103 / 112
肆ノ章:狂宴
第103話 夢見心地の終わり
しおりを挟む
一区切りついたボランティアを切り上げ、待機していたセンチュリーに龍人とレイは遠慮なく乗り込んだ。それだけならばまだ良いが、義経が飲み過ぎたせいで冷蔵庫に入れていた飲み物が全てなくなっていた事で、車内で喧嘩が勃発する始末であった。
「お前飲み過ぎなんだよ!!この体のどこに入ってんだ⁉」
「てか、おどれ何もしてないやないけ!!飼い犬風情が調子乗んなやダボ!!」
「黙れ ! くれと言ったらそこの女が勝手に注いだだけだ!!俺に何の非がある !」
後部座席で二人と一匹が喚き合っている最中だが、織江は一切振り向く事もしないで腕時計を睨んでいた。
「そろそろですね」
彼女の発した言葉の意味は、間もなく現れた原付によって分かった。バッグを背負った若い妖怪が原付を降り、窓を開けて手を振った織江の方へと駆け寄って来たのだ。
「どうも配達で~す。暗証番号お願いしま~す」
「2929です。どうもありがとうございました」
デリバリーであった。渡された大きなレジ袋の中には、今しがた購入されたばかりであろう缶ビールとハイボールが入っている。彼女は迷うことなくそれを龍人達に寄越し、颯真にもスプライトをくれてやった。
「やっぱ織江さん最高だわ」
「ホンマや。一家に一織江さんや。カンパ~イ」
そして火照った体を鎮めるための酒盛りが行われ出す。買ったばかりの新車なのだ。どうか頼むから余計な真似はしないでくれと颯真は願っていた。なぜなら彼は見てしまっていた。織江が彼らに渡した水滴の少し付いたレジ袋の中に、両手で数え切らない程度の缶が入っているのを。
――――渓殲同盟本部前の門には、相変わらず仏頂面の門番が二人待ち構えていた。門の大きさのお陰で直射日光を避けられている上、並木のお陰で気温はさほどでもない。しかしそれでも堪える暑さであった。一時間に一回の交代制で見張りは行うようになっていたが、それでも出来れば逃げたいに決まっている。
だが、その日は運が良かったように思えた。見張りを交代した直後に、センチュリーが街道を走って来た。頼むから通り過ぎるなんて真似はしないでくれと期待をしてみた所、信じられない事に門の前で停まったのだ。ああこれだ。これを待っていた。侵入者をいたぶった後に報告書を書き上げねばならないのは面倒だが、それを口実に冷房の効いた部屋での作業に移れるのは有り難い。後は手こずらせて来るような屈強な相手でなければ尚良い。
そうこうしている内に車から影が見えた。すると、彼らはますます安堵した。二人の酔っ払いである。ゲラゲラと笑いながらコケる様に車から姿を見せる人間の若い男と、同年代ぐらいの若いメスの化け猫……どこかで見た事がある。
やがて顔をはっきりと視認で来た途端、彼らの安堵感はたちまち消え失せていき、同時に戸惑いが生じた。間違いない。渓村レイである。かつては次期当主筆頭候補として幅を利かせていた彼女が、チンピラじみた風貌で一緒に降りた悪友を笑いながら引き起こしている。そして、その男が問題であった。間違いない。どこぞの幽生繋伐流の使い手とかいう女の直弟子ではないか。なぜ彼らがこんな場所に、それもこの様な醜態を見せ付けながら現れたのだろうか。
「ダハハハハハ~!!起きろや~ ! お前こけんやろ普通~!!」
「段差が見えなかった~段差が~しっかりしろよト〇タ~ !」
酔っ払いに引き起こされた酔っ払いが愛おしそうに車をさすって文句を言い始める。奇怪な光景だった。
「お前がヘマしただけやんかアホ。ト〇タ悪ないやろ。ええ車やったろ」
「何だお前媚売りやがって。いくら貰ったんだト〇タに」
「ト〇タはそんな汚いマネせん……たぶんやけどな。嫌やっぱ分からんわ。うん断言するのやめとくわ」
「そこで怖気づくなよ。黙ってト〇タを信じろ」
「お前ト〇タ褒めたいんか貶したいんかどっちやねん」
冷静なのかふざけているのか分からない会話が繰り広げられている中、颯真たちも車から姿を見せる。義経は自分の片割れの見せる行動に対して冷たい視線を向けていた。あの程度の量でこのへべれけ具合とは、何ともまあ情けない物か。
「ほら頑張れよ二人とも。話し合いしに来たんだろ」
「ああそうだった…そこ通っていいですか~⁉」
