ドラゴンズ・ヴァイス

シノヤン

文字の大きさ
76 / 112
参ノ章:激突

第76話 善意による行動

しおりを挟む
「えぇ~…皆さん ! こんにちは !」

 葦が丘地区の町内会長がコンビニの前でお辞儀をすると、その周りに集っていた住人達も返事をしながら小さく会釈をした。住人といっても多様である。昼間は閉まっている飲み屋の店主、ホームレス、嵐鳳財閥から派遣されたサクラ、親子連れ、更にはどう見てもカタギではないガラの悪さが目立つ輩といった具合に混沌としている。

「しかし、財閥もよく派遣したな。こういうのって仕事サボってるって扱いにならねえの ?」

 町内会長が昨今の情勢を憂うしょうもない御高説を垂れている時、龍人は隣にいた颯真へ尋ねた。

「地域への貢献と好感度稼ぎってやつだ。こういうのは業務扱いって事で何人か送り込まれたりすんのよ。金持ってる連中ってのはいつの世も嫌われやすいからな…少しでも良い人アピールしとかないと」
「世知辛いな色々」
「お前だいぶ難しい言葉覚えたな龍人…」

 金持ちなりの苦労を労わる龍人と、彼の些細な成長に感嘆する颯真の更に横では、弥助がウキウキではめた軍手の確認をしつつ、トングを動かして音を立てていた。傍から見れば、どうしてこんなに高揚しているのか意味が分からないとしか言いようが無いのだが、龍人にとっても気持ちが分からなくも無い。いつもはやらない事をして、尚且つ誰にとっても損にならない行為というのはなぜだか清々しい気分で楽しめる物だ。

「―――改めまして、一時間後にこちらで集合しましょう。それでは始め !」

 町内会長の一声で、野次馬達は一斉に散らばって町の清掃に乗り出した。せっせと拾い集める者は決して多くなく、大半は拾ったゴミを見てどんなアホが捨てたのかを勝手に考察し合うか、少しだけ拾いながらも付近の散策をしながら駄弁る事に集中しているばかりである。

「しかし真面目にやらねえな。どいつもこいつも」

 龍人はタイヤに轢かれた惨めな空き缶を指で弄ってから、雑にゴミ袋の中へ放り込む。

「そんなもんだろ、こういう活動って。義務感だよ義務感。それに月一でゴミ集めてたら、もうほとんど残ってねえだろ」

 吐き捨てるように言っていた颯真だが、後で分別が楽だからという理由で律儀に複数個の袋を携えてゴミを拾い集めていた。ツンデレなのか何なのか知らないが、善性とやらを嫌いになれないのか、颯真はこうして時々言動が一致しない事がある。

「でもいつも参加してるんでしょ ? 素直じゃない子…」
「うおっ、キヨさんいたんだ」
「あら、ちょっと嬉しいわね。さん付けしてくれるなんて」

 龍人の方にいつの間にか乗っていたキヨが揶揄い出し、不意打ちを食らって驚いた龍人達は体を少し震わせた。

「てか弥助さんは ?」
「なんかゴミ拾いながらナンパ始めたから、呆れてこっち来ちゃった。しかしあんな奴と関係持ちたいなんて言い出す妖怪がいるなんてね…信じられる ? ゲイのトランスの吸血鬼が弥助に言い寄ってきたのはビックリしちゃった。”ジェシカ”にチクってやろうかしら」
「ああ~…まあ、その人はうん…しゃーない」

 キヨがは笑っていたが、誰の事なのかうっすらと理解していた龍人は苦笑いをして、颯真もセンシティブそうな話題だからと口を噤んでいた。

「ところでジェシカさんって誰 ?」
「あいつのカミさんよ。ヘルズキッチンでダイナーをやってる。あそこのホワイトチョコ・シェイクは本当に絶品だからいつか――」
「ちょっと待って。おっ、やってるやってる」

