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番外編 騎士バイロンの当惑
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お楽しみいただけると、幸いです☆
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……試してみるか?」
こう見えても俺は自分を失うなんてことは滅多にない。
滅多にないはずなんだが……柔らかくもない太ももをクレミーに撫でられると、そんな自信が急に揺らぐ。
え?
いったい何を言いだすんだ、この人は。
頭がいい連中は、本当に理解ができない。
しかも椅子に掛けているこの俺に、被さるような態勢……は? まさか俺が下、なのか?
そもそも……。
「……勃つんですか? 俺に??」
しまった、驚きのあまり心の声が漏れだした。
彼は余裕、とばかりに、口の端に笑みを乗せた。
……勃つんかい!
騎士団でも肩幅の大きさや腕や腿の筋肉の厚みで定評のあるこの俺に発情するだなどと驚きすぎて言葉にならない。
ああ、ほんと、一体何の話から、こんなことになった?
混乱して頭がうまく働かない。
俺は絞り出すように今夜の出来事を振り返った。
第二部隊の副官……といえば聞こえはいいが、要は使いっぱしりが俺の主な仕事だ。
特に王宮の外で大きなイベントがあると、俺たち第二は王都の治安維持だけでなく、要人の警護なども担当する。
今日がまさにその日で、俺は宰相のオーガスト・ロンソンの長子クレミー・ロンソンの警護を担当していた。
クレミーはアルファにしては少々小柄な男性で、弟のリチャードなどと比べると華奢な印象がある。
しかしそれはあくまで騎士団の人間に比べると、という話で、普通のベータ等に比べると十分男らしい容貌をしている。
彼は主に外交を担う文官で、「交渉事にはクレミー」と言われるほど、難しい案件をまとめてくる天才だ。
有能すぎて対する諸外国の外交官には敬遠されてしまう彼だが、それでも今日のような王太子の婚姻を祝う式典においては、終始にこやかな雰囲気でつつがない一日を終えた。
クレミーの住む邸宅に送り届けたところで俺たちの任務は終了だ。
ところが同僚とともに帰宅しようとした俺を、クレミーは呼び止めた。
さては職務中にパンチを一杯煽ったのを見られたか?
ジュースみたいなアルコールじゃないか、一杯ぐらいは大目に見ろよと言いたいが、見とがめられたのならしかたない。
俺は観念してクレミーの邸宅の玄関をくぐった。
俺の実家のような下級貴族の邸宅とは全く違う豪奢な建物に、俺はたちまち目を奪われた。
もちろんそれと同時にロンソン家の資産をも目にできる分すべてで目算したのは言うまでもない。
俺は資産なんてものに興味があるわけではない。
こんな事でも十分飯のタネになるのだ。
例えば調度品を見ればこの屋敷の主の好みが窺い知れる。
出入りの業者も分かる。
そんな小さい情報を、俺は大事にしているのだ。
どんな情報でも、買うやつはいる。
とはいえ今の俺は騎士団につま先から頭のてっぺんまでどっぷりつかっているから、情報の多くは第二部隊の部隊長経由で上層部に流れていく。
もっぱら俺の懐を温かくするのは、秘する必要がないような低俗なゴシップネタになるわけなのだが。
そんな中でもクレミーの艶めいた噂はほとんど表に出ない。
非常にまじめで堅物……一般的にはそんな評価であるクレミーなのだが。
伴だってクレミー宅の応接間に通された俺に、クレミーは二十年物だというワインを薦めてきた。
「……職務中ですので」
ごっつう酒好きな俺のことだから口から手が出そうになったが、そういう訳にもいかない。
俺はこの目の前にいるクレミー・ロンソンが見た目通りの涼やかな人間でないことを、十分知っている。
いつか王都の北側にある色街で彼を見かけたことがあった。
