ドラゴンズ・ヴァイス

シノヤン

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肆ノ章:狂宴

第104話 生きてるだけで丸儲け

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 龍人は咄嗟に背後へ振り返った。レイと颯真は別に構わないが、義経と織江については問題ないとは言い難い。義経はあの体では満足な動きが出来ないだろう。せいぜい腹を見せて媚を売るぐらいが関の山といった所か。織江に至っては、そもそもこの手の状況に出くわした可能性さえない筈である。読みはある程度当たっているのか、織江は車のドアを即座に施錠していた。義経は小さな前足で窓を必死に搔いており、とりあえず余計な事をされる心配が大幅に減ったと見ていい。窓を傷つけたとして弁償させられなければいいが。

「なあ。俺達の事を何か勘違いしていないか ?」

 相手方は、気が付けば十人は優に超えている状況である。更に手数の底が見え切っている自分達側と違って、相手はその気になればいくらでも応援を呼べる。どう足掻いても不利なのは明らかである以上、余計な消耗を避けられるのであればそれが理想であった。そう考えた龍人は手をかざして待ったをかける。渓殲同盟の駒たちは、歩みを止めて、何事かと物珍しそうに顔を見合わせた。

「俺達は敵じゃない。アンタ達にとっても大事な話があって来た。早くしないと、この町が手遅れになってしまう。そうなれば、おたくら渓殲同盟は末代まで町の住人や他の御三家連中から恨まれる事になるぞ。それは嫌だろ ? 俺だって、アンタらの事が好きかって言われると首をかしげるっつーか、正直嫌いな所もあるっつーか…でも何の謂れも無いのに責任負わされて石投げられる姿ってのは見てて痛々しいし、やっぱり不愉快になっちまう。だから手助けしたいんだよ。分かる ?」

 龍人は自信満々な様子だが、所々に余計な感情を孕み、同時に無駄な不安を煽る発言があると颯真は感じていた。知っているのだ。この手の話し方をして交渉が上手く行った試しがない。それ以前に聞く耳を持ってもらえない。そして、その読みは当たっていた。龍人の説得を聞いてくれていた同盟側の化け猫達は、一度互いに顔を見合う。だが少しして首をかしげると、再び武器をチラつかせながら接近を再開する。

「チッ…その耳はかざりかよツ〇ボども」
「小声でもそういうのはダメやろ」
「ホントだぞ。何で交渉得意じゃないのにすぐ話し合いに持ち込もうとすんだお前」

 話を聞いてもらえないと分かった途端に不機嫌さを露にする龍人だが、レイと共に彼をなじってから颯真は義翼を呼び寄せる。どこかで待機していたのであろう義翼はすぐさま到着し、ドッキングを完了してから腕の様に変形してみせた。

「龍人、一応やけど―――」
「分かってる分かってる。殺しまではしない」

 レイも珍しく武装を行わず、併せて龍人も開醒の発動のみに留めて構えた。ここで印象を悪化させても碌な事にならない。組織の中には物好きもいるだろうが、少なくとも殺された者の身内からは好感を得る事は未来永劫不可能になるだろう。

 これで互いに準備が出来たと判断したのか、敵方は一斉に走り出した。殴り掛かってきた者から順番に龍人達は相手取り、殺しにまでは至らないものの少しづつ血しぶきを辺りに舞わせる。レイも躊躇いがちではあるが、素手で応戦し、颯真はといえば義翼で殴り倒すか、事前に携行していた拳銃を至近距離から発砲した。

「……大丈夫だよ。ゴム弾だって」

 本人は言い訳をしているが、食らった化け猫達の呻きや怒り方からして明らかに過剰な火力を持たせている事が分かる。やはり殺処分によって頭数を減らせないのは中々辛く、揃いも揃って無駄にタフな事もあって中々落ち着かせてくれない。痺れを切らした龍人達は、戦いが進むにつれて「とりあえず生きていればいいや」と考え始め、しまいには関節技による骨折、急所へのゴム弾射撃、奪った武器による死なない程度の殴打まで解禁し始める始末であった。

「…おし」
「もう終わりやんな ? もう誰もおらんな ?」
「うん…いない…」

 汗だく且つ痣を所々に作っている龍人達の周りは、気が付けば増援も含めて百人近くが倒れて呻くか、気を失っている始末であった。センチュリーに乗っている織江と義経に近づけさせず、尚且つ死なないように無力化するというのは想像以上に骨が折れる。少なくとも今後は言い訳を付けて過失致死にするという選択肢もありだろう。そう思う程度には重労働だった。

「いやはや。思ってた以上にやりおるわ。無事ではないにせよ…まあ死んでないだけマシやろ」

 門が開き、同盟の幹部である玉井が姿を見せる。近くで倒れていた化け猫が彼に縋りつこうとするが、玉井はその手を払いのけて足で軽く小突いた。

「百人がかりで突撃した癖に、あんなガキ三人にコケにされよって、ようぬけぬけと助け求められるもんやなあ。俺なら情けなくて自殺もんやで」

 そのまま呻いている部下達を無視して進む彼だが、レイの姿を見て厳つい面持ちを僅かに朗らかに変えると、何とそのまま彼女に近づいて抱擁を始めた。

「ちょい ! タマ兄さすがにこの歳でハグはキツイて!!」
「何や水臭い事言うなや ! こんなもん挨拶やろ挨拶 ! ワシら家族みたいなもんやないか ! それより今日はどうしたんや⁉まさかようやく同盟に復帰して―――」
「あ、それは無いわ」
「そ、そうか……」

 体を離し、レイによる何かしらの回答に期待感を抱いていたらしい玉井だったが、即座にしょぼくれたのを見る限りでは、彼が望んでいたものでは無いのだろう。しかし、そんな寂しげな表情は彼女が発した用件によってすぐさま消え去る事となった。

「他のツレもそうやけど、籠樹兄ちゃんの件や。大至急婆ちゃんと話させてくれへん ? あと皆もすぐに集めてや」
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