58 / 90
3.隣国戦争
14.
しおりを挟む
(ハイセンサイド)
「っ…」
目が覚めると見知らぬ天井が見えた。
俺は確か戦場に来ていたはず…寝泊まりしているテントの屋根と違うな…何故だ?
「あ、目が覚めたんですね」
「っ貴様は…」
マスクを着けた聖女候補が近くにいた。ばっと起きると目眩がして頭を抑える。
「っ」
「あ、無理しないで下さい」
「触るなっ」
俺の肩に触れてきた奴の手を払う。結構力が入っていた様でパンっと音が響いた。
「体に触れた事は謝ります。ですが、ハイセン団長は昨日大怪我をしてここに運ばれてきたんです。だから無理しないで下さい」
「昨日…?」
昨日?そう言えばこいつの事を考えていた時に近くに砲弾が落ちたんだった。あの時俺は死んだと思ったが生きていたんだな。
手や足を見たが昨日の傷がない。確か喋れない程全身火傷していた筈だが…
「信じられない…」
何故全部治ってるんだ?腕がいい治癒師がいるのか?
「俺の事を治したのは誰だ?」
「…迷惑でしたか?」
「誰だと聞いてるんだ。答えろ」
「俺ですけど…?」
困った様に眉を寄せた聖女候補が名乗り出る。
「貴様が…」
「はい。まだ痛む所がありますか?」
今度は心配そうな顔をして俺を見る。
「いや、痛む所はない」
「それは良かったです。外傷は治っていても大量出血しているのでこのまま今日は休んでいて下さいね」
「ふざけるな。俺は第一騎士団団長だ。俺が寝ていたら下の者に示しがつかない。今すぐここを出る」
布団を捲ってベッドを降りようとすると聖女候補に肩を押さえられた。
「ちょ、ダメですってば!ホワイト!」
「きゃん!」
近くにいた白い獣がベッドに飛び乗り元の大きな姿になった。俺の上にのし掛かり身動きが取れなくなる。
「くそ!やめろ!俺にこんな事して良いと思ってんのか!?」
「良いんです!俺は聖女候補として皆さんの体調を診る役目があるんです!病人は大人しく寝て下さい!罰でも何でも体調が戻ったら受けます。だから今は治療に専念して下さい」
俺に物おじせず大声で言い切った聖女候補に言葉が出ない。
意外と肝が据わっているのかもしれない。
だが言い返された事にイライラする。掴み掛かろうにも指先しか動かせない。
「ホワイト後宜しくね」
「きゃん」
「こら、待てっ!」
「しーっ。ハイセン団長他の患者さんに迷惑です。静かにして下さい」
「っすまん」
にこっと微笑み一度頷いた聖女候補は俺の側を離れ他の病人の治療へと赴いて行った。
何なんだ。あいつは。つくづくムカつく奴だ。
「ハイセン団長、昼食持ってきました~」
昼ごろ昼食を持った聖女候補がやって来た。
「それより早くこいつを降ろせ」
俺の上ですやすやと眠っている白い毛玉を指さす。その獣を聖女候補が撫でると獣は頭を聖女候補に擦り付けた。余程懐いている様だ。
「ホワイトもお昼にしよ?」
毛玉は嬉しそうに一声鳴くと少し小さくなった。そのお陰で俺が動ける様になる。
「ハイセン団長、一人で食べれますか?」
「舐めるな」
「はは、舐めてませんよ。ではどうぞ。残さず食べて下さいね」
聖女候補は、俺と毛玉に昼飯を置くと去って行った。
目の前に出されたのは温かいシチューとパン、生野菜だった。
生野菜があるのは珍しい。気怠い体を起こしスプーンを持ちスープを一口食べてみた。
うまい。温かいスープが身に染みる。パンもふわふわで出来立ての匂いがする。
周りを見てみると皆美味そうにかき込んでいた。
救護班の食事は別らしい。こんな上手い飯を外では食べた事がない。
正直ここの飯が羨ましいと思った。
「ハイセン団長、ご飯どうでしたか?」
昼食を食べ終えゆっくりしていた頃、聖女候補が戻って来た。毛玉が律儀に俺の足に乗っている為身動き取れない。
「…美味かった」
「はは、それは良かったです。夕飯も楽しみにしていて下さいね」
まるで自分が作っている様な口ぶりに遂質問してしまった。
「貴様が作ったのか?」
「はい、そうですよ?まあトミーとか皆んなに手伝って貰ってますから皆でですけど…」
こいつ、ご飯作れたのか。姉の聖女様は美食家の様でシェフに相談して肉料理メインで作ってもらってると言うが兄弟揃って食には詳しい様だ。
こいつの事はあまり好かんが、こいつがつくる飯は美味い。もう少しここに居るのも悪くない。
「っ…」
目が覚めると見知らぬ天井が見えた。
俺は確か戦場に来ていたはず…寝泊まりしているテントの屋根と違うな…何故だ?
「あ、目が覚めたんですね」
「っ貴様は…」
マスクを着けた聖女候補が近くにいた。ばっと起きると目眩がして頭を抑える。
「っ」
「あ、無理しないで下さい」
「触るなっ」
俺の肩に触れてきた奴の手を払う。結構力が入っていた様でパンっと音が響いた。
「体に触れた事は謝ります。ですが、ハイセン団長は昨日大怪我をしてここに運ばれてきたんです。だから無理しないで下さい」
「昨日…?」
昨日?そう言えばこいつの事を考えていた時に近くに砲弾が落ちたんだった。あの時俺は死んだと思ったが生きていたんだな。
手や足を見たが昨日の傷がない。確か喋れない程全身火傷していた筈だが…
「信じられない…」
何故全部治ってるんだ?腕がいい治癒師がいるのか?