その時の彼の連れは、俺の見立て通りならギルア侯爵夫人で……後にギルア侯爵は隣国コラゥドとの密貿易がばれて失脚する……明らかに体の関係を思わせるように親しげに腰に手をまわしていた。
それだけではない。
その次に彼を見かけたのは非公式な非公式な仮面舞踏会の会場だ。
彼は壮年の男性……人身売買の罪で収監されたウゴール子爵だと思われる……に、肩を抱かれながら首筋に口付けを受けていた。
さらに、つい先日も。
いわゆる連れ込み宿に、男娼を連れてやってきていた。
あの男娼はたしか、ジャンゲル将軍のお気に入りの……とくれば、もう想像がついた。
どの場所でもクレミーは巧みな変装技術で別人に成りすましていたのだから、薄々気付いてはいたのだが。
もちろんそれらはすべて、俺だから気付けたことだ。
俺は、一度見た人間を忘れることがない。
そして、どれほど巧みに変装していても、簡単に見抜いてしまうのだ。
もちろん情報収集のスペシャリストとしての知識も備えているからこそ分かるのだが。
……クレミー・ロンソンは諜報員だ。
それも飛び切り有能な。
考えてみればクレミーは、成人するまでは王太子の側近として働いていた。
健康を害し、出仕しない時期を過ぎた後、クレミーは側近には戻らず外交の文官として働き始めた。
それがすべて、仕組まれていたのだとしたら……???
俺は情報収集は好きだが危ない橋など渡りたくない。
ちょっとしたゴシップネタで十分なのだ。
ヤバイ情報はすべて上司に丸投げして、遠くから見つめるのでちょうどいいと思っている。
そんなわけで俺は無害な男ですよと必死にネコを被っていたのだけれども。
「話というのは他でもない……。
明日、ジャンゲル将軍は更迭される」
って!!!!
バレてるし!!!!
なんで俺が気付いてるってばれてるんだ??
俺は必死に驚いた表情を浮かべた。
「ジャンゲル将軍が?!
いったいどうして……!!!」
「……男娼にうつつを抜かして他国に機密を漏らしたのだ。
当然のことだと思うが……?」
もちろん俺はそんなことを聞きたくはない!!!
クレミーの言葉を遮るように問いかけた。
「まさか将軍が……!?
考えられません!!!
……しかし、どうして私にそんな話を??」
フフ……と、性格の悪さが窺い知れる笑みを、クレミーは浮かべた。
「どうしてというなら、私の方が知りたいね?
君はどうして、ジェフリー・レブルがジェフ・アドルと同一人物だと気付いたんだ?」
そっちの方かと、思わず俺は息を飲んだ。
ってか、リチャードからばれたのか?
ああ、それとも、第二部隊長アズウェルが喋ったのか?
だいいち、どうしてと問われても、俺だって分からない。
要人警護の第二騎士団といえども、公式の場でもフードを被って容貌のしれない魔法宮長官のご尊顔を拝する機会はほどんどない。
だから俺はジェフリー・レブル長官殿の顔なんて知らなかった。
しかし騎士団の幹部が招集されたその場所で、皆の注目を集める人物に目を止め、俺は思わず息を飲んだ。
「お前、ジェフ……ジェフ・アドル?」
それにしても顔が違いすぎる!!! なんだその顔は、と、俺は思わずのけぞった。
「バ……イロン先輩、何でわかっ……!!!!」
しかしそんな俺以上に、ジェフの方が驚いていた。
そりゃ、そうだろう。
この国一番の魔術師ジェフリー・レブル渾身の目くらましに、俺は惑わされなかったのだから。
だけどそれがなぜ? と聞かれても、俺には答えようがない。
なんとなく、としか言いようがない。
何故分かるかなんて、俺だって知るもんか!
「……私にも分かりません。
可愛い後輩がまさか魔法宮長官だったなんて、考えもしませんでした……」
あのあと姿を現したリチャード・ブレスコットが、かばう様にジェフリー・レブルを背中に隠し、「バイロン先輩、ジェフリーに構うのはやめてください」などと言われたときには、俺は本当に頭が沸騰しそうになった。
「……まあいい、君の能力の高さは、アズウェル殿からも十分聞かされたしな……」
全く、あのくそおやじ、俺を売りやがったな?
