ドラゴンズ・ヴァイス

シノヤン

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参ノ章:激突

第93話 墜落

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 仁豪町の夜空を、銀翼の翼が疾走する。ゴーグルを付けたまま、颯真は目の前を飛行し続けるかつては兼智だった怪物の追跡に神経を研ぎ澄ませていた。空を斬り裂き、体にぶつかって来る気圧に耐えながら標的を必死に追いかけるが、このままでは被害が広がる一方だというのはよく分かっていた。

 兼智は絶叫の如き鳴き声と共に、黒く巨大な翼を広げて飛行するが、鳴き声と同時に身体から閃光が迸った。稲妻が柱の如く地面へと叩きつけられ、轟音と共に街の景色を一変させていく。街灯や電光掲示板、ネオンが次々と破壊され、放電を更に拡散させていく。逃げ遅れた住民達の中には、空や見慣れた街並みから浴びせられる電撃を食らい、目を背けたくなるような姿に変えられてしまう者までいた。

 電線や変圧器を始めとした設備も破壊され、街から光が失われつつある。見えるのは雷によるものか、またはどこかで起きているボヤ騒ぎによる火災のみであった。被害を止めなければならない。

「解析終わったか⁉」

 颯真が叫ぶと、装着しているゴーグルのグラスにインターフェースが次々と浮かび上がる。

『リサーチ完了。攻撃パターンを把握。高速での飛行及び、推定二十万キロワットの電圧による放電』
「他に確認できた事項は ?」
『一度放電を行ってから再度実行するまでに大幅な時間を要する模様。約三分』
「よし、狙うならそこだ。放電を行えなくなる瞬間に攻撃をしたい。考え付くアイデアをくれ」
『考察しました。その一、放電が行えなくなった頃合いで体当たりをする。その二、ビルを倒して倒壊に巻き込む。その三、囮で注意を引いて狙撃』
「三が一番マシだな。それで行く。近くを飛行している財閥のドローンの指揮権を俺のIDに設定し直してくれ」

 空を飛び、放電を躱しながら、イヤホンに聞こえて来る音声アナウンスへ、颯真は大声で喋り続けた。ゴーグル越しの視界から情報収集を行い、彼にアイデアの提示を行う戦略サポート用のAI、精度はあまり良くないが一人で頭を捻り続けるよりはマシだろう。颯真は準備をAIに行わせ始めると、動きを止めて握っていた銃を構えた。

「まずは鬼ごっこの役替えと行こうぜ」

 呟いた直後、引き金を引くと弾丸が放たれる。兼智に命中すると、彼もまた動きを止めて颯真の方へと向きを変える。そして怒声を上げながら突っ込んできた。

「いらっしゃいませ」

 軽口を叩き、颯真は一目散に逃亡を開始する。狙撃をするのであれば一撃で決める必要がある。それも生半可なものでは無い。強烈な一撃を、急所に叩き込まなければ。

『電磁エネルギー反応を確認。放電が来ます』
「待機させていたドローンを突っ込ませろ !」
『了解』

 颯真の指示を基に、AIによってリミッターを外されたドローンたちがミサイルの如く高速で突撃を敢行する。普段は財閥が街の監視に使っている代物だが、念のために備えさせていた緊急用の機能であった。当然、世間には公表していない。放電を行いかけていた兼智だが、自身へ次々と強烈な勢いでぶつかって来るドローンに苛立ち、彼らの群れを相手に暴れ出した。その隙に颯真は離脱し、ビル群の間へと逃げ込む。

「俺のいる場所まで連れてこい」
「了解。ドローンによる誘導を開始」

 ドローンたちは、蚊トンボの様に動き回って兼智を翻弄する。あまり深く思考は出来ないせいか、兼智はその挑発に乗って彼らを追いかけ回し始めた。翼ではたき落とし、時には放電を行ってドローンたちを藻屑へとしていくが、やがて二つ隣り合わせでそびえ立っているビルの方へと導かれていく。最後の一機を破壊し、自らに弾丸をぶつけた鴉天狗を追いかけようとした直後、ビルの谷間から気配を感じた。

 対異能生命体用特殊戦闘弾を対物ライフル向けの物に仕上げた弾薬を装填し直した颯真は、義翼を大幅に変形させると、ビルの間同士に綱渡りの如く伸ばして食い込ませた。更に枝分かれした義翼の一部が彼の腕を固定し、手ブレを抑え込ませてくれている。兼智が気付いた時にはもう遅かった。ドローンを闇雲に攻撃していたせいで、相打ち覚悟での放電も今は出来ない。

「ごめんな」

 そんな彼へ颯真は一言添え、迷うことなく引き金を引いた。 弾丸は頭部へと食い込み、頭蓋と脳髄を無慈悲に斬り裂き、壊し、破裂させた。もはや、頭部の上半分が原型を留めない状態になってしまうと、弾丸を食らった反動で上体が後方へ反れる。そのまま力なく、動かなくなった翼に包まれながら、眼下に広がっている灯りの消えた街の中へと落ちて行った。

「織江、財閥の職員に連絡して死体の回収をする様に頼む」
「既に手配済みです」
「……そうか」

 いつもの如く、仕事が早くて助かると褒めるはせず、颯真は神妙な返事をして電話を切った。自分が手段を間違えなければ、彼もまた狂う事は無かったのだろうか。利用するだけして、最後は自らのエゴによって殺した。その事実が、颯真の気分をどん底に突き落としてしまっていた。
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