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ご主人に会えてよかった
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ひとまず暗殺者集団は帝国へと帰した。
モンスターたちと共に宣戦布告したシャルロットは討伐したことにしてもらう。
もちろん奴隷となったことは秘密のままだ。
奴隷のまま帝国に潜り込んだ暗殺者たちは今後、俺たちの切り札になるだろう。
俺たちもまた要塞都市へと帰ってきた。
部屋ではシャルロットがパンドラの擬態能力に感激していた。
「テントから御主人様の魔剣まで何にもなれるんですね。すばらしいです」
「いやーそんなことあるけどナ」
「なんにでもなれるということは、犬にもなることができるのですか?」
「もちろんだゾ」
そういってパンドラが黒い犬の姿になる。
シャルロットがますます目を輝かせ、犬となったパンドラを抱き上げた。
「ああ! この毛つや、触感、どれをとっても完全な犬ですわ! なんて完璧な変身なんでしょう。この力があればより御主人様にも喜んでもらえる……」
そうかなあ、御主人様は喜ばないんじゃないかなあ。
いや期待に満ちた眼差しを向けられてもな。
確かに俺は猫派よりは犬派だが、その前にそもそも人間派だからな。
その日の夜。
俺は部屋でひとりこれからの作戦を考えていた。
考えていたピースはすべてそろった。
あとは最後の行動を起こすだけ。
だからこそ慎重に行きたい。
最後の最後ほど油断して失敗しやすいからな。
そのとき、部屋の扉が小さくノックされた。
控えめな音は、なんとなくためらっているように感じさせる。
誰だろう。
エリーならもっと遠慮なく叩くだろうし、なんならノックすらせずに入ってきそうだ。
疑問に思いながら開くと、そこにいたのは褐色の女の子だった。
「ご主人、ちょっといいカ」
「パンドラか。どうしたんだ」
部屋に招き入れてやる。
どうやらひとりらしい。
どうしたんだと思ったら、ヒヒッと悪戯っ子のような笑みを浮かべて俺を見上げた。
「約束はちゃんと覚えてるよナ」
「うっ……ああ、もちろん覚えてるよ。助けてもらったからな」
結界で弱っている中で剣に変身してもらっただけでなく、相手の奇襲を防いでもらったからな。
パンドラがいなければ俺は負けていたかもしれない。
パンドラがいつも「お礼は夜に返してくれ」と言ってるのは、まあそういうことだ。
でも、いつもならエリーとかも一緒に来るんだけどな。
多い方が楽しいとか言うのがいつものパンドラなのだが。
「確かに、そうなんだけどナ……」
いつも底抜けに楽観的なパンドラにしては、声が小さい。
なぜだがモジモジとしながらうつむきがちに視線を落としている。
「オイラもわからないんだ……。ただ、ご主人を独り占めしたいって、どうしても思ってしまっテ……それで一人で来たんダ……」
そうして、ゆっくりと顔を上げて俺を見つめてきた。
「なあ、これってやっぱり変なことなのカ……?」
「……いや、変じゃないよ」
たぶん、普通のことだ。
だけど俺にそれを口にする資格はない。
だからせめてできる限り優しくパンドラの髪を撫でてやった。
幼い顔がくすぐったそうに笑う。
「ご主人の手、あったかいナ」
「パンドラの体もずいぶん熱くなってるぞ」
「どうしてかわかるカ?」
「……いや」
俺が答えると、パンドラが細い腕を伸ばして俺の首にしがみつく。
そうして、赤くなった顔で満面の笑みを浮かべて見せた。
「だったらわかるまでいっぱい恩返ししてくれよナ」
◇
「ふにゃぁ~~……」
パンドラがベッドに沈みこむようにして倒れ込んだ。
「ご主人はいつもすごいのだナ……」
「そんなことはないと思うけど」
今日はほんの3回だけだしな。
パンドラがうつぶせになりながら、顔だけを横に向けて笑顔になる。
「うまく言えないけど、オイラご主人に会えてよかっタ」
「ああ。俺もパンドラに会えてよかったよ」
「ほんとうカ!?」
ガバッと勢いよく起き上がってたずねてくる。
「ほんとうだよ。パンドラがいなかったら、きっと俺はここにはいなかったしな」
今日のことだけじゃない。
シェイドとの戦いのときにも、魔剣として大いに助けてもらった。
その他にも色々なところで何度も助けてもらっている。
「パンドラに会えたことは俺にとっても幸運だったよ」
「えへへ……」
年相応の幼い笑みを浮かべながら、パンドラが俺の体にしがみつく。
そのまま幸せそうに寝息を立てはじめた。
「娘が出来たらこんな感じなのかな……」
小さな頭をなでながら、なんとなくそうつぶやいてしまう。
その瞬間。
恐ろしく冷たい殺気が背筋を駆け抜けた。
その正体を俺は振り返らなくても悟ってしまう。
「いえ、あの、これには深いわけがありまして……」
冷や汗をダラダラ流しながら必死に弁明する。
クスッとした小さな笑い声が聞こえた。
「ふうーん。そうなんですね。それじゃあその深いわけとやらをぜひとも聞かせてくれませんか、ご主人様」
