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参ノ章:激突
第92話 学び
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「一人より二人だ」
龍人は武装錬成で刀を生み出しながら言った。
「何より俺はあいつに会った事がある…相手の手札も分かってる…たぶん」
「あー、あかんわ。フラグやそれ。奥の手出されて負けるパターンや」
「やめろ縁起でもない。いくぞ !」
不吉な予言を嫌がり、龍人が駆け出した。レイも後に続いていくが、すぐさま自分の足元に黒擁塵を出現させると、その中に飛び込んで消失する。そんな彼女の事など気にも留めずに、龍人は亜弐香へ斬りかかるが、初手の一太刀はバックステップで躱されてしまった。
亜弐香は袖を捲り、付けていたネクタイを引き千切って投げ捨てる。龍人はさらに踏み込み、続けざまに彼女へ攻撃を仕掛けるが、亜弐香は自らの腕を硬質化させた亜弐香は、彼の攻撃を難なく凌いでいく。一方で少し意外だったのは、武器の強度であった。以前とは違う。固く鋭く、それでいて打ち込んで来る威力も格段に上がっている。しばらく見ない間に鍛え直したのか。
その時、頭上に黒擁塵による靄が現れると、そこからレイが飛び出して来た。青龍刀で頭部を突き刺そうとする魂胆であったが、亜弐香はそれに気付くと龍人の攻撃を防ぐのに使っていた両腕の内、右腕で青龍刀を掴んで止める。だがレイは焦らなかった。自分が決め手になるとは、ハナから思っていなかったのだ。
「それでいい」
龍人は呟いた。すぐさま武装錬成を解除し、再び素早く印を結び直して開醒・尖凝式を両腕に発動する。彼が何かをしてくるというのは、亜弐香も既に気付いており、すかさず残っていた左拳を突き出してくるが、それは龍人も織り込み済みであった。寧ろ、望んでいたかもしれない。
龍人が取った行動、それは敢えて受けるという物であった。どんな強者であろうと、相手の体に攻撃が当たった手ごたえを感じた瞬間は、必ず感情が動く。攻撃が命中した事による安堵と、次の攻撃へ繋げようとするモチベーションの向上、そして攻撃を食らった相手の反応を見たいという願望が僅かに生じる。その一方で、これによって致命的な意識の欠落が生じる事になる。それが防衛に対する意識であった。攻撃を当てた瞬間だけは誰しもが事実上の無防備な状態になってしまうのだ。当然だろう。攻撃を食らったにも拘らず反撃に出て来れる者はそういない。自分の力に絶対的な自信を持っている者ならば猶更であった。
龍人が取った方法は、その思考を利用した物であった。彼女の拳が自分の胴体に当たった瞬間、脱力して少し捩じる。その勢いのまま回転して受け流したのだ。多少のダメージはあるが、まともに食らった時の苦痛に比べれば微々たるものである。何より右腕をレイに封じられ、尚且つ左腕はたった今振り抜いてしまった事で防御へ回す事が出来ない。彼女の胴体が、打ち込んでくれと言わんばかりにがら空きになっていた。今しかない。
焦りは禁物である。間合いに入っていた龍人は、落ち着きを保ったまま拳を彼女の脇腹へと狙う。足で地を蹴り、腰を入れ、そして拳を押し込むように、肘を曲がっていない状態で亜弐香の体へと打ち付ける。脱力しきった状態から一気に力を込め、この動作をほぼ同時に行う事で腕で拳を当てる以上の威力を得られる。それは、発勁であった。開醒により強化された肉体で放たれたこの打撃は、防ぐ体勢を整えられていなかった亜弐香の体を大きく吹き飛ばした。
「やるやん」
レイが地面に降り立った。亜弐香が吹き飛ぶ直前、武器を捨てて彼女の頭を蹴って跳躍した事で、巻き添えを食らう事を回避していた。だが龍人はレイの問いかけには応じず、上手く発勁が決まった事に喜んでいるのか、興奮しきった様子で口角を上げて僅かに震えていた。
「マジで出来た…」
弥助による体力作りと、「無理に正面から打ち合おうとするな」という佐那の教えを基に、試行錯誤を重ねていた事が功を奏している。実戦向きではない技術だとは調べて分かっていたため、ここまで上手く行くとは思っていなかったのだ。
「勝機が見えたって感じか ?」
レイが再び隣に来て言った。
「いや、致命傷にはなってないからあんまり変わんねえ」
そう言い放つ龍人の先には、吹き飛びこそしたが跪く事無く立っている亜弐香の姿があった。ワイシャツを破り捨て、スポーツブラだけの姿になった彼女の脇腹には痣が出来ている。そこからジワジワと肉体を硬質化させ、首を鳴らしてから龍人達を見て笑った。
「でも…本気にさせる事は出来たみたいだな」