 キヨの話題が別の物に移り替わろうとした頃、龍人がそれを止めて物陰に隠れ出した。彼らが隠れた寿司屋の建物の三十メートルは先だろうか。兼智がいた。せっせとゴミを集め、時折現れた通行人などに対しても捨てたいゴミなどが無いかを話し掛けている。

「良かったらその…今、ゴミ拾いしてるんで、ゴミがあればお預かりしましょうか ?」
「おお~気が利くね、お兄さん」

 朝帰りらしい酔っ払いが嬉しそうに空になった煙草の箱を受け取り、兼智はお辞儀をしながらそれをゴミ袋に入れた。龍人達は暫く観察をしていたが、それ以降も住人達からゴミを受け取るか、積極的に道端に落ちているゴミを回収し続ける。へばり付いているガムさえも必死にこそぎ取っていた。

「何だよ、女の子の腕へし折る以外にもちゃんと仕事出来るじゃねえか」
「励ましてるのか貶してるのか分かんねえぞ龍人」

 龍人達は問題が無さそうだと判断し、兼智がこちらに気付かない内に立ち去り出した。てっきりふざけるかサボると思って締め上げる準備をしていたが、思っている以上に真面目だったせいで却って拍子抜けしてしまった部分もある。

「しかし…お前もよく連れてこようと思ったな」

 移動した後の休憩がてら、奢ってくれるという事で自販機に立ち寄ってから颯真が切り出した。

「別に俺は来いとか言ってねえよ。人手が欲しいな~って呟いたら、アイツが勝手に来た。それだけ。まあいい事じゃねえの ? これからはあんな風に迷惑かけず生きていけば」

 そう言いながら龍人は缶のサイダーを買い、体に悪そうな大げさすぎる甘味を口と喉に流し込む。どういうわけかあまり嬉しそうにはしてなかった。

「お前も前科持ちだもんな」

 自販機の周りに屯したまま、どうせ同情心による物だろうと考えていた颯真も龍人へ返した。

「バカ、そういうのじゃねえよ。それに…お前人の事言えねえだろ」
「まあ確かに、それなりに無茶苦茶はやってるが―――」

 ただの皮肉か。そう高を括っていた颯真も言い訳を連ねようとするが、その直後に言い放たれた言葉によって、彼の思考と行動は完全に停止した。

「風巡組の初代ボス…知らないわけないよな ?」


※年末年始はお休みをいただきます。また来年お会いしましょう。
※次回の更新は一月十日予定です。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
 現実に疲れ果てた俺がたどり着いたのは、圧倒的な自由度を誇るVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。  選んだ職業は、幼い頃から密かに憧れていた“料理人”。しかし戦闘とは無縁のその職業は、目立つこともなく、ゲーム内でも完全に負け組。素材を集めては料理を作るだけの、地味で退屈な日々が続いていた。  だが、ある日突然――運命は動き出す。  フレンドに誘われて参加したレベル上げの最中、突如として現れたネームドモンスター「猛き猪」。本来なら三パーティ十八人で挑むべき強敵に対し、俺たちはたった六人。しかも、頼みの綱であるアタッカーたちはログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク・クマサン、ヒーラーのミコトさん、そして非戦闘職の俺だけ。  「逃げろ」と言われても、仲間を見捨てるわけにはいかない。  死を覚悟し、包丁を構えたその瞬間――料理スキルがまさかの効果を発揮し、常識外のダメージがモンスターに突き刺さる。  この予想外の一撃が、俺の運命を一変させた。  孤独だった俺がギルドを立ち上げ、仲間と出会い、ひょんなことからクマサンの意外すぎる正体を知り、ついにはVチューバーとしての活動まで始めることに。  リアルでは無職、ゲームでは負け組職業。  そんな俺が、仲間と共にゲームと現実の垣根を越えて奇跡を起こしていく物語が、いま始まる。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

処理中です...