双子の妹と学園生活を交換したら、話が違います

なかの豹吏

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「もうっ! 追いかけようにも姿さえ見えないじゃない!」


 これじゃ鬼ごっこじゃなくてかくれんぼだわ。 大体女の子を一人にするなんて、大公侯爵家の教育はどうなってるのっ!


「わぁ! こんなキレイなお嬢様がお一人ですか?」

「――えっ? あ、あら、私のことかしら?」


 声のした方を見てみると、そこにはお人形を持ったおじいさんが一人だけ。


「あ、あれ?」


 もっと若い声だったけど……。


「僕の名前はザック、よろしくね!」

「――ええッ!? に、人形が喋った!!」


 どうして? おじいさんの口は閉じたままだったのに声が……


「素敵なドレス、きっと高貴なご令嬢様ですねっ」

「そんな、私なんか普通の女の子ですよ」


 まあ? 小国の低爵位とはいえ貴族令嬢ですが? おほほほほ。


「今日はお一人で?」

「いえ、一緒に来た人が……ってあなた、どうして喋れるの?」

「僕はおじいさんと居る時だけ喋れるんだっ」


 ――あっ、そうか。 レオーネが曲芸師が居るって言ってた。 じゃあやっぱりこのおじいさんがやってるんだ。


「ふふ、すごいですね、こんなの初めて見ました」


 さすが、大国ともなると曲芸師のレベルも違うわ。 

 私はおじいさんの傍にあったカゴに硬貨を入れ、楽しませてもらったお礼をして鬼ごっこを再開した。 




「ホント迷路みたい、もう帰り道もわからないわ」


 普通手を抜いて姿くらい見せるものじゃない? 遊び抜きで勝ちにいくなんて大人気ないと思う。


「大分暗くなってきたし……――ん?」


 木と木の間から何か聞こえる……なんだろう? 私は恐る恐る近づいてみた。


「――なッ!? わっ、わぁああああぁぁ……ぁ……」


 そこには、その、か、絡み合う男女が……。 私はびっくりして一目散に逃げ去った。 


「な、なんてトコ連れて来るのよアイツは……!」


 どうやら夜は恋人達が集まるみたいね。 そんな場所にか弱い女の子を一人にして、乙女に何かあったらどう―――


「……そうだ、変質者が出るって言ってた」


 そう思ったら、何だか怖くなってきちゃった……。 アイツ、私のこと女だと思ってないわよね、だんだん腹が立ってきたわ。


「もう知らないっ! 勝手に帰っちゃうん――」


 その時、ドンっ、ドンっ、と大きな音がして、


「だから……ね……」


 暗くなった空に花火がキラキラと、星みたいに弾けて散らばった。



「――オレの勝ちだ」



 耳元で声がして、空を見上げてた私の後ろから、レオーネの両手がマフラーみたいに包んでくる。


「お前さ、腹話術であんなに驚くなよ」

「………見てたの」

「ああ、見てたよ。 ずっと」


 何も抵抗しないのは、きっと少し心細かったから。 別にこうしてたいから、じゃない……。


「急に走り出したり、相変わらず落ち着きの無い女だ。 やっぱり迷子になるしな」


 レオーネの声は楽しそうで、


「お前は見てると目が話せなくなる、だから……」


 寂しそうに変わる。

 また花火が光って、いつの間にか出口がすぐそこだったのに気づいた。 今は、帰りたくないけど。 

 そう思ったのに、



「――もう、オレの前に現れるな」



 ………マフラーが無くなった。


 勝負はレオーネの勝ちで、私は何でも1つ、彼のお願いをきかなきゃならない。


「どうして……?」


 呟いた私は一人きりで、帰り道はわかるけど、でも……



 ――――レオーネの気持ちが、わからなかった。



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