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しおりを挟む私が寮に戻って、少ししてからレイアが帰ってきた。 それから部屋にジータが来て、これから三人で話をする……のだけど、
「エルマ? な、何かあったの?」
「う、ううん、平気よレイア」
ほんの一時だったけれど、レオーネに包まれた時の胸の高鳴り、その後、それが突然凍りついたような絶縁の言葉。 それをどう受け止めたらいいのかわからない。
ジータの事は大丈夫だと伝えたけど、メリッサ様とレオーネが何を話してそうなったのかは聞けなかった、としか言えなかった。
聞きたかったけど、鬼ごっこに負けた私は聞けなかった。 代わりに聞いたのは―――。
「……で、なんでそんなに落ち込んでるのよッ!」
「――いっ!?」
下を向いていたら、急に両の頬をジータに引っ張られた。
そう言われても、レオーネとは付き合ってもないのに別れた事になってるし……相談しにくい。
だから、掴む手を振り解き、
「な、何でもないわよ」
そう、言うしかなかった。
ジータは怪しんでいたけど、しばらくして自分の部屋に戻って行った。
「ほ、ほんとにどうしたの? 元気無い、ように見えるよ?」
「別に何も……」
口篭る私を、レイアが心配そうな顔で見つめてくる。 それが申し訳ないのと、本当は相談したい自分が居て、
「あ」
ふと、部屋に転がっていた子犬のぬいぐるみが目に入った。 私はそれを手に取って、自分の顔を隠すようにレイアに突き出し、
「レっ、レオーネにもうオレの前に現れるなって言われただけだよっ、どっ、どうせ別れたんだしいいけどねっ!」
今日見た腹話術師のおじいさんを真似て、甲高い声でつい悩みを打ち明けてしまった。
しばらくレイアが何も言わないから、そーっとぬいぐるみをどけて様子を見てみると、
「……そう。 それは、ジータに言わなくて良かったかも、ね」
考え込んだ顔をしたレイアはそう言った。
「……どういう、事?」
◆◇◆
「お帰りなさいませレオーネ様。 ……あの、ファビオ様の馬車でお戻りでは?」
「いや、少し寄りたい所があって、途中で降ろしてもらったんだ」
「左様でございますか。 あっ、今メリッサ様がいらしてまして、レオーネ様をお待ちになっております」
「……そうか、わかった」
◆
―――広大な敷地、その木陰に腰を下ろす幼い少女。 その膝に、少女より小さな男の子が頭を預ける。
「おねえさま、だ~いすきっ」
愛らしい声が、陽気の良い静かな庭に跳ねる。 甘える弟を愛でる姉は、自分より色素の薄い、柔らかな白金の髪を撫で微笑んだ。
「私も大好きよ、テオ」
ずっと見ていられる、いつまでもこの温もりを感じていたい。 幼い少女には詰め込み過ぎな習い事も、このひと時が全てを癒してくれる。
求め、求められる存在。
それが彼女にとって弟のテオドアだ。
「あなたさえ居てくれたら私は幸せ、何も望まないわ」
言葉通りの感情が瞳に溢れる。
「だからテオ、ずっと私の傍に居て……」
いつの間にか、空には雲がかかっていた。
「――ねえ? テオ? テオドア? ……ねえ」
空は泣き出し、少女の膝には誰も居ない。
「あなた……だけでいいの……」
俯き、濡れた髪から滴る雨はそのまま膝に落ち、撫でる手は空を彷徨っているようだ。 そして、
瞳には、色が無くなっていた――――。
◆
「こんな時間まで待ってたのか」
入室したレオーネにメリッサは微笑み、隣に座ってとソファを二つ叩いた。
「待つのは嫌いじゃないわ」
「……変わってるな」
言われるままに座ると、メリッサはレオーネの膝に手を置き、身を寄せて見上げてくる。
「レオがどうしてるか気になって、ひと目だけでも顔を見たくて待ってたのよ?」
「どうしてるか、なんて監視の奴から聞けばいいだろ」
「あら、男友達と出掛ける時は見させてないわ」
「……ファビオの馬車に乗るまでは見られてた訳だ」
無言の笑顔を答えにするメリッサを見て、レオーネはうんざりな顔を背ける。
「……でも、やっぱり見張らせとけば良かった」
「――!? お、おい」
顔を背けたままの首筋に、下から舐め上げるようにメリッサの鼻頭がなぞってくる。
「――レオから、女の子の匂いがする」
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