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被保護編 343年
エピローグ
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あの家で一年過ごした後、各国、各地を移動した。主に農民の生活を少しでも向上させるために。
農業指導もした。商品開発もした。行政の介入も誘導した。行政は私の担当だった。彼女は表には二度と出なかった。
ソウシュウとも連絡は絶やさなかった。彼には恩がある。
どこにいるか、何をするつもりかを伝えると助力があった。
ソウシュウとともやが会うことはなかった。娘とも一度も会わなかった。彼女は徹底している。
ともやは何度も私に謝った。国を捨てさせて申し訳ないと言ったが、私の方が多く謝罪しなければならない。私は世界を奪った。
限がないので謝るのはどちらも止めた。
彼女は変わらなかった。私にも寄りかかろうとはしなかった。私が手を離せば一人で生きていく。私に懐きはしたが、最後まで野生を忘れない獣のようだった。
それでも、私は彼女にとって特別だった。それは確信している。
彼女に言い寄る男はいたが、彼女の眼中には入らなかった。私だけが許されていた。
野生は厳しい。自由だが苛酷だ。私の側の方が安全に生きていける。それを受け入れてくれた。
幸せな日々だった。
日本にいた時のように身分に囚われずにやりたい事を出来た。
日本にいた時のように、彼女が私を養うため為に必死で働く必要も無かった。
しかし心労は大きかった。
天候不順や無知故に追い詰められた民に責められた事もあったが、私達はどこに行ってもいい。どこにでも行ける私達が敢えて残り、彼女が一緒に苦労する事で受け入れられた。
どこに逃げてもいいが、ともやは残した問題から逃げられない。
私が出来るのは彼女の腕を引いて逃げ出す事ではなく、彼女を支えて問題を解決する手助けをする事だ。
各地には彼女の逸話が残っている。それはいつか伝説になるだろう。
晩年はコパロファカド周辺の改善に取り組んだ。
なぜそこを選んだのか聞くと、コンブと醤油があるからだと彼女は言った。
コンブと醤油、それと味噌は世界に広がり根付いている。
コパロファカドにはもう魔法はなかった。何も伝わっていなかった。
私はそれに安堵した。
卑怯だが、彼女を再び失いたくなかった。自分で行く気にならなくても、残っていればまた誰かが利用しようとするかもしれない。
謎は解けない。だがお蔭で彼女は一生を私と共にした。
彼女は先に旅立った。いかせたくなかった。まだ早い。
だが彼女は、ようやく一人になれたと喜んでいるかもしれない。
ソウシュウと会っているなら嫉妬する。だがその時間は長くない。
もうすぐ、また会えるだろう。
出来れば笑って迎えてほしい。
仕方がないと少し諦めているような、けれど温かく見守るような笑顔で、私を待っていてくれないか。
私はあなたと一緒ならどの世界にでも行く。あなたがいる世界に私もいく。あなたが許しても許さなくても側にいる。だが許してくれるだろう。
もう二度と伸ばすことのなかった彼女の黒い髪が、目の裏に見える。
私も今いく。
農業指導もした。商品開発もした。行政の介入も誘導した。行政は私の担当だった。彼女は表には二度と出なかった。
ソウシュウとも連絡は絶やさなかった。彼には恩がある。
どこにいるか、何をするつもりかを伝えると助力があった。
ソウシュウとともやが会うことはなかった。娘とも一度も会わなかった。彼女は徹底している。
ともやは何度も私に謝った。国を捨てさせて申し訳ないと言ったが、私の方が多く謝罪しなければならない。私は世界を奪った。
限がないので謝るのはどちらも止めた。
彼女は変わらなかった。私にも寄りかかろうとはしなかった。私が手を離せば一人で生きていく。私に懐きはしたが、最後まで野生を忘れない獣のようだった。
それでも、私は彼女にとって特別だった。それは確信している。
彼女に言い寄る男はいたが、彼女の眼中には入らなかった。私だけが許されていた。
野生は厳しい。自由だが苛酷だ。私の側の方が安全に生きていける。それを受け入れてくれた。
幸せな日々だった。
日本にいた時のように身分に囚われずにやりたい事を出来た。
日本にいた時のように、彼女が私を養うため為に必死で働く必要も無かった。
しかし心労は大きかった。
天候不順や無知故に追い詰められた民に責められた事もあったが、私達はどこに行ってもいい。どこにでも行ける私達が敢えて残り、彼女が一緒に苦労する事で受け入れられた。
どこに逃げてもいいが、ともやは残した問題から逃げられない。
私が出来るのは彼女の腕を引いて逃げ出す事ではなく、彼女を支えて問題を解決する手助けをする事だ。
各地には彼女の逸話が残っている。それはいつか伝説になるだろう。
晩年はコパロファカド周辺の改善に取り組んだ。
なぜそこを選んだのか聞くと、コンブと醤油があるからだと彼女は言った。
コンブと醤油、それと味噌は世界に広がり根付いている。
コパロファカドにはもう魔法はなかった。何も伝わっていなかった。
私はそれに安堵した。
卑怯だが、彼女を再び失いたくなかった。自分で行く気にならなくても、残っていればまた誰かが利用しようとするかもしれない。
謎は解けない。だがお蔭で彼女は一生を私と共にした。
彼女は先に旅立った。いかせたくなかった。まだ早い。
だが彼女は、ようやく一人になれたと喜んでいるかもしれない。
ソウシュウと会っているなら嫉妬する。だがその時間は長くない。
もうすぐ、また会えるだろう。
出来れば笑って迎えてほしい。
仕方がないと少し諦めているような、けれど温かく見守るような笑顔で、私を待っていてくれないか。
私はあなたと一緒ならどの世界にでも行く。あなたがいる世界に私もいく。あなたが許しても許さなくても側にいる。だが許してくれるだろう。
もう二度と伸ばすことのなかった彼女の黒い髪が、目の裏に見える。
私も今いく。
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