呆れ、若干苛立っているような口ぶりの颯真が二人に発破をかける。龍人も気を取り直して門番たちに声をかけるが、車内でレイに聞かされたことでおおよその対応は分かっていた。力試しをしてくると分かっているなら、十分に迎撃の心構えも行える。しかし様子がおかしかった。
門番の一人がスマホを手にしてから、相方にそれを見せる。相方は特に表情に出す事なく頷き、やがて首を鳴らしてから、黒擁塵から武器を取り出す。嫌な予感がした。
「……力試しって、こんな正々堂々してくんの ?」
体に電流の如く流れた危機感によって、酔いが一瞬にして冷めたらしい龍人が言った。
「いいや。いつもはこんなんちゃう。もっと卑怯や」
レイも同じ状態なのか、先程のふざけた態度が一瞬にして鳴りを潜めている。いずれにせよ快く受け入れてもらえるような反応ではない。そう思った直後、門や塀の上から次々と化け猫達が姿を現してくる。皆が武器を持ち、そして殺気立っていた。
「お前飲み過ぎなんだよ!!この体のどこに入ってんだ⁉」
「てか、おどれ何もしてないやないけ!!飼い犬風情が調子乗んなやダボ!!」
「黙れ ! くれと言ったらそこの女が勝手に注いだだけだ!!俺に何の非がある !」
後部座席で二人と一匹が喚き合っている最中だが、織江は一切振り向く事もしないで腕時計を睨んでいた。
「そろそろですね」
彼女の発した言葉の意味は、間もなく現れた原付によって分かった。バッグを背負った若い妖怪が原付を降り、窓を開けて手を振った織江の方へと駆け寄って来たのだ。
「どうも配達で~す。暗証番号お願いしま~す」
「2929です。どうもありがとうございました」
デリバリーであった。渡された大きなレジ袋の中には、今しがた購入されたばかりであろう缶ビールとハイボールが入っている。彼女は迷うことなくそれを龍人達に寄越し、颯真にもスプライトをくれてやった。
「やっぱ織江さん最高だわ」
「ホンマや。一家に一織江さんや。カンパ~イ」
そして火照った体を鎮めるための酒盛りが行われ出す。買ったばかりの新車なのだ。どうか頼むから余計な真似はしないでくれと颯真は願っていた。なぜなら彼は見てしまっていた。織江が彼らに渡した水滴の少し付いたレジ袋の中に、両手で数え切らない程度の缶が入っているのを。
――――渓殲同盟本部前の門には、相変わらず仏頂面の門番が二人待ち構えていた。門の大きさのお陰で直射日光を避けられている上、並木のお陰で気温はさほどでもない。しかしそれでも堪える暑さであった。一時間に一回の交代制で見張りは行うようになっていたが、それでも出来れば逃げたいに決まっている。
だが、その日は運が良かったように思えた。見張りを交代した直後に、センチュリーが街道を走って来た。頼むから通り過ぎるなんて真似はしないでくれと期待をしてみた所、信じられない事に門の前で停まったのだ。ああこれだ。これを待っていた。侵入者をいたぶった後に報告書を書き上げねばならないのは面倒だが、それを口実に冷房の効いた部屋での作業に移れるのは有り難い。後は手こずらせて来るような屈強な相手でなければ尚良い。
そうこうしている内に車から影が見えた。すると、彼らはますます安堵した。二人の酔っ払いである。ゲラゲラと笑いながらコケる様に車から姿を見せる人間の若い男と、同年代ぐらいの若いメスの化け猫……どこかで見た事がある。
やがて顔をはっきりと視認で来た途端、彼らの安堵感はたちまち消え失せていき、同時に戸惑いが生じた。間違いない。渓村レイである。かつては次期当主筆頭候補として幅を利かせていた彼女が、チンピラじみた風貌で一緒に降りた悪友を笑いながら引き起こしている。そして、その男が問題であった。間違いない。どこぞの幽生繋伐流の使い手とかいう女の直弟子ではないか。なぜ彼らがこんな場所に、それもこの様な醜態を見せ付けながら現れたのだろうか。
「ダハハハハハ~!!起きろや~ ! お前こけんやろ普通~!!」
「段差が見えなかった~段差が~しっかりしろよト〇タ~ !」
酔っ払いに引き起こされた酔っ払いが愛おしそうに車をさすって文句を言い始める。奇怪な光景だった。
「お前がヘマしただけやんかアホ。ト〇タ悪ないやろ。ええ車やったろ」
「何だお前媚売りやがって。いくら貰ったんだト〇タに」