「……ちっ」
俺は思わず舌打ちした。
ということは、この男、俺が奴の変装を見抜いていたことをすべて知っていて呼び出した、ということに他ならない。
……なんということだ。
俺は昔っから感はいい方だ。
だがなんでだか、昔っから逃げ足が遅くて、厄介ごとを引き受けてしまう。
「はっきり言おう、君が、欲しい」
クレミーの言葉に、俺は乾いた笑みを漏らした……。
「ハハ……。
それってまるで、女を誘う言葉に聞こえますよ?」
俺の人を見抜く能力、のことを言っているのは十分わかっているが、何故だか口説かれているような気がしてならない。
「……私が相手をするのは、女だけに限らないのを、知っているだろう……??」
椅子に腰かけた俺に、クレミー・ロンソンは覆いかぶさるように顔を寄せた。
「俺に欲情するとでも……?」
思わず口にしてしまった言葉を、俺は大きく後悔した。
何故ならクレミーが、優しい手つきで俺の太ももに手を添えたからだ。
どうしてだか、この優男が、誰かに抱かれている姿が想像できない。
彼はそう……狩人だ。
相手の全てを食らいつくす、獰猛な狩人。
そしてクレミーは、苦し紛れに俺が発した「……勃つんですか? 俺に??」という言葉に、アルファの発する気でもって答えた。
「私が勃つかどうかは問題ではない。
むしろ……相手をどう勃たせるか、だろう??」
「……ぅぅぅ」
俺は苦しくて、わずかに声を漏らすことしかできなかった。
なんだこれは。
アルファの上位種が持つ能力の噂は本当だったのか。
いわく、アルファの上位種は、意のままに相手の気をも操る。
オメガでも……俺のようなベータでも。
警告なしに俺にぶつけられたアルファの気は、俺の身体に、激しい欲望の火をつけた。
烈火のような激しさに俺の分身は服の上からでもはっきりと分かるほど欲望を晒して、気を抜けば達してしまいそうになる。
「は……ぅ……」
側枕を握りしめ、奥歯を噛みしめ、俺は強制的な発情を必死にこらえた。
もしクレミーが、俺の体に触れていれば、俺の努力は無駄に帰していただろう。
しかし緩やかにクレミーの気は弱まり、俺は解放された。
深く息をついた俺に、クレミーは再び言葉を重ねた。
「よくよく考えて、返事をしてくれ。
……私以上に、君を高く買える人間は、恐らくいない」
そう言って、薄情に思えるほど冷めた笑いを口に浮かべるクレミーは、第二部隊長アズウェル以上に性格が悪い。
「……失礼します」
俺は何も返答しなかった。
ただ逃げるように、クレミー・ロンソンの屋敷を飛び出した。
そのまま騎士団の制服のままに向かったのは、いつぞやクレミーを見かけた色街にある有名な娼館だった。
無理やりにこじ開けられた欲望の種は、俺の中でまだ燻り続けていたからだ。
俺は美しい娼妓を相手に、燻り続ける体の奥の熱を、限界まで放ち続けた。
やわらかく俺を受け入れる娼妓に、俺は夢中で貪っていたのだが。
娼妓の体の奥に熱い白濁を吐き出した瞬間、クレミー・ロンソンの薄情そうな顔が浮かんだのは………絶対に、絶対に、絶対に!!!!! 気のせいである。
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こう見えても俺は自分を失うなんてことは滅多にない。
滅多にないはずなんだが……柔らかくもない太ももをクレミーに撫でられると、そんな自信が急に揺らぐ。
え?
いったい何を言いだすんだ、この人は。
頭がいい連中は、本当に理解ができない。
しかも椅子に掛けているこの俺に、被さるような態勢……は? まさか俺が下、なのか?
そもそも……。
「……勃つんですか? 俺に??」
しまった、驚きのあまり心の声が漏れだした。
彼は余裕、とばかりに、口の端に笑みを乗せた。
……勃つんかい!
騎士団でも肩幅の大きさや腕や腿の筋肉の厚みで定評のあるこの俺に発情するだなどと驚きすぎて言葉にならない。
ああ、ほんと、一体何の話から、こんなことになった?
混乱して頭がうまく働かない。
俺は絞り出すように今夜の出来事を振り返った。
第二部隊の副官……といえば聞こえはいいが、要は使いっぱしりが俺の主な仕事だ。
特に王宮の外で大きなイベントがあると、俺たち第二は王都の治安維持だけでなく、要人の警護なども担当する。
今日がまさにその日で、俺は宰相のオーガスト・ロンソンの長子クレミー・ロンソンの警護を担当していた。
クレミーはアルファにしては少々小柄な男性で、弟のリチャードなどと比べると華奢な印象がある。
しかしそれはあくまで騎士団の人間に比べると、という話で、普通のベータ等に比べると十分男らしい容貌をしている。
彼は主に外交を担う文官で、「交渉事にはクレミー」と言われるほど、難しい案件をまとめてくる天才だ。
有能すぎて対する諸外国の外交官には敬遠されてしまう彼だが、それでも今日のような王太子の婚姻を祝う式典においては、終始にこやかな雰囲気でつつがない一日を終えた。
クレミーの住む邸宅に送り届けたところで俺たちの任務は終了だ。
ところが同僚とともに帰宅しようとした俺を、クレミーは呼び止めた。
さては職務中にパンチを一杯煽ったのを見られたか?
ジュースみたいなアルコールじゃないか、一杯ぐらいは大目に見ろよと言いたいが、見とがめられたのならしかたない。
俺は観念してクレミーの邸宅の玄関をくぐった。
俺の実家のような下級貴族の邸宅とは全く違う豪奢な建物に、俺はたちまち目を奪われた。
もちろんそれと同時にロンソン家の資産をも目にできる分すべてで目算したのは言うまでもない。
俺は資産なんてものに興味があるわけではない。
こんな事でも十分飯のタネになるのだ。
例えば調度品を見ればこの屋敷の主の好みが窺い知れる。
出入りの業者も分かる。
そんな小さい情報を、俺は大事にしているのだ。
どんな情報でも、買うやつはいる。
とはいえ今の俺は騎士団につま先から頭のてっぺんまでどっぷりつかっているから、情報の多くは第二部隊の部隊長経由で上層部に流れていく。
もっぱら俺の懐を温かくするのは、秘する必要がないような低俗なゴシップネタになるわけなのだが。
そんな中でもクレミーの艶めいた噂はほとんど表に出ない。
非常にまじめで堅物……一般的にはそんな評価であるクレミーなのだが。
伴だってクレミー宅の応接間に通された俺に、クレミーは二十年物だというワインを薦めてきた。
「……職務中ですので」
ごっつう酒好きな俺のことだから口から手が出そうになったが、そういう訳にもいかない。
俺はこの目の前にいるクレミー・ロンソンが見た目通りの涼やかな人間でないことを、十分知っている。
いつか王都の北側にある色街で彼を見かけたことがあった。
その時の彼の連れは、俺の見立て通りならギルア侯爵夫人で……後にギルア侯爵は隣国コラゥドとの密貿易がばれて失脚する……明らかに体の関係を思わせるように親しげに腰に手をまわしていた。
それだけではない。
その次に彼を見かけたのは非公式な非公式な仮面舞踏会の会場だ。
彼は壮年の男性……人身売買の罪で収監されたウゴール子爵だと思われる……に、肩を抱かれながら首筋に口付けを受けていた。
さらに、つい先日も。
いわゆる連れ込み宿に、男娼を連れてやってきていた。
あの男娼はたしか、ジャンゲル将軍のお気に入りの……とくれば、もう想像がついた。
どの場所でもクレミーは巧みな変装技術で別人に成りすましていたのだから、薄々気付いてはいたのだが。
もちろんそれらはすべて、俺だから気付けたことだ。
俺は、一度見た人間を忘れることがない。
そして、どれほど巧みに変装していても、簡単に見抜いてしまうのだ。
もちろん情報収集のスペシャリストとしての知識も備えているからこそ分かるのだが。
……クレミー・ロンソンは諜報員だ。
それも飛び切り有能な。
考えてみればクレミーは、成人するまでは王太子の側近として働いていた。
健康を害し、出仕しない時期を過ぎた後、クレミーは側近には戻らず外交の文官として働き始めた。
それがすべて、仕組まれていたのだとしたら……???
