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しおりを挟む――――幼い頃、妹と遊んでいる時に起きた事故。
ある日森で遊んでいると、木の実を見つけた妹が「お姉ちゃん、あれ取って」と言ってきた。
当時お転婆だった私は、得意気にひょいひょいと大きな木に登っていった。 そこからの景色はとても綺麗で、それを妹と二人で見たくなった私は「エルマも登ってきて」、と言って手を差し伸べた。
簡単に登れたから大丈夫だと思った。 でも、怖々と登ってくるエルマは、私の手を取る直前に木から落ちてしまった。
尋常ではない泣き声に慌てて木から降りると、エルマは顔から血を流していて、私はどうしたら良いかわからなくて、怖くなって大人を呼びに走った。
大事には至らなかったけれど、妹のおでこの右端には大きな傷が残ってしまった。
それから私は、その傷が自分のせいだと負い目を感じるようになり、お気に入りの服も、おやつも、何でも妹を優先するようになった。
大きくなって大分目立たなくなったけど、今でもその傷跡はエルマに残っている。
◆◇◆
「だからって……」
女子寮の前に立って、私はこの馬鹿げた生活交換にうんざりする。
仕方ない、どうせすぐに飽きて元に戻ろうと言ってくるでしょ。 あの子飽きっぽいから。
「この部屋……ね」
エルマから聞いた部屋を見つけた。 確かルームメイトの名前はレイアだったわね。
中に入ると、先にレイアは寮に戻っていたようで、私に気づいて振り返った。
「ひ、久しぶり、休みはゆっくりできた?」
多分私がエルマじゃないと気づく事はないだろうけど、やっぱり少し不安で声が上ずってしまった。
「………」
――あれ? 無視?
も、もしかしてバレた?
そんな訳ないよね、わざわざ伸ばしてた髪も切ったんだし。
「これ、休み中の宿題」
「え……」
無愛想な感じでノートを渡してくるレイア。
なんか、この子怖いんですけど……前髪長くて顔よく見えないし……。 というか、
「宿題……って?」
「やっとけって……言われたから……」
エルマ、あんたまさか……友達に宿題やらせてんの?
「ご、ごめんなさい」
「ど、どうして謝るの? いつもしてるのに……」
―――いつもやらせてんの!?
「それに、謝るならジータに謝った方が……あなたのこと、ぜ、絶対許さないって言ってたから」
ジータ? 絶対許さないって……あ、あの子何したの?
「えっと……何で怒ってるの、かな? ジータは」
恐る恐る聞いてみると、レイアは不思議そうに私を見て、それから首を傾げて言った。
「何でって……あなたレオーネが居るのに、ジータの取り巻きの子が付き合ってる男の子に手を出したんでしょ?」
「――は?」
「わ、私に散々自慢してた……男はみんな私を好きになっちゃう、ちょっとイタズラのつもりだったのに、って」
………――――はぁ!?
「こ、今回は相手が悪いよ……ジータは寮のボスなんだから……」
ああ、そう、そういうことね。
呑み込んだわ。 こっちに居ずらくなって、それで生活を交換しようなんて言った訳だ。
「あいつ……」
「え? な、なに?」
「ううん、何でもない。 レイア、これからはもう宿題なんてやらないでいいわ、自分でやるから」
周りと上手くやってるって言うから安心してたのに……
――――やってくれたな、エルマ。
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