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肆ノ章:狂宴
第108話 餞別
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「……手厳しいんやな」
その場にいる誰もが息を呑んでいる中、籠樹が沈黙を打ち破った。
「当たり前だろ。信用できるかよ」
龍人もすぐさま彼に答える。「言う事聞いてもらえないんなら死んでくれ」
と強硬手段に出る可能性こそ否定はできなかったが、どうやらその線についてはハズレだったらしい。籠樹は特に逆上する事も無く、両手を上げてとぼけてみせた。
「信用できんなんてそんな…俺はただ龍人くんが心配なんや。今後龍人君が見た事無い災難ばっか続く事になるで ? そこのお友達連中も、いつまでも龍人君の味方してくれる保証も無い。龍人君にはもっと相応しいパートナーも、生き方もある筈や。そいつらや、ましてや玄紹院の方についててもええ事ない。断言できる。せやから―――」
「よくいたよ。お前みたいな奴。具体的な事一切言わずに危機感煽るだけ煽った上で味方面して寄って来やがって…大体詐欺師だ。最後は全員病院送りだった」
必死とまではいかないが、籠樹はやけに食い下がっていた。しかし彼の発言の何かが癪に障ったのか、龍人は言葉を遮ってでも彼を罵る。
「俺に相応しい友達や生き方がなんなのかなんて、んなもん自分で見つけるよ。少なくともお前には、決める権利も無ければそれを見抜けるオツムもねえだろ。裂田亜弐香の腰巾着が」
龍人は言った。そしてそれがトドメになったのか、籠樹は不満げではあるが小さく頷く。
「そうか」
籠樹は諦めがついたのか、ため息を一度だけつく。一見すると失望のこもった態度であったが、レイはそこに不穏な気配を見出していた。他人を利用し、使い潰す事に余念が無いこの姑息なゴミがこうもあっさり退こうとするのは、何か別の理由がある。
「龍人君がそこまで言うんなら、もう俺も何も出来ん。今日の所は帰るわ。たぶん、今後は定期的に会う事になるやろうけど、気が変わったらいつでも話聞いたるからさ」
「いや、もう二度と来なくていいよお前」
「そうか。まあ…そうなるわな」
名残惜しさの欠片も無い龍人からの別れの挨拶を受け、籠樹は背を向けて土足で上がっていた畳に土を付けながら出て行こうとする。それと同時にスマホを取り出して弄り始めたが、その目は爛々としていたのを義経は見逃さなかった。間違いない。この男は、このやり取りも織り込んでいた。
「龍人!!スマホを奪え !」
義経が叫ぶ。
「手遅れや」
籠樹は笑みを浮かべ、躊躇いなくスマホを後方に放る。そして、突如として足元に現れた黒擁塵の中に身を落として姿を眩ませた。スマホを無視して彼を追いかけようとした龍人だが、既に遅かった。黒擁塵は消失し、それは同時に籠樹の逃亡の成功を意味していた。
「クソ…」
龍人がスマホを急いで手に取り、籠樹が何をしようとしていたのかを探ろうとするが、よりにもよって画面がロックされている。舌打ちをしたくなった直後、巨大な振動が屋敷全体を下から突き上げるように揺さぶった。
「今のは…⁉」
体勢を崩しかけた龍人はすぐに立ち直ってから、周りの目もくれずに入って来た道のりを戻って外へと飛び出した。スニーカーに足を入れようともがきつつ、周辺の様子を探っていたのだが、やがて騒ぎが庭園の方からする事に気付く。
他の者達が追い付くのを待ってなどいられなかった。龍人は開醒を発動し、全速力で騒ぎのする方へと向かうが、そこでようやく異変を目の当たりにする。立ち入った当初は感嘆し、高揚していた庭園が死体と血によって豹変していた。化け猫達の姿からして渓殲同盟の者達だというのはとっくに分かり切っている。隙をつかれ、反撃をする間もなく殺害されてしまったのか、死に顔が見える者達の顔はどれも呆然としているようにも見える。生き残っている者達同士で必死に介抱し合っている様子が何とも痛ましかった。
「アンタ…さっきの客か」
怪我をしている仲間に肩を貸している化け猫が龍人の方へ寄って来た。
「何があった ? それに、さっきの揺れは ?」
「襲撃や。ワシらも正直、なんて説明したらいいのか…状況を整理せんといかん。とにかく一瞬やった。さっきの揺れについてはワシらも分からん。ひとまず報告を―――」
彼らと話していた直後、再び大きな揺れが地を襲う。だが今度はハッキリと分かった。池の方からである。同時に、全身の脈が光り始めた。久々の感触…明らかに強大な存在が潜んでいる。
「周りの奴らも連れて逃げろ。確かめてくる」
龍人はそれだけ伝えると、刀を召喚してから池の方へ歩み寄った。揺れを味わった時の感覚からして間違いない。まるでどこかで起きた衝撃によって生み出された、余波のような振動の広がり方をしていたのだ。少し納まったとはいえ、池の水面も荒れており、この下にいる”敵”が原因だという推測はより強固なものになる。
