双子の妹と学園生活を交換したら、話が違います

なかの豹吏

文字の大きさ
17 / 27

17,

しおりを挟む
 

 私が寮に戻って、少ししてからレイアが帰ってきた。 それから部屋にジータが来て、これから三人で話をする……のだけど、


「エルマ? な、何かあったの?」

「う、ううん、平気よレイア」


 ほんの一時いっときだったけれど、レオーネに包まれた時の胸の高鳴り、その後、それが突然凍りついたような絶縁の言葉。 それをどう受け止めたらいいのかわからない。

 ジータの事は大丈夫だと伝えたけど、メリッサ様とレオーネが何を話してそうなったのかは聞けなかった、としか言えなかった。

 聞きたかったけど、鬼ごっこに負けた私は聞けなかった。 代わりに聞いたのは―――。


「……で、なんでそんなに落ち込んでるのよッ!」

「――いっ!?」


 下を向いていたら、急に両の頬をジータに引っ張られた。

 そう言われても、レオーネとは付き合ってもないのに別れた事になってるし……相談しにくい。 

 だから、掴む手を振り解き、


「な、何でもないわよ」


 そう、言うしかなかった。

 ジータは怪しんでいたけど、しばらくして自分の部屋に戻って行った。




「ほ、ほんとにどうしたの? 元気無い、ように見えるよ?」

「別に何も……」


 口篭る私を、レイアが心配そうな顔で見つめてくる。 それが申し訳ないのと、本当は相談したい自分が居て、


「あ」


 ふと、部屋に転がっていた子犬のぬいぐるみが目に入った。 私はそれを手に取って、自分の顔を隠すようにレイアに突き出し、


「レっ、レオーネにもうオレの前に現れるなって言われただけだよっ、どっ、どうせ別れたんだしいいけどねっ!」


 今日見た腹話術師のおじいさんを真似て、甲高い声でつい悩みを打ち明けてしまった。

 しばらくレイアが何も言わないから、そーっとぬいぐるみをどけて様子を見てみると、


「……そう。 それは、ジータに言わなくて良かったかも、ね」


 考え込んだ顔をしたレイアはそう言った。


「……どういう、事?」






 ◆◇◆





「お帰りなさいませレオーネ様。 ……あの、ファビオ様の馬車でお戻りでは?」

「いや、少し寄りたい所があって、途中で降ろしてもらったんだ」

「左様でございますか。 あっ、今メリッサ様がいらしてまして、レオーネ様をお待ちになっております」


「……そうか、わかった」





 ◆





 ―――広大な敷地、その木陰に腰を下ろす幼い少女。 その膝に、少女より小さな男の子が頭を預ける。


「おねえさま、だ~いすきっ」


 愛らしい声が、陽気の良い静かな庭に跳ねる。 甘える弟を愛でる姉は、自分より色素の薄い、柔らかな白金の髪を撫で微笑んだ。


「私も大好きよ、テオ」


 ずっと見ていられる、いつまでもこの温もりを感じていたい。 幼い少女には詰め込み過ぎな習い事も、このひと時が全てを癒してくれる。

 求め、求められる存在。 
 それが彼女にとって弟のテオドアだ。


「あなたさえ居てくれたら私は幸せ、何も望まないわ」


 言葉通りの感情が瞳に溢れる。


「だからテオ、ずっと私の傍に居て……」


 いつの間にか、空には雲がかかっていた。


「――ねえ? テオ? テオドア? ……ねえ」


 空は泣き出し、少女の膝には誰も居ない。


「あなた……だけでいいの……」


 俯き、濡れた髪から滴る雨はそのまま膝に落ち、撫でる手はくうを彷徨っているようだ。 そして、



 瞳には、色が無くなっていた――――。





 ◆





「こんな時間まで待ってたのか」


 入室したレオーネにメリッサは微笑み、隣に座ってとソファを二つ叩いた。


「待つのは嫌いじゃないわ」

「……変わってるな」


 言われるままに座ると、メリッサはレオーネの膝に手を置き、身を寄せて見上げてくる。


「レオがどうしてるか気になって、ひと目だけでも顔を見たくて待ってたのよ?」

「どうしてるか、なんて監視の奴から聞けばいいだろ」

「あら、男友達と出掛ける時は見させてないわ」

「……ファビオの馬車に乗るまでは見られてた訳だ」


 無言の笑顔を答えにするメリッサを見て、レオーネはうんざりな顔を背ける。


「……でも、やっぱり見張らせとけば良かった」

「――!? お、おい」


 顔を背けたままの首筋に、下から舐め上げるようにメリッサの鼻頭がなぞってくる。



「――レオから、女の子の匂いがする」



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

守護神の加護がもらえなかったので追放されたけど、実は寵愛持ちでした。神様が付いて来たけど、私にはどうにも出来ません。どうか皆様お幸せに!

蒼衣翼
恋愛
千璃(センリ)は、古い巫女の家系の娘で、国の守護神と共に生きる運命を言い聞かされて育った。 しかし、本来なら加護を授かるはずの十四の誕生日に、千璃には加護の兆候が現れず、一族から追放されてしまう。 だがそれは、千璃が幼い頃、そうとは知らぬまま、神の寵愛を約束されていたからだった。 国から追放された千璃に、守護神フォスフォラスは求愛し、へスペラスと改名した後に、人化して共に旅立つことに。 一方、守護神の消えた故国は、全ての加護を失い。衰退の一途を辿ることになるのだった。 ※カクヨムさまにも投稿しています

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

大切にしていた母の形見のネックレスを妹に奪われましたが、それ以降私と妹の運は逆転しました!

四季
恋愛
大切にしていた母の形見のネックレスを妹に奪われましたが、それ以降私と妹の運は逆転しました!

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

妹が私こそ当主にふさわしいと言うので、婚約者を譲って、これからは自由に生きようと思います。

雲丹はち
恋愛
「ねえ、お父さま。お姉さまより私の方が伯爵家を継ぐのにふさわしいと思うの」 妹シエラが突然、食卓の席でそんなことを言い出した。 今まで家のため、亡くなった母のためと思い耐えてきたけれど、それももう限界だ。 私、クローディア・バローは自分のために新しい人生を切り拓こうと思います。

処理中です...