「ト〇タはそんな汚いマネせん……たぶんやけどな。嫌やっぱ分からんわ。うん断言するのやめとくわ」
「そこで怖気づくなよ。黙ってト〇タを信じろ」
「お前ト〇タ褒めたいんか貶したいんかどっちやねん」
冷静なのかふざけているのか分からない会話が繰り広げられている中、颯真たちも車から姿を見せる。義経は自分の片割れの見せる行動に対して冷たい視線を向けていた。あの程度の量でこのへべれけ具合とは、何ともまあ情けない物か。
「ほら頑張れよ二人とも。話し合いしに来たんだろ」
「ああそうだった…そこ通っていいですか~⁉」
呆れ、若干苛立っているような口ぶりの颯真が二人に発破をかける。龍人も気を取り直して門番たちに声をかけるが、車内でレイに聞かされたことでおおよその対応は分かっていた。力試しをしてくると分かっているなら、十分に迎撃の心構えも行える。しかし様子がおかしかった。
門番の一人がスマホを手にしてから、相方にそれを見せる。相方は特に表情に出す事なく頷き、やがて首を鳴らしてから、黒擁塵から武器を取り出す。嫌な予感がした。
「……力試しって、こんな正々堂々してくんの ?」
体に電流の如く流れた危機感によって、酔いが一瞬にして冷めたらしい龍人が言った。
「いいや。いつもはこんなんちゃう。もっと卑怯や」
レイも同じ状態なのか、先程のふざけた態度が一瞬にして鳴りを潜めている。いずれにせよ快く受け入れてもらえるような反応ではない。そう思った直後、門や塀の上から次々と化け猫達が姿を現してくる。皆が武器を持ち、そして殺気立っていた。
0
あなたにおすすめの小説
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました
グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れ果てた俺がたどり着いたのは、圧倒的な自由度を誇るVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。
選んだ職業は、幼い頃から密かに憧れていた“料理人”。しかし戦闘とは無縁のその職業は、目立つこともなく、ゲーム内でも完全に負け組。素材を集めては料理を作るだけの、地味で退屈な日々が続いていた。
だが、ある日突然――運命は動き出す。
フレンドに誘われて参加したレベル上げの最中、突如として現れたネームドモンスター「猛き猪」。本来なら三パーティ十八人で挑むべき強敵に対し、俺たちはたった六人。しかも、頼みの綱であるアタッカーたちはログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク・クマサン、ヒーラーのミコトさん、そして非戦闘職の俺だけ。
「逃げろ」と言われても、仲間を見捨てるわけにはいかない。
死を覚悟し、包丁を構えたその瞬間――料理スキルがまさかの効果を発揮し、常識外のダメージがモンスターに突き刺さる。
この予想外の一撃が、俺の運命を一変させた。
孤独だった俺がギルドを立ち上げ、仲間と出会い、ひょんなことからクマサンの意外すぎる正体を知り、ついにはVチューバーとしての活動まで始めることに。
リアルでは無職、ゲームでは負け組職業。
そんな俺が、仲間と共にゲームと現実の垣根を越えて奇跡を起こしていく物語が、いま始まる。
第2の人生は、『男』が希少種の世界で
赤金武蔵
ファンタジー
日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。
あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。
ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。
しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。
クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります!
期間限定で10時と17時と21時も投稿予定
※表紙のイラストはAIによるイメージです
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる