが、そなたは?」

「さぁ」

女官姿の神使は首をふる。

「そうか」





気のせい?

にしてはやけに現実味の帯びた夢だったような。

そうじゃ。確認すればよい。

「ささ、お顔を拭かれませ」

手拭いが広げられた。

「自分でやる!  子供あつかいするでない」

バッとひったくる。乱雑にざっくりと拭う。

「ではお食事は?」

「あとじゃ。散策してまいる」

そう言い残して松姫は手拭いを布団へ放り、スタスタと神の宮をあとにした。







「こちらも盛況じゃのぅ。今日も今日とてようあきもせず」

境内は車でいっぱいだ。

人の世はいま夏休みとやらで、道をはさんだ市営駐車場はまばらだというのに、ここは満杯で、広告もだしていないというのに無料駐車場として扱われている。

「ょっと」

車をよけて境内を歩き回る。

さすがに参道には車は置かれてはいない。が、いくつものタイヤのあとが参道の苔をむしりとって悲惨な有り様だ。

「歴史の重みを感じさせる神聖なる苔をよくもまぁ、このようにしてくれたものじゃ」

ハァと重苦しい息を吐く。

「あのようになるまでとてつもない時間を要したというのに」

そこだけでなくタイヤの痕で砂利石に溝がきざまれている。

「嘆いてもしかたがない。行こう」

拝殿の前の少し先にもうけられた手水舎に向かう。

石棺のようにくりぬかれたものをのぞくと、こんこんと清水がわきでている。

「夢の者は確かこの辺から裸足でヒタヒタと歩いていた。何かしらの痕跡が残されているとしたら、この参道か?」

松姫はよちよちと拝殿にむかって歩き出す。


「…………」

つっと下方を見、裳裾からのぞく赤い鼻緒や足袋をじっと見つめる。

草履ではなく今は靴というものが好まれるらしい。

靴あとーー靴あと、と参道をなめるようにしてさらっていく。

「ぅん?」

いや、あれは靴でも草履でもなかった。

「しまった!  妾としたことが!?   ヤツは裸足ではないか!  痕跡もへったくれもないわ!」

自分のバカさ加減に憤って、ぁぁ、とうめくと後方に人の気配があらわれた。

「失くし者?」

「ぇ?」
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