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パスタの国の住人
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仕事を終えて玄関の鍵を回すと、真っ暗な部屋がいつものように出迎えた。
スーツの上着を脱ぎながら、炊飯器に手を伸ばすが、すぐに止めた。
腕時計は午後七時二十分を表していた。
今日も腹が、ぐう、と鳴った。胃袋が食べ物を求めている
炊飯器の「早炊き」ボタンを押せば、炊きあがりは午後八時。一時間近くも待てない。
追い討ちをかけるように、再び腹が鳴った。
お腹はすでに限界を告げているのだ。
台所の引き出しから、袋入りのパスタを取り出す。
茹で時間は七分。
その間にレトルトのカルボナーラソースを湯煎にかければ、十五分後には夕飯が完成する。
速さは正義だ。
いつからか、我が家の主食はパスタになった。
昔は米を炊いていた。
炊きたての白飯に味噌汁、焼き魚。
そんな食卓が懐かしく思えることも、たまにはある。
けれど今の俺には、そんな余裕もないし、時間もない。
そして、何よりも米が高すぎた。
テレビをつけると、夜のニュースは相変わらず米の話題だった。
「かつては国民の主食だった“米”が、今や贅沢品となっています」
レポーターの後ろでは、スーパーの米売り場でため息をつく主婦たちが映っている。
「週に一度しか米が炊けない」
「子どもが白飯を恋しがって泣く」
そんな人々の声に、スタジオのコメンテーターたちも眉をひそめていた。
俺はその映像の中で、嘆く人々の姿を見ながら、ソースが絡んだパスタを啜る。
熱が口の中を走り、胃袋に落ちていく。
今日もうまい。
人々が米に執着する事に対して「気の毒だな」と思う反面、「まあ、仕方ないよな」とも思う。
米の美味さもわかるが、俺にはパスタがある。
早くて、安くて、腹が満たされる。
一人暮らしの俺には、それで十分だ。
ニュースの音声が遠のく。
画面の中では誰かが「米文化が消える」と嘆いていた。
だけど――たった今、俺の食卓には米はなかった。
もう長いこと、そこにはいない。
「パスタの国の住人になっちまったな、俺も」
思わず笑って、フォークを置いた。
今日も、腹は満たされた。
でも、心のどこかが、少しだけ空いたままだったが、気にしない事にした。
スーツの上着を脱ぎながら、炊飯器に手を伸ばすが、すぐに止めた。
腕時計は午後七時二十分を表していた。
今日も腹が、ぐう、と鳴った。胃袋が食べ物を求めている
炊飯器の「早炊き」ボタンを押せば、炊きあがりは午後八時。一時間近くも待てない。
追い討ちをかけるように、再び腹が鳴った。
お腹はすでに限界を告げているのだ。
台所の引き出しから、袋入りのパスタを取り出す。
茹で時間は七分。
その間にレトルトのカルボナーラソースを湯煎にかければ、十五分後には夕飯が完成する。
速さは正義だ。
いつからか、我が家の主食はパスタになった。
昔は米を炊いていた。
炊きたての白飯に味噌汁、焼き魚。
そんな食卓が懐かしく思えることも、たまにはある。
けれど今の俺には、そんな余裕もないし、時間もない。
そして、何よりも米が高すぎた。
テレビをつけると、夜のニュースは相変わらず米の話題だった。
「かつては国民の主食だった“米”が、今や贅沢品となっています」
レポーターの後ろでは、スーパーの米売り場でため息をつく主婦たちが映っている。
「週に一度しか米が炊けない」
「子どもが白飯を恋しがって泣く」
そんな人々の声に、スタジオのコメンテーターたちも眉をひそめていた。
俺はその映像の中で、嘆く人々の姿を見ながら、ソースが絡んだパスタを啜る。
熱が口の中を走り、胃袋に落ちていく。
今日もうまい。
人々が米に執着する事に対して「気の毒だな」と思う反面、「まあ、仕方ないよな」とも思う。
米の美味さもわかるが、俺にはパスタがある。
早くて、安くて、腹が満たされる。
一人暮らしの俺には、それで十分だ。
ニュースの音声が遠のく。
画面の中では誰かが「米文化が消える」と嘆いていた。
だけど――たった今、俺の食卓には米はなかった。
もう長いこと、そこにはいない。
「パスタの国の住人になっちまったな、俺も」
思わず笑って、フォークを置いた。
今日も、腹は満たされた。
でも、心のどこかが、少しだけ空いたままだったが、気にしない事にした。
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