終生飼育は原則ですから

被保護編 338年

338年1月8-1

　男が顔を殴った。これも来るのは見えたので、少し受け流すことに成功。しかし痛い。顔を殴られるってこんなに痛いの？
　私は本気で殴られたことがない。フルコンタクト系はやっていない。当たっちゃったことはあるけど、本気で当てられるとこんなに痛いんだ。
　ごふ。腹蹴られるとこんなに痛いの。やっぱり少しは受け流したけど中身吐く。胃が空だから涎と胃液だけ。いや胃液まで出てないな。苦くない。

　続けていろいろ殴られ蹴られているけど、この人、手加減してないか？
　いやもう胃液は吐くし口も口の中も切っているけど、決定的に危険な一撃がない。顔は鼻も折れていないし歯も折れていない。内臓もそれほどダメージを受けていない気がする。

　蹴るときに足首固定でつま先をめり込ませるんじゃなくて、ボールを蹴るみたいに足の甲で蹴っている。
　自分から飛ぶのに追加して派手に蹴られて、壁にぶつかったり床を転がったりしているから打撲はひどいけど、打撲さえ治れば普通に動けそう。今の時点ならね。

　まあ賢い方法だよ。ソサイゾの命令には従い、けれど自己弁護の余地も残す。レイサスに主導権が移った時に言い訳できる。
　あああレイサスが正しかったのかな。だけど言う通りにしたら、家から一歩も出られなさそうだし、出るときは護衛をぞろぞろ引き連れることになりそう。それは無理だ。

　男もラッシュはしない。私が苦しんで協力しますと言わなくてはいけないから、胃液を吐いているときは黙って見ているし、強打して苦しんでいる時も続けない。

　だからなのか。現実感がないからなのか。あまり怖くない。まじめに生きていない人はきちんと死ねないとか本で読んだ気がする。今の私はこの世界で生きている実感がないからな。