俺は情報収集は好きだが危ない橋など渡りたくない。
ちょっとしたゴシップネタで十分なのだ。
ヤバイ情報はすべて上司に丸投げして、遠くから見つめるのでちょうどいいと思っている。
そんなわけで俺は無害な男ですよと必死にネコを被っていたのだけれども。
「話というのは他でもない……。
明日、ジャンゲル将軍は更迭される」
って!!!!
バレてるし!!!!
なんで俺が気付いてるってばれてるんだ??
俺は必死に驚いた表情を浮かべた。
「ジャンゲル将軍が?!
いったいどうして……!!!」
「……男娼にうつつを抜かして他国に機密を漏らしたのだ。
当然のことだと思うが……?」
もちろん俺はそんなことを聞きたくはない!!!
クレミーの言葉を遮るように問いかけた。
「まさか将軍が……!?
考えられません!!!
……しかし、どうして私にそんな話を??」
フフ……と、性格の悪さが窺い知れる笑みを、クレミーは浮かべた。
「どうしてというなら、私の方が知りたいね?
君はどうして、ジェフリー・レブルがジェフ・アドルと同一人物だと気付いたんだ?」
そっちの方かと、思わず俺は息を飲んだ。
ってか、リチャードからばれたのか?
ああ、それとも、第二部隊長アズウェルが喋ったのか?
だいいち、どうしてと問われても、俺だって分からない。
要人警護の第二騎士団といえども、公式の場でもフードを被って容貌のしれない魔法宮長官のご尊顔を拝する機会はほどんどない。
だから俺はジェフリー・レブル長官殿の顔なんて知らなかった。
しかし騎士団の幹部が招集されたその場所で、皆の注目を集める人物に目を止め、俺は思わず息を飲んだ。
「お前、ジェフ……ジェフ・アドル?」
それにしても顔が違いすぎる!!! なんだその顔は、と、俺は思わずのけぞった。
「バ……イロン先輩、何でわかっ……!!!!」
しかしそんな俺以上に、ジェフの方が驚いていた。
そりゃ、そうだろう。
この国一番の魔術師ジェフリー・レブル渾身の目くらましに、俺は惑わされなかったのだから。
だけどそれがなぜ? と聞かれても、俺には答えようがない。
なんとなく、としか言いようがない。
何故分かるかなんて、俺だって知るもんか!
「……私にも分かりません。
可愛い後輩がまさか魔法宮長官だったなんて、考えもしませんでした……」
あのあと姿を現したリチャード・ブレスコットが、かばう様にジェフリー・レブルを背中に隠し、「バイロン先輩、ジェフリーに構うのはやめてください」などと言われたときには、俺は本当に頭が沸騰しそうになった。
「……まあいい、君の能力の高さは、アズウェル殿からも十分聞かされたしな……」
全く、あのくそおやじ、俺を売りやがったな?
