ドラゴンズ・ヴァイス

シノヤン

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肆ノ章:狂宴

第103話 夢見心地の終わり

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 一区切りついたボランティアを切り上げ、待機していたセンチュリーに龍人とレイは遠慮なく乗り込んだ。それだけならばまだ良いが、義経が飲み過ぎたせいで冷蔵庫に入れていた飲み物が全てなくなっていた事で、車内で喧嘩が勃発する始末であった。

「お前飲み過ぎなんだよ!!この体のどこに入ってんだ⁉」
「てか、おどれ何もしてないやないけ!!飼い犬風情が調子乗んなやダボ!!」
「黙れ ! くれと言ったらそこの女が勝手に注いだだけだ!!俺に何の非がある !」

 後部座席で二人と一匹が喚き合っている最中だが、織江は一切振り向く事もしないで腕時計を睨んでいた。

「そろそろですね」

 彼女の発した言葉の意味は、間もなく現れた原付によって分かった。バッグを背負った若い妖怪が原付を降り、窓を開けて手を振った織江の方へと駆け寄って来たのだ。

「どうも配達で~す。暗証番号お願いしま~す」
「2929です。どうもありがとうございました」

 デリバリーであった。渡された大きなレジ袋の中には、今しがた購入されたばかりであろう缶ビールとハイボールが入っている。彼女は迷うことなくそれを龍人達に寄越し、颯真にもスプライトをくれてやった。

「やっぱ織江さん最高だわ」
「ホンマや。一家に一織江さんや。カンパ~イ」

 そして火照った体を鎮めるための酒盛りが行われ出す。買ったばかりの新車なのだ。どうか頼むから余計な真似はしないでくれと颯真は願っていた。なぜなら彼は見てしまっていた。織江が彼らに渡した水滴の少し付いたレジ袋の中に、両手で数え切らない程度の缶が入っているのを。



 ――――渓殲同盟本部前の門には、相変わらず仏頂面の門番が二人待ち構えていた。門の大きさのお陰で直射日光を避けられている上、並木のお陰で気温はさほどでもない。しかしそれでも堪える暑さであった。一時間に一回の交代制で見張りは行うようになっていたが、それでも出来れば逃げたいに決まっている。

 だが、その日は運が良かったように思えた。見張りを交代した直後に、センチュリーが街道を走って来た。頼むから通り過ぎるなんて真似はしないでくれと期待をしてみた所、信じられない事に門の前で停まったのだ。ああこれだ。これを待っていた。侵入者をいたぶった後に報告書を書き上げねばならないのは面倒だが、それを口実に冷房の効いた部屋での作業に移れるのは有り難い。後は手こずらせて来るような屈強な相手でなければ尚良い。

 そうこうしている内に車から影が見えた。すると、彼らはますます安堵した。二人の酔っ払いである。ゲラゲラと笑いながらコケる様に車から姿を見せる人間の若い男と、同年代ぐらいの若いメスの化け猫……どこかで見た事がある。

 やがて顔をはっきりと視認で来た途端、彼らの安堵感はたちまち消え失せていき、同時に戸惑いが生じた。間違いない。渓村レイである。かつては次期当主筆頭候補として幅を利かせていた彼女が、チンピラじみた風貌で一緒に降りた悪友を笑いながら引き起こしている。そして、その男が問題であった。間違いない。どこぞの幽生繋伐流の使い手とかいう女の直弟子ではないか。なぜ彼らがこんな場所に、それもこの様な醜態を見せ付けながら現れたのだろうか。

「ダハハハハハ~!!起きろや~ ! お前こけんやろ普通~!!」
「段差が見えなかった~段差が~しっかりしろよト〇タ~ !」

 酔っ払いに引き起こされた酔っ払いが愛おしそうに車をさすって文句を言い始める。奇怪な光景だった。

「お前がヘマしただけやんかアホ。ト〇タ悪ないやろ。ええ車やったろ」
「何だお前媚売りやがって。いくら貰ったんだト〇タに」
「ト〇タはそんな汚いマネせん……たぶんやけどな。嫌やっぱ分からんわ。うん断言するのやめとくわ」
「そこで怖気づくなよ。黙ってト〇タを信じろ」
「お前ト〇タ褒めたいんか貶したいんかどっちやねん」

 冷静なのかふざけているのか分からない会話が繰り広げられている中、颯真たちも車から姿を見せる。義経は自分の片割れの見せる行動に対して冷たい視線を向けていた。あの程度の量でこのへべれけ具合とは、何ともまあ情けない物か。

「ほら頑張れよ二人とも。話し合いしに来たんだろ」
「ああそうだった…そこ通っていいですか~⁉」

 呆れ、若干苛立っているような口ぶりの颯真が二人に発破をかける。龍人も気を取り直して門番たちに声をかけるが、車内でレイに聞かされたことでおおよその対応は分かっていた。力試しをしてくると分かっているなら、十分に迎撃の心構えも行える。しかし様子がおかしかった。

 門番の一人がスマホを手にしてから、相方にそれを見せる。相方は特に表情に出す事なく頷き、やがて首を鳴らしてから、黒擁塵から武器を取り出す。嫌な予感がした。

「……力試しって、こんな正々堂々してくんの ?」

 体に電流の如く流れた危機感によって、酔いが一瞬にして冷めたらしい龍人が言った。

「いいや。いつもはこんなんちゃう。もっと卑怯や」

 レイも同じ状態なのか、先程のふざけた態度が一瞬にして鳴りを潜めている。いずれにせよ快く受け入れてもらえるような反応ではない。そう思った直後、門や塀の上から次々と化け猫達が姿を現してくる。皆が武器を持ち、そして殺気立っていた。
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