終生飼育は原則ですから

被保護編 339年

339年10月11-1

　自分より遥かに年下の、しかも女に、教えを受けるとは思わなかった。
　どんな分野の事もよく知っている。彼女と話すと、初めて聞く事も、知っている事についても深く考えられる。
　彼女は早くランリスの一件を片付けて帰りたい。
　どんな話題からでもヘラート村に繋げられる話術は見事で、楽しんだあまりに引き伸ばしてしまった。

　常にレイサス王子が側にいる。彼女は迷惑そうだ。他の人間に向ける笑顔が、王子に対しては少し曇る。
　常に、恋人同士には見えない。
　彼女は常に一定の距離を置こうとしている。

　この短期間で、レイサス王子に熱を上げた女は多い。
　王太子が声を掛ければ、大抵の女は喜んで従うだろう。婚約者はろくに見ず、離れようとしているが。
　だが王太子には、彼女の部屋に入る権利がある。

　銀行か。我が国が協調すれば出来なくはない。
　しかし不可能だ。
　今の状態でそこまで手は回らない。出来る人間が必要だ。彼女が。
　だが彼女を奪えば、イユリスは敵対する。協調は出来ない。

　彼女はイユリスよりもソファリスに必要だ。王太子よりも私に。
　奪う方法はある。おそらく王太子も使った方法だ。
　感情に訴えるのではなく、損益を比較させる。イユリスよりもソファリスに残った方が利益が大きければ、彼女は残る。
　違うな。イユリスよりもソファリスに残った方が損失が少ない。

　彼女が一人になるのは出発直前しかない。
　想定はしていなかったが、曲を望んだのは良い注文だった。