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しおりを挟む普段はまばらに人の居る所も、今日は祭りの中心に集まり人気が無い。 それも、普段から人通りの無い場所なら尚更――――
「ッ……」
背中の痛みに呻くメリッサ。 それもその筈、押し倒されたのは柔らかなベッドではなく、気の利かない固い地面だ。
「ははッ! 身持ちの固い公爵令嬢様がいい様だなッ!」
男は空を隠すようにメリッサに覆い被さり、仮面をしていても正気ではないと判る声音で喚き散らす。
「身持ちが固い訳でもないか、もう次の男に手を出してるって噂だからなぁッ!」
婚約破棄の直後にレオーネを部屋に呼んだのだ、噂好きな貴族連中が話題にしない筈が無い。
「どうした、逃げようとしないのか?」
「………」
「私が誰かなんて分かってるだろ? なんなら仮面を取ってやろうか?」
素性が知れても構わない、男はそう言った。 そもそも仮面だけの扮装、知人なら声でも判ってしまうかも知れない。
当然メリッサには判っていた、この男が誰かという事は。
「天気が良いのに、酷い景色ですわ」
「――何だと?」
「これ以上景色を悪くされては困ります」
「きっ、貴様……ッ!!」
汚い顔を見せるな、そう言われて男は激昂する。
メリッサは逃げ足掻こうとも許しを乞おうともせず、怯えた様子も無く言い放った。
「したい事があるなら早く済ませなさい、私は今日を楽しみにしていたのです」
強がりなのか、本当に我が身がどうでもいいのか。 それでもし男がつまらないと引いてくれれば救われるが、
「……そうか、それなら――――良い日にしてやる……ッ!」
上等なドレスの布地が乱暴に引き裂かれる。
どうやら引いてはくれないようだ、何故なら、男の方はとっくに――――どうでもよくなっていたからだ。
◆◇◆
馬車から外を眺めるレオーネは、今日これから控える二つの戦いに向け気持ちを引き締めていた。
「――!?」
建物と建物の間、通り過ぎる路地の景色に見覚えのある人物を捉える。
「ジータ? どうして……」
記念祭の開かれている中心部と逆に走る姿に違和感を覚える。 髪を振り乱し、仮面が邪魔だと外して走る程に一体何を焦っているのか。
「――止めてくれ!」
とにかくただ事ではない、レオーネは馬車を急停止させた。
◆◇◆
「……お前は何なんだ? 何もさせなかったクセに、こうなっても抵抗すらしない。 まあいい、好きにさせて――」
男が無抵抗なメリッサにいよいよと迫った時、おあずけだとばかりに逆方向に背中を引っ張られた。
「――ダンテッ!! あなた何をしてるのッ!!」
慌てて誰が邪魔をと見定めると、それは声を荒らげ、息を荒らげた秘密の恋人だった。
「ジ、ジータ……――――邪魔をするなッ!!」
「きゃ……ッ」
今更引く道は無い、ダンテは手加減無くジータの頬を張り、未だ仰向けに動かないメリッサに駆け寄る。
「そっ、それなら……」
やって来たのは関係を持った女、その前でとはさすがに行為を捨てたダンテは、
「――殺してやる……ッ!!」
最悪の決断をし、細い首に手を伸ばした。
「やっ、やめてダンテッ!!」
腫れた頬を捨て置き、ダンテを引き剥がそうとジータは力を込める。 だが不意をついたならともかく、来ると分かっていれば相手は男だ、そうはいかない。
「もう少しで公爵家の跡取りが、はした金を渡されて国から出ろだ? ――ふざけるなッ!!」
命を奪われるこの時でさえ、メリッサは苦しみに足掻こうと絞められた手を解こうとせず、無抵抗にだらりと地面に両手を付けたままだった。
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