「俺の事を治したのは誰だ?」
「…迷惑でしたか?」
「誰だと聞いてるんだ。答えろ」
「俺ですけど…?」
困った様に眉を寄せた聖女候補が名乗り出る。
「貴様が…」
「はい。まだ痛む所がありますか?」
今度は心配そうな顔をして俺を見る。
「いや、痛む所はない」
「それは良かったです。外傷は治っていても大量出血しているのでこのまま今日は休んでいて下さいね」
「ふざけるな。俺は第一騎士団団長だ。俺が寝ていたら下の者に示しがつかない。今すぐここを出る」
布団を捲ってベッドを降りようとすると聖女候補に肩を押さえられた。
「ちょ、ダメですってば!ホワイト!」
「きゃん!」
近くにいた白い獣がベッドに飛び乗り元の大きな姿になった。俺の上にのし掛かり身動きが取れなくなる。
「くそ!やめろ!俺にこんな事して良いと思ってんのか!?」
「良いんです!俺は聖女候補として皆さんの体調を診る役目があるんです!病人は大人しく寝て下さい!罰でも何でも体調が戻ったら受けます。だから今は治療に専念して下さい」
俺に物おじせず大声で言い切った聖女候補に言葉が出ない。
意外と肝が据わっているのかもしれない。
だが言い返された事にイライラする。掴み掛かろうにも指先しか動かせない。
「ホワイト後宜しくね」
「きゃん」
「こら、待てっ!」
「しーっ。ハイセン団長他の患者さんに迷惑です。静かにして下さい」
「っすまん」
にこっと微笑み一度頷いた聖女候補は俺の側を離れ他の病人の治療へと赴いて行った。
何なんだ。あいつは。つくづくムカつく奴だ。
「ハイセン団長、昼食持ってきました~」
昼ごろ昼食を持った聖女候補がやって来た。
「それより早くこいつを降ろせ」
俺の上ですやすやと眠っている白い毛玉を指さす。その獣を聖女候補が撫でると獣は頭を聖女候補に擦り付けた。余程懐いている様だ。
「ホワイトもお昼にしよ?」
毛玉は嬉しそうに一声鳴くと少し小さくなった。そのお陰で俺が動ける様になる。
「ハイセン団長、一人で食べれますか?」
「舐めるな」
「はは、舐めてませんよ。ではどうぞ。残さず食べて下さいね」
聖女候補は、俺と毛玉に昼飯を置くと去って行った。
目の前に出されたのは温かいシチューとパン、生野菜だった。
生野菜があるのは珍しい。気怠い体を起こしスプーンを持ちスープを一口食べてみた。
うまい。温かいスープが身に染みる。パンもふわふわで出来立ての匂いがする。
周りを見てみると皆美味そうにかき込んでいた。
救護班の食事は別らしい。こんな上手い飯を外では食べた事がない。
正直ここの飯が羨ましいと思った。
「ハイセン団長、ご飯どうでしたか?」
昼食を食べ終えゆっくりしていた頃、聖女候補が戻って来た。毛玉が律儀に俺の足に乗っている為身動き取れない。
「…美味かった」
「はは、それは良かったです。夕飯も楽しみにしていて下さいね」
まるで自分が作っている様な口ぶりに遂質問してしまった。
「貴様が作ったのか?」
「はい、そうですよ?まあトミーとか皆んなに手伝って貰ってますから皆でですけど…」
こいつ、ご飯作れたのか。姉の聖女様は美食家の様でシェフに相談して肉料理メインで作ってもらってると言うが兄弟揃って食には詳しい様だ。
こいつの事はあまり好かんが、こいつがつくる飯は美味い。もう少しここに居るのも悪くない。
21
あなたにおすすめの小説
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
「役立たず」と追放された神官を拾ったのは、不眠に悩む最強の騎士団長。彼の唯一の癒やし手になった俺は、その重すぎる独占欲に溺愛される
水凪しおん
BL
聖なる力を持たず、「穢れを祓う」ことしかできない神官ルカ。治癒の奇跡も起こせない彼は、聖域から「役立たず」の烙印を押され、無一文で追放されてしまう。
絶望の淵で倒れていた彼を拾ったのは、「氷の鬼神」と恐れられる最強の竜騎士団長、エヴァン・ライオネルだった。
長年の不眠と悪夢に苦しむエヴァンは、ルカの側にいるだけで不思議な安らぎを得られることに気づく。
「お前は今日から俺専用の癒やし手だ。異論は認めん」
有無を言わさず騎士団に連れ去られたルカの、無能と蔑まれた力。それは、戦場で瘴気に蝕まれる騎士たちにとって、そして孤独な鬼神の心を救う唯一の光となる奇跡だった。
追放された役立たず神官が、最強騎士団長の独占欲と溺愛に包まれ、かけがえのない居場所を見つける異世界BLファンタジー!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
* ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
ヴィル×ノィユのお話です。
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけのお話を更新するかもです。
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる