ドラゴンズ・ヴァイス

シノヤン

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肆ノ章:狂宴

第105話 久しぶり

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「うっわ~…緊張してきた」

 渓殲同盟の会合へ向かうために、龍人達はついでといわんばかりに本部を散策していた。庭園で屯していた化け猫達は、見慣れない客人達を前に仕事や戯れを止め、興味津々に多様な視線を送っている。

「ああ~…だけどお客様ってのは気分が良いな」

 血やかすり傷を服で拭いながら、龍人は辺りを見回した。

「龍人。ふんぞり返りたくなる気分は分かるが、あまり反感買わない様にだけ気を付けろよ」

 武器を没収されて心許ない颯真が、落ち着かない様子で隣を歩いている。

「どうかした ?」
「元とはいえ関係のあったレイはともかく、俺達にまで友好的にしてくれる保証はねえだろ。今の俺だとまともに戦えないし、かといって万が一の事態になった時にレイやお前だけで凌ぎ切れる可能性だって低い。こっちは織江と義経さんを守りながらになるんだからよ」
「はあ~…老師も誘えばよかった。あの人いたらもう少し向こうも出方変えるだろうに」
「やめとけ龍人。絶対来ないだろうし、こんなんバレたら俺達への説教が始まる、たぶん」

 やがて一同は靴を脱いで本部に入り、会合に使われる大広間へと案内された。溪村澄子と彼女が率いる幹部たちは既に待ちわびており、彼らの正面に人数分の座布団が用意されていた。老師もここで駄弁る事があるのだろうか。そんな彼女と同じレベルの扱いを受けさせてもらえる程度に自分は成長出来たのか。ふと実感してしまった。

「し、失礼します」

 一言述べてから、恐る恐る正座で座布団の上に身体を置く。颯真とレイも後に続き、織江は義経を抱きかかえたまま腰を下ろす。「暑苦しいから俺も座らせろ」と義経は愚痴を放ったが、聞き入れてはもらえなかったようだ。不貞腐れたように俯いていた。

「龍人言うたか ? アンタと会うんは初めてやなあ」

 澄子が初々しい目の前の若者を見てそう言った。

「そ、そうです。俺、霧島龍人って言います ! こっちは―――」
「ええよええよ、そんなかしこまって紹介せんでも。大体分かっとるから」

 とにかく嫌われない様に振舞おう。龍人は張り切って臨もうとしたが、あっさりと止められてしまい、拍子抜けに拍車がかかる。レイの身内であれば妙な真似はされないと信じたいのだが、こうもペースを乱されてしまうと向こうに話の主導権が渡ってしまいそうで怖かった。

「じゃあ、話の本題に入らせてもらいたいんやけど、エエかな ?」

 直後、レイが口を開いた。厳粛さは一切見せず、足を崩して胡坐をかいたまま澄子を含めた同盟の幹部たちを眺めている。かなりの余裕であった。

「溪村レイ。お前、婆様に向かってその態度は―――」
「あ ? てか誰やお前」

 幹部の中にいた一匹の化け猫がレイの無礼な態度を糾弾しようとするが、彼女に凄まれて呆気なく怖気づいた。

「まあ落ち着け三戸。レイは昔からああだったからな。お前如きの説教で省みてくれるんなら苦労はしない」
「吉田さん…でも…」
「俺の隣にいる松野江に聞いてみろ。そうやって食って掛かって地獄を見た張本人だからな」

 その若い化け猫を吉田が落ち着かせつつ、更に自分の隣にいつ化け猫へと首を向けた。あまり喋りたがらない性質なのか、ただ一瞬だけ「フン」と鼻を鳴らすだけである。吉田、玉井、木下、水戸、そして松野江。渓村籠樹を除くこの五人が、渓殲同盟の幹部というわけである。だが、今回に関しては彼等よりもこの場にいない籠樹に用事があって来たのだ。

「幹部がもう一人おらんやん。とうとうまともに躾も出来んくなったん ?」
「アレの躾が出来る奴がおるんなら、それこそレイちゃんだけやったろ。籠樹のアホ、レイちゃんのいう事だけはよう聞いてたし」
「…昔の話やろ。今はどうか知らんよ」

 木下がレイに話しかけてみるが、肝心のレイはどうも冷め切った態度を崩そうとしない。以前に佐那から聞いていた話のとおりである。木下に限らず、どうも渓殲同盟はレイが身内に復帰する事を随分望んでいる様子なのを隠そうともしない。レイが戻ってくれると都合が良いという打算的な企みもあるかもしれないが、同盟の次期当主として有力視されている籠樹の事を嫌っている事だけは何となく分かった。

「澄子さん。俺達が今日来たのは、その籠樹について色々聞きたい事があったからで―――」
「何や、俺に用か」

 背後から声が聞こえ、龍人は凍りついたように動けなくなった。澄子を含めた渓殲同盟側の者達も、自分の後方へと顔を向けて驚愕している。何より、この声は聞き覚えがあった。あまりにも不愉快な、心底人を馬鹿にしてるかのような軽々しい態度をヒシヒシと感じる物言い。

「…籠樹…… 」

 龍人は動かず、しかし一切警戒心を緩めることなくその名を呼んだ。
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