「……ちっ」
俺は思わず舌打ちした。
ということは、この男、俺が奴の変装を見抜いていたことをすべて知っていて呼び出した、ということに他ならない。
……なんということだ。
俺は昔っから感はいい方だ。
だがなんでだか、昔っから逃げ足が遅くて、厄介ごとを引き受けてしまう。
「はっきり言おう、君が、欲しい」
クレミーの言葉に、俺は乾いた笑みを漏らした……。
「ハハ……。
それってまるで、女を誘う言葉に聞こえますよ?」
俺の人を見抜く能力、のことを言っているのは十分わかっているが、何故だか口説かれているような気がしてならない。
「……私が相手をするのは、女だけに限らないのを、知っているだろう……??」
椅子に腰かけた俺に、クレミー・ロンソンは覆いかぶさるように顔を寄せた。
「俺に欲情するとでも……?」
思わず口にしてしまった言葉を、俺は大きく後悔した。
何故ならクレミーが、優しい手つきで俺の太ももに手を添えたからだ。
どうしてだか、この優男が、誰かに抱かれている姿が想像できない。
彼はそう……狩人だ。
相手の全てを食らいつくす、獰猛な狩人。
そしてクレミーは、苦し紛れに俺が発した「……勃つんですか? 俺に??」という言葉に、アルファの発する気でもって答えた。
「私が勃つかどうかは問題ではない。
むしろ……相手をどう勃たせるか、だろう??」
「……ぅぅぅ」
俺は苦しくて、わずかに声を漏らすことしかできなかった。
なんだこれは。
アルファの上位種が持つ能力の噂は本当だったのか。
いわく、アルファの上位種は、意のままに相手の気をも操る。
オメガでも……俺のようなベータでも。
警告なしに俺にぶつけられたアルファの気は、俺の身体に、激しい欲望の火をつけた。
烈火のような激しさに俺の分身は服の上からでもはっきりと分かるほど欲望を晒して、気を抜けば達してしまいそうになる。
「は……ぅ……」
側枕を握りしめ、奥歯を噛みしめ、俺は強制的な発情を必死にこらえた。
もしクレミーが、俺の体に触れていれば、俺の努力は無駄に帰していただろう。
しかし緩やかにクレミーの気は弱まり、俺は解放された。
深く息をついた俺に、クレミーは再び言葉を重ねた。
「よくよく考えて、返事をしてくれ。
……私以上に、君を高く買える人間は、恐らくいない」
そう言って、薄情に思えるほど冷めた笑いを口に浮かべるクレミーは、第二部隊長アズウェル以上に性格が悪い。
「……失礼します」
俺は何も返答しなかった。
ただ逃げるように、クレミー・ロンソンの屋敷を飛び出した。
そのまま騎士団の制服のままに向かったのは、いつぞやクレミーを見かけた色街にある有名な娼館だった。
無理やりにこじ開けられた欲望の種は、俺の中でまだ燻り続けていたからだ。
俺は美しい娼妓を相手に、燻り続ける体の奥の熱を、限界まで放ち続けた。
やわらかく俺を受け入れる娼妓に、俺は夢中で貪っていたのだが。
娼妓の体の奥に熱い白濁を吐き出した瞬間、クレミー・ロンソンの薄情そうな顔が浮かんだのは………絶対に、絶対に、絶対に!!!!! 気のせいである。
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ジェフェリーとリチャード、
思いが通じて良かったです«٩(*´꒳`*)۶»
本編もとても面白かったですが、番外編もとても面白く一気に読みました( ᐢ˙꒳˙ᐢ )
続きがもっと読みたい!
そのくらい面白い作品でした♪
面白いだけでなく、ラブラブっぷりも良かったです♪♪
アルファポリスの感想の仕組みがよくわかっていないので、同じ文面を二回送ってしまったかもしれません。
邪魔なら、この文章ごと削除してください。
説明を確認したところ、却下しないと削除できなかったです……。
初めてなので恐る恐るやってみます……。
あれ?
途中ですか?
いつもはムーンライトで読んでますが、こっちが一話多いのに気づき、こっちが先行したのかと入ってきました。
「」で終わっちゃってるので編集途中に投稿してしまったのかと……。
感想投稿ありがとうございます。
お察しの通り執筆途中でございます。
お見苦しいものを……(*ノωノ)
ホントにごめんなさい(ノД`)・゜・。
一度間違って公開してしまったので非公開に戻したんですけど、なにがどうしたのか公開されたままになっておりました……!!!
ご報告、ほんとにありがとうございました。うっかり気付かずうっちゃってたかもなので……。