逆転スキル【みんな俺より弱くなる】で、勝ち組勇者パーティーを底辺に堕とします

鬱沢色素

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三章

25・夢が壊れる

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 夜。


 ゴソゴソ——。


 なにやら物音が聞こえる。
 俺はその時、とっくに目が覚めていたが、あえて寝たふりをして物音の正体を確かめた。

「こんな街……もういられない……エリオットのもとに帰る……」

 ゴソゴソという物音と一緒に、そんなうめいているようにも聞こえる声も聞こえてきた。
 そいつはやがて、宿屋の扉を開こうとして。


「おい、待てよ」


 起きて、後ろからそいつの背中を思い切り蹴ってやった。

「ぐああああああ!」

 壁に叩きつけられるそいつ。

「ぐすっ……ぐすっ……どうして、私がこんな目に……」

 そいつは涙を流しながら、地面にうずくまった。
 俺はそいつの髪を持ち、

「なに逃げようとしてやがんだ、サラ」

 とそいつ——サラに問いかけた。

「もう私はこの街にはいられない。この街の人達にとって、私は悪者なんだ……全部、全部貴様のせいなんだ」
「そうとも言えないと思うがなあ?」

 元々、街の人達もサラのことをあまり良いようには思っていなかったっぽいし。
 ただ『あの勇者エリオットと旅をして、魔王を打倒した』という話に惹かれていただけ。
 既にエリオットの愛人枠……しかも弱いことが判明してからは、みんなはサラを蔑むような目で見ていた。

「お前はそういうところが分からないから、いけないんだ。自分の悪いところ考えてみろよ?」
「わ、私は悪くない。全部貴様のせいなんだ」
「やれやれ」

 呆れてものも言えなくなってしまう。

「アルフ。どうしたの?」

 そうこうしているうちに、イーディスも起きてしまった。

「こいつ、夜逃げしようとしてたんだ」
「夜逃げ? 椅子に縛り付けておいたんじゃないの?」

 俺とイーディス、そしてサラは同じ部屋で寝泊まりしている。
 もっとも、サラは椅子に縛り付けているので、寝泊まりしていると言われれば謎だが……。
 あえてサラを野宿させるのも良いと思った。
 俺がそうであったように。

 しかしあえて同じ部屋にいさせて、恐怖を与え続けるという方がこいつが苦しむと考えたのだ。

「こんな好待遇なのに、お前はなにか文句があるのか?」
「…………」

 サラは口を閉じたまま。

 もちろん、ただ椅子に縛り付けていただけじゃない。
 ご飯も食べさせないと可哀想なので、残飯を床に落としてサラに食べさせた。

 その時は椅子から解放してやるのだが、両手は縛ったまま。
 なので犬のように床に落ちた残飯を食べていた。
 後は腹が立ったら、サラの顔を殴った。

『ああ~、なんかむかつくな!』

 とテーブルをドンと叩くと、サラが「や、止めてくれぇ」とビクビク震えて体を縮ませていた。
 その姿を見ると、あまりに愉快になってやっぱり殴ってしまったがな。

「まあ……ちょっと可哀想になってな。わざと縛り付けを緩くしておいたんだ。こんなに優しい俺なのに、逃げ出そうとするなんてお前は本当にダメだなあ?」
「ひっ……ご、ごめんなさい」

 サラが震えて、頭を抱えた。

 もちろん『可哀想』っていうのは嘘だ。嘘に決まっている。
 ただ縛っている縄をちょっと緩くしておいたら、こいつは夜逃げを敢行すると考えたのだ。
 結果的に計算通りに夜逃げしようとした。

「でも——やっぱり俺は優しいから、お前の夜逃げをサポートしてあげる!」
「えっ……?」

 サラの顔が一瞬明るくなる。

「でも手ぶらだったら、道中大変だろう? お前、弱いんだし。だから俺からプレゼントをあげるよ」

 とサラにネックレスを手渡した。

「ど、どういうつもりだ……?」
「おいおい、俺を疑うつもりかよ!」
「そ、そんなわけじゃ」
「そのネックレスにはある魔法が付与されてるんだ! 嘘じゃないぜ? 早くネックレスを付けたサラの姿が見てみたいなあ!」
「…………」
「早く付けろって言ってんだ!」
「わ、分かった! 付けるから、もう殴らないでくれえ……」

 サラは恐る恐るといって付きでネックレスを持った。
 そしてゆっくりと首にかける——。

「あああああああああああああああ!」


 その瞬間であった。
 サラの口から獣のような慟哭どうこくが発せられる。

「な、なんだこれはあああああああ! お、お腹が熱い? おかしい。貴様、これはなんなんだ!」
「ハハハ! 付けやがったな。このバカが!」

 高笑いをする。
 宿屋は全室貸し切ってるし、誰も助けはこない。
 無論、他の宿泊客がいたとしてもサラを助けるとは思えないがな。

「熱い熱い熱い!」

 サラがお腹を押さえて、床を転げ回る。

「体がおかしい……なにかがおかしい……! このネックレス……クッ、はずれない! どう頑張ってもはずれない! まずい、お腹が燃えるように熱い! ああああああああああ!」
「ハハハ! イーディス、愉快だよなあ?」
「うん、とっても愉快」

 右手ではお腹を押さえ、左手ではネックレスを必死にはずそうとしているサラ。
 この世のものとは思えない痛みと熱さが、腹部に襲いかかる……とあの行商人からは聞いていた。

「ああああああああ! 殺してくれ! 早く! 頼む!」
「はあ? 俺は優しいんだぜ? 殺すなんて真似、出来るわけないだろうが」
「頼む! 殺して殺して殺してくれ!」

 殺してくれ、と叫ぶサラを俺はただ笑って見ていた。

 それから三十分くらい。
 ただただサラは地獄の苦しみを味わっていた。
 やがて熱さが収まったのだろうか、サラの動きがだんだん落ち着いていった。

「しゅーっ、しゅーっ、しゅーっ……」

 息を吐き続けている。
 サラの髪は乱れており、顔は脂汗と涙でびっしょびっしょ。
 あわれもない姿であった。

「何故……このネックレスは、はずれないんだ……?」
「もう一生外れないよ。だってそのネックレス。のアイテムなんだからな」
「呪い……」

 それを聞いて、真っ青な顔がさらに青くなったサラ。

「ちょっとお腹、見てみな」

 と俺はサラの上着をめくった。
 するとお腹のところに、黒い紋章のようなものが刻まれていたのだ。

「これは……?」
「『破宮はきゅうの印』と呼ばれるものだ」
破宮はきゅうの印……ま、まさか……!」

 その名前を聞いて、サラは心当たりがあったんだろう。

 破宮の印。

 そう——このネックレスを女性に付けると、子宮が燃やされてしまうのだ。
 しかも一度付けるとはずれない。
 はずすためには、かなり高位の治癒士が必要になってくるのだが……解呪出来るのは、マルレーネか大聖堂の教皇くらいだろう。
 その二人は仲良く弱くなってもらってるので、サラは一生このままだ。

 つまり……。

「お前は子どもが産めない体になった、ということだ」
「そ、そんな……」

 サラが愕然とする。
 サラの小さな頃からの夢、お嫁さん。
 子どもを産むことが全てとは思えないが……少なくても、サラが夢としていた将来がなくなってしまったのだ!

「もう、私は幸せになれない……? 私の体は一生このまま?」
「お前、俺を虐げておいて普通の幸せになろうと思ってたの? とんだ笑い話だな」

 そして胸くそ悪くなる。

 だが、絶望しぽろぽろと涙をこぼしているサラを見ると、心がすーっと軽くなっていくようであった。

「じゃあバイバイ。エリオットのところに戻れよ」
「私は……エリオットのところに戻っても、彼は私を受け入れてくれるんだろうか? 私と結婚してくれるんだろうか……?」
「しないに決まってるだろ」
「えっ……?」
「そんな体になってなくても、エリオットはお前と結婚しない。よく考えてみろ。別にエリオットはお前のことが好きじゃない。美しい女性だったら誰でもいいんだ。女を抱き放題の身分で、お前と結婚する必要がどこにある?」
「だが! その中でもエリオットは私を選んでくれた! 私のことが一番好きと言ってくれたんだ!」
「そんなもん、嘘に決まってるだろ。知ってるか? エリオットってお前等——マルレーネとか以外の女とも遊んでるんだぜ? フェリシーも知らないうちに、堕としてただろうが」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! 聞きたくない!」
「そうか。なら良いや」

 俺はサラの尻を蹴って、部屋の外に出す。

「今度こそバイバイ。夜逃げは見逃してやるよ。好きなところに行け」
「ひゃひゃひゃ……! エリオットは私のことを好きでいてくれるはずなんだ……エリオットは私のことがきっと好き。うん、そうに決まっている。エリオットが他の女と喋っていたら、殺してしまえばいいんだ。そうすればエリオットは私しか見なくなる……ひゃひゃっ!」

 おっ、サラもとうとう壊れてしまったか。

 ハハハ! マルレーネの時も思ったけど、復讐相手が壊れていくのを見るのは楽しいなあ!
 まあサラのいう『他の女』を殺そうとしても、返り討ちに遭ってしまうだろうがな。

「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
「うるせえ。さっさとこの街から出て行きやがれ!」

 最後にサラを思い切り蹴って、扉を閉めた。

「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」

 扉の向こうからは、サラの狂ったような笑い声が聞こえていた。

 しかしだんだん遠くなっていく。
 出て行ってくれたようだ。

「アルフ」

 振り返ると、イーディスが丸い瞳を向けていた。

「これであの女戦士の復讐は終わり?」
「イーディス、お前はなにを期待してる?」
「これで終わりにしたくない」
「そうだな。もちろん、これで終わりじゃないよ」

 マルレーネの時もそうであったが、俺の復讐はここからがきもだ。
 肉体的にも精神的にも相手を破壊する。
 さらに弱くなってしまってるせいで、相手は死ぬよりも辛い底辺生活を送ることになるのだ。

 サラの苦しみはまだまだ続く。
 それを想像するだけで、涎が零れてきそうであった。


「アルフ。次の相手は?」

 イーディスが声を弾ませ問うた。

「待たせたな、イーディス。次の相手は——」

 俺は声の震えをなるべく押さえて、冷静にこう告げた。

「俺の幼馴染みだった——フェリシーだ」
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