自らの顔から笑みは消しながらも、龍人は高揚しながら構え直した。
龍人は武装錬成で刀を生み出しながら言った。
「何より俺はあいつに会った事がある…相手の手札も分かってる…たぶん」
「あー、あかんわ。フラグやそれ。奥の手出されて負けるパターンや」
「やめろ縁起でもない。いくぞ !」
不吉な予言を嫌がり、龍人が駆け出した。レイも後に続いていくが、すぐさま自分の足元に黒擁塵を出現させると、その中に飛び込んで消失する。そんな彼女の事など気にも留めずに、龍人は亜弐香へ斬りかかるが、初手の一太刀はバックステップで躱されてしまった。
亜弐香は袖を捲り、付けていたネクタイを引き千切って投げ捨てる。龍人はさらに踏み込み、続けざまに彼女へ攻撃を仕掛けるが、亜弐香は自らの腕を硬質化させた亜弐香は、彼の攻撃を難なく凌いでいく。一方で少し意外だったのは、武器の強度であった。以前とは違う。固く鋭く、それでいて打ち込んで来る威力も格段に上がっている。しばらく見ない間に鍛え直したのか。
その時、頭上に黒擁塵による靄が現れると、そこからレイが飛び出して来た。青龍刀で頭部を突き刺そうとする魂胆であったが、亜弐香はそれに気付くと龍人の攻撃を防ぐのに使っていた両腕の内、右腕で青龍刀を掴んで止める。だがレイは焦らなかった。自分が決め手になるとは、ハナから思っていなかったのだ。
「それでいい」
龍人は呟いた。すぐさま武装錬成を解除し、再び素早く印を結び直して開醒・尖凝式を両腕に発動する。彼が何かをしてくるというのは、亜弐香も既に気付いており、すかさず残っていた左拳を突き出してくるが、それは龍人も織り込み済みであった。寧ろ、望んでいたかもしれない。
龍人が取った行動、それは敢えて受けるという物であった。どんな強者であろうと、相手の体に攻撃が当たった手ごたえを感じた瞬間は、必ず感情が動く。攻撃が命中した事による安堵と、次の攻撃へ繋げようとするモチベーションの向上、そして攻撃を食らった相手の反応を見たいという願望が僅かに生じる。その一方で、これによって致命的な意識の欠落が生じる事になる。それが防衛に対する意識であった。攻撃を当てた瞬間だけは誰しもが事実上の無防備な状態になってしまうのだ。当然だろう。攻撃を食らったにも拘らず反撃に出て来れる者はそういない。自分の力に絶対的な自信を持っている者ならば猶更であった。
龍人が取った方法は、その思考を利用した物であった。彼女の拳が自分の胴体に当たった瞬間、脱力して少し捩じる。その勢いのまま回転して受け流したのだ。多少のダメージはあるが、まともに食らった時の苦痛に比べれば微々たるものである。何より右腕をレイに封じられ、尚且つ左腕はたった今振り抜いてしまった事で防御へ回す事が出来ない。彼女の胴体が、打ち込んでくれと言わんばかりにがら空きになっていた。今しかない。
焦りは禁物である。間合いに入っていた龍人は、落ち着きを保ったまま拳を彼女の脇腹へと狙う。足で地を蹴り、腰を入れ、そして拳を押し込むように、肘を曲がっていない状態で亜弐香の体へと打ち付ける。脱力しきった状態から一気に力を込め、この動作をほぼ同時に行う事で腕で拳を当てる以上の威力を得られる。それは、発勁であった。開醒により強化された肉体で放たれたこの打撃は、防ぐ体勢を整えられていなかった亜弐香の体を大きく吹き飛ばした。
「やるやん」
レイが地面に降り立った。亜弐香が吹き飛ぶ直前、武器を捨てて彼女の頭を蹴って跳躍した事で、巻き添えを食らう事を回避していた。だが龍人はレイの問いかけには応じず、上手く発勁が決まった事に喜んでいるのか、興奮しきった様子で口角を上げて僅かに震えていた。
「マジで出来た…」
弥助による体力作りと、「無理に正面から打ち合おうとするな」という佐那の教えを基に、試行錯誤を重ねていた事が功を奏している。実戦向きではない技術だとは調べて分かっていたため、ここまで上手く行くとは思っていなかったのだ。
「勝機が見えたって感じか ?」
レイが再び隣に来て言った。
「いや、致命傷にはなってないからあんまり変わんねえ」
そう言い放つ龍人の先には、吹き飛びこそしたが跪く事無く立っている亜弐香の姿があった。ワイシャツを破り捨て、スポーツブラだけの姿になった彼女の脇腹には痣が出来ている。そこからジワジワと肉体を硬質化させ、首を鳴らしてから龍人達を見て笑った。
「でも…本気にさせる事は出来たみたいだな」
自らの顔から笑みは消しながらも、龍人は高揚しながら構え直した。
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