双子の妹と学園生活を交換したら、話が違います

なかの豹吏

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 泣きじゃくりダンテを引っ張るジータ。 だが必死の抵抗も、今度はメリッサの景色を変える事は出来ない。 
 覆い被さるダンテが空を隠し、見えてくるのは先に旅立った愛しい弟の元へと続く階段か。

 ――――テオ、もうすぐ逢えるのね――――

 このひと時の苦しみが、長かった寂しさを終わらせてくれる。 そう思えば生にしがみつく必要など無い。 
 テオドアを失ってから散々足掻いてきた。 だからもういい、本当はとっくに疲れて果てていたのだ。

『この日を楽しみにしていた』、自分にそんな嘘もつかなくていい。

 意識が薄れ、ついに辿り着いたのは、

「――がッ……! はぁッ……」

 ――――テオドアの元ではなく、それは酸素だった。

 身体は慌てて肺へ、脳へとそれを送っていく。 ぼやけた視界は徐々に青い空を映し出し、はだけた身体には男物の上着がかけられた。 

 そして耳に、

「このまま逝っても、テオドアはお前の膝で甘えない」

 その声は、大人に成長するにつれ変わっていくのを傍で感じた、それ程に知っている声だった。

「レオーネ様っ!!」

 馬車から飛び出した主を、何事かと追いかけて来た従者が二人現場に現れる。 

「こっ、これは……―――メリッサ様!?」

 地面にはもう一人転がっている。 レオーネに横ヅラを蹴り抜かれ、仮面が外れ気を失っているダンテだ。

「お前はこの男を街外れに捨てておけ、メリッサにも非はある、最後の温情だ」

「ダ、ダンテ」

「――ジータ、もうダンテの事は忘れろ。 この先のお前に必要無い男だ」

 他の国に落ち延びても、これで更生してまともに働くとは思えない。 行き着く先は今やろうとしていたような犯罪紛いだろう。

「ジータを馬車に、メリッサはオレが後から連れていく」

「はっ」

 それぞれが従者に連れていかれ、禁断の恋をした二人の人生はもう交わる事は無いだろう。 
 二人きりになり、レオーネはメリッサの上半身を抱き起こす。

「……何とも、今年は静かな記念祭だな。 大丈夫か?」

 殺す気で絞められた首には痣が残り、虚ろな瞳のメリッサは返事をしない。 そしてしばらく、静かな裏通りに沈黙の時が流れた。

 やがて、掠れた弱々しい声が―――、

「……テオは、私の膝に来てくれない」

 呟きにレオーネが答える。

「そうだな」

 そう言って、レオーネは幼い頃に拒否した憧れの膝に横顔を預ける。

「レオ……?」

「この後もうひと勝負ある、少し休ませてくれ」

 それはメリッサには分からないが、もっと解らないのは、何故レオーネがこんな事をしたのかだ。

「オレをテオドアには出来ない。 テオドアにとってお前は大好きな姉で、オレにとってお前は……」

 閉じた瞳の裏では、幼い日の嘘が思い出される。


『オレはメリッサのこと嫌いだから』


 そして、伝えようにも居なくなってしまったその人に、

「お前は、――――初恋の女性ひとだからな」

 告白はメリッサの瞳を大きく見開かせたが、それは今の彼女にではない。

「その女性じゃないと、テオドアは甘えてくれない」

 陽気の良い日、膝には弟ではなく、大きくなった弟の友達が眠っている。 おいでと言っても来ない、強がりな男の子が。

「不思議な日だ、天気が良いのに雨が降る」

 横顔に落ちてきた雨は、もっと早く降らせてあげたかった雨だった。 それは不思議な――――温かい雨だ。


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