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しおりを挟むメリッサ様と馬車に揺られながら、そういえば寮に居ないしご自宅から通ってるんだな、なんて呑気な事を……――――そうじゃないでしょ。 私は今、悩みの種と一緒に居るのよ。
「………」
それにしても、近くで見るメリッサ様は怖いくらいキレイ。 少しだけ会話をしたけど、口調は柔くとても品がある。
さすが大国の公爵令嬢、小国の低爵位、おまけにお転婆な私とは人種が違う。
やがてお邸に到着すると、その予想以上の佇まいに尻込みが増す。 そして侍女二人が扉を開け、メリッサ様のお部屋に入ってからだった。
後を付いて部屋に入るとまず、
「――わっ、わぁッ!?」
へ、部屋に虎が居る……ッ!
「あ……れ?」
……動かない。
落ち着いて見てみると、部屋中に動物や鳥が何種類も居て、そのどれもがピクリとも動かない。
「私のコレクションなの、素敵でしょ?」
「あ、ああ、剥製ですか」
こういう趣味も大貴族ならでは……なのかな?
「その、動物がお好きなんですね」
「ええ、生きていなければ」
――ん? それは……剥製だけ好き、ってこと? であれば、ちょっと凡人の私には理解が難しそうです。
「どうぞ、お座りになって」
「は、はい」
王族の部屋さながらの内装、装飾、そのソファに腰を下ろす。 そして聞きたいことは沢山あるけど、まず最初に、
「どうして私を呼んでくれたんですか?」
「どうしてレオはあなたに惹かれたのでしょう」
……まさかの質問返しをされてしまった。
『レオ』ってレオーネの事よね。 昔馴染みなのは聞いたけど、なんか……気分が悪い。
「あなたはありもしない噂をばら撒くだけの道化、レオの嫌いなタイプだから気にも留めなかった」
「っ……」
突然棘だらけの言葉を浴びせられた。 それは私がエルマになる前の事だとわかっていても、メリッサ様の異様な圧力に怯んでしまう。
ただ一つ、不確かな、私も知りたい事も混じっていた。
「別に、レオーネは私に惹かれてなんか……」
「――レオは女の子と約束なんかしない。 知る限りあなたが初めてよ」
約束? ……ああ、次のパーティーでレイアに良い男紹介してって、あれかな?
「あれはそんな、約束なんて大層なものじゃないです」
それが、特別なのかな。 だとしたら少し……
「今日あなたをお招きしたのは、確かめたい事があったからです」
「は、はぁ」
なんていうか、メリッサ様は話がどんどん飛ぶから付いていくのが大変。
「あの匂い、やはりあなたでしたのね」
「……匂い?」
「レオから汚らわしい女の匂いがしましたの。 私のレオにあんな酷いものをなすりつけて、レオが病気にでもなったら可哀想です」
そうか、あの日、あの後メリッサ様と会ったんだ。 それにしても酷い言われよう、『私のレオ』? やっぱり二人は……
「それでも私はレオを許してあげました。 仕方のない子だけれど、手のかかる子程愛しいものですから」
違和感を感じた。
メリッサ様はレオーネの事を好きなのかと思ったけど、何か違うような……それにそもそも、
「メリッサ様は、婚約者の事を好いてたのですか?」
ダンテの不貞に胸を痛めているように見えない、それに聞いていると、レオーネへの気持ちも昨日今日のものには感じなかった。
「アレはただの風避け、私に群がってくる男達が鬱陶しかったからです」
「そんな……」
それなら、ジータがあんなに辛い思いしたのは何なの?
「それでレオが少しでも妬いて、私に我儘言ったり甘えてくれたら良かったのですが」
……なんて自分勝手な人。 それに、さっきからずっとレオレオうるさいのよ……!
「そんな付き合い方だからダンテも浮気したんじゃないですか? それを婚約破棄して彼や家族はこれからどうなるんです」
「シュカワレ家は衰退し、いずれ没落するかもしれませんね」
「あなたは……!」
「――ダンテが不貞をしなければ、いずれこちらが慰謝料を払い婚約は破棄された。 周りの貴族達からも同情すらされ、今までの融資もあって得ばかりよ」
そ、そうかもしれないけど……。
「そうならなかったのはダンテと、―――あなたのお友達が悪いんじゃなくって?」
「っ……」
だからって、人を弄んだのは許せない。
そして、
――――メリッサ様に何か条件を出された……じゃないかな――――
「……レオーネを、それで縛り付けたんですか……」
「レオを縛る? 私はレオを包んであげたいの、何からも守ってあげたいのよ」
ダメだ、全然解らない。
「レオーネが好きなんじゃないんですか? だからダンテを利用したり、交換条件で縛ったりして……」
「好き? そんな軽薄なものじゃないわ」
メリッサ様は剥製を愛しそうに撫で始め、表情は悦に浸ったような、でも瞳は虚ろで……
「――愛しているの……。 この慈悲の無い世界で、あの子が安心出来るのは私の膝元だけだから」
「………」
得体の知れない感情。
この人は、一体何を求めてるんだろう―――。
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