後ろは壁のはずなのに、とっても優しいエリーの声が背後から聞こえてきた。
モンスターたちと共に宣戦布告したシャルロットは討伐したことにしてもらう。
もちろん奴隷となったことは秘密のままだ。
奴隷のまま帝国に潜り込んだ暗殺者たちは今後、俺たちの切り札になるだろう。
俺たちもまた要塞都市へと帰ってきた。
部屋ではシャルロットがパンドラの擬態能力に感激していた。
「テントから御主人様の魔剣まで何にもなれるんですね。すばらしいです」
「いやーそんなことあるけどナ」
「なんにでもなれるということは、犬にもなることができるのですか?」
「もちろんだゾ」
そういってパンドラが黒い犬の姿になる。
シャルロットがますます目を輝かせ、犬となったパンドラを抱き上げた。
「ああ! この毛つや、触感、どれをとっても完全な犬ですわ! なんて完璧な変身なんでしょう。この力があればより御主人様にも喜んでもらえる……」
そうかなあ、御主人様は喜ばないんじゃないかなあ。
いや期待に満ちた眼差しを向けられてもな。
確かに俺は猫派よりは犬派だが、その前にそもそも人間派だからな。
その日の夜。
俺は部屋でひとりこれからの作戦を考えていた。
考えていたピースはすべてそろった。
あとは最後の行動を起こすだけ。
だからこそ慎重に行きたい。
最後の最後ほど油断して失敗しやすいからな。
そのとき、部屋の扉が小さくノックされた。
控えめな音は、なんとなくためらっているように感じさせる。
誰だろう。
エリーならもっと遠慮なく叩くだろうし、なんならノックすらせずに入ってきそうだ。
疑問に思いながら開くと、そこにいたのは褐色の女の子だった。
「ご主人、ちょっといいカ」
「パンドラか。どうしたんだ」
部屋に招き入れてやる。
どうやらひとりらしい。
どうしたんだと思ったら、ヒヒッと悪戯っ子のような笑みを浮かべて俺を見上げた。
「約束はちゃんと覚えてるよナ」
「うっ……ああ、もちろん覚えてるよ。助けてもらったからな」
結界で弱っている中で剣に変身してもらっただけでなく、相手の奇襲を防いでもらったからな。
パンドラがいなければ俺は負けていたかもしれない。
パンドラがいつも「お礼は夜に返してくれ」と言ってるのは、まあそういうことだ。
でも、いつもならエリーとかも一緒に来るんだけどな。
多い方が楽しいとか言うのがいつものパンドラなのだが。
「確かに、そうなんだけどナ……」
いつも底抜けに楽観的なパンドラにしては、声が小さい。
なぜだがモジモジとしながらうつむきがちに視線を落としている。
「オイラもわからないんだ……。ただ、ご主人を独り占めしたいって、どうしても思ってしまっテ……それで一人で来たんダ……」
そうして、ゆっくりと顔を上げて俺を見つめてきた。
「なあ、これってやっぱり変なことなのカ……?」
「……いや、変じゃないよ」
たぶん、普通のことだ。
だけど俺にそれを口にする資格はない。
だからせめてできる限り優しくパンドラの髪を撫でてやった。
幼い顔がくすぐったそうに笑う。
「ご主人の手、あったかいナ」
「パンドラの体もずいぶん熱くなってるぞ」
「どうしてかわかるカ?」
「……いや」
俺が答えると、パンドラが細い腕を伸ばして俺の首にしがみつく。
そうして、赤くなった顔で満面の笑みを浮かべて見せた。
「だったらわかるまでいっぱい恩返ししてくれよナ」
◇
「ふにゃぁ~~……」
パンドラがベッドに沈みこむようにして倒れ込んだ。
「ご主人はいつもすごいのだナ……」
「そんなことはないと思うけど」
今日はほんの3回だけだしな。
パンドラがうつぶせになりながら、顔だけを横に向けて笑顔になる。
「うまく言えないけど、オイラご主人に会えてよかっタ」
「ああ。俺もパンドラに会えてよかったよ」
「ほんとうカ!?」
ガバッと勢いよく起き上がってたずねてくる。
「ほんとうだよ。パンドラがいなかったら、きっと俺はここにはいなかったしな」
今日のことだけじゃない。
シェイドとの戦いのときにも、魔剣として大いに助けてもらった。
その他にも色々なところで何度も助けてもらっている。
「パンドラに会えたことは俺にとっても幸運だったよ」
「えへへ……」
年相応の幼い笑みを浮かべながら、パンドラが俺の体にしがみつく。
そのまま幸せそうに寝息を立てはじめた。
「娘が出来たらこんな感じなのかな……」
小さな頭をなでながら、なんとなくそうつぶやいてしまう。
その瞬間。
恐ろしく冷たい殺気が背筋を駆け抜けた。
その正体を俺は振り返らなくても悟ってしまう。
「いえ、あの、これには深いわけがありまして……」
冷や汗をダラダラ流しながら必死に弁明する。
クスッとした小さな笑い声が聞こえた。
「ふうーん。そうなんですね。それじゃあその深いわけとやらをぜひとも聞かせてくれませんか、ご主人様」
後ろは壁のはずなのに、とっても優しいエリーの声が背後から聞こえてきた。
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