水中を覗いてやろうか。危険は承知だが、少しだけ更に龍人が近づいてみようとした時だった。水面から勢いよく何かが飛び出してくる。いよいよ身を乗り出そうとしていた龍人にとっては間一髪であった。そして、同時に龍人は正体の一端を目撃する。それは、巨大な腕であった。
その場にいる誰もが息を呑んでいる中、籠樹が沈黙を打ち破った。
「当たり前だろ。信用できるかよ」
龍人もすぐさま彼に答える。「言う事聞いてもらえないんなら死んでくれ」
と強硬手段に出る可能性こそ否定はできなかったが、どうやらその線についてはハズレだったらしい。籠樹は特に逆上する事も無く、両手を上げてとぼけてみせた。
「信用できんなんてそんな…俺はただ龍人くんが心配なんや。今後龍人君が見た事無い災難ばっか続く事になるで ? そこのお友達連中も、いつまでも龍人君の味方してくれる保証も無い。龍人君にはもっと相応しいパートナーも、生き方もある筈や。そいつらや、ましてや玄紹院の方についててもええ事ない。断言できる。せやから―――」
「よくいたよ。お前みたいな奴。具体的な事一切言わずに危機感煽るだけ煽った上で味方面して寄って来やがって…大体詐欺師だ。最後は全員病院送りだった」
必死とまではいかないが、籠樹はやけに食い下がっていた。しかし彼の発言の何かが癪に障ったのか、龍人は言葉を遮ってでも彼を罵る。
「俺に相応しい友達や生き方がなんなのかなんて、んなもん自分で見つけるよ。少なくともお前には、決める権利も無ければそれを見抜けるオツムもねえだろ。裂田亜弐香の腰巾着が」
龍人は言った。そしてそれがトドメになったのか、籠樹は不満げではあるが小さく頷く。
「そうか」
籠樹は諦めがついたのか、ため息を一度だけつく。一見すると失望のこもった態度であったが、レイはそこに不穏な気配を見出していた。他人を利用し、使い潰す事に余念が無いこの姑息なゴミがこうもあっさり退こうとするのは、何か別の理由がある。
「龍人君がそこまで言うんなら、もう俺も何も出来ん。今日の所は帰るわ。たぶん、今後は定期的に会う事になるやろうけど、気が変わったらいつでも話聞いたるからさ」
「いや、もう二度と来なくていいよお前」
「そうか。まあ…そうなるわな」
名残惜しさの欠片も無い龍人からの別れの挨拶を受け、籠樹は背を向けて土足で上がっていた畳に土を付けながら出て行こうとする。それと同時にスマホを取り出して弄り始めたが、その目は爛々としていたのを義経は見逃さなかった。間違いない。この男は、このやり取りも織り込んでいた。
「龍人!!スマホを奪え !」
義経が叫ぶ。
「手遅れや」
籠樹は笑みを浮かべ、躊躇いなくスマホを後方に放る。そして、突如として足元に現れた黒擁塵の中に身を落として姿を眩ませた。スマホを無視して彼を追いかけようとした龍人だが、既に遅かった。黒擁塵は消失し、それは同時に籠樹の逃亡の成功を意味していた。
「クソ…」
龍人がスマホを急いで手に取り、籠樹が何をしようとしていたのかを探ろうとするが、よりにもよって画面がロックされている。舌打ちをしたくなった直後、巨大な振動が屋敷全体を下から突き上げるように揺さぶった。
「今のは…⁉」
体勢を崩しかけた龍人はすぐに立ち直ってから、周りの目もくれずに入って来た道のりを戻って外へと飛び出した。スニーカーに足を入れようともがきつつ、周辺の様子を探っていたのだが、やがて騒ぎが庭園の方からする事に気付く。
他の者達が追い付くのを待ってなどいられなかった。龍人は開醒を発動し、全速力で騒ぎのする方へと向かうが、そこでようやく異変を目の当たりにする。立ち入った当初は感嘆し、高揚していた庭園が死体と血によって豹変していた。化け猫達の姿からして渓殲同盟の者達だというのはとっくに分かり切っている。隙をつかれ、反撃をする間もなく殺害されてしまったのか、死に顔が見える者達の顔はどれも呆然としているようにも見える。生き残っている者達同士で必死に介抱し合っている様子が何とも痛ましかった。
「アンタ…さっきの客か」
怪我をしている仲間に肩を貸している化け猫が龍人の方へ寄って来た。
「何があった ? それに、さっきの揺れは ?」
「襲撃や。ワシらも正直、なんて説明したらいいのか…状況を整理せんといかん。とにかく一瞬やった。さっきの揺れについてはワシらも分からん。ひとまず報告を―――」
彼らと話していた直後、再び大きな揺れが地を襲う。だが今度はハッキリと分かった。池の方からである。同時に、全身の脈が光り始めた。久々の感触…明らかに強大な存在が潜んでいる。
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