25 / 27
25,
しおりを挟むメリッサを抱えて馬車まで戻り、御者がドアを開けると沈んだ顔のジータが見えた。 その隣にメリッサを座らせ、思わぬ展開ではあったが、これでレオーネの第1戦目は何とか幕を閉じた。
「……レオ、後で逢いに来てくれる?」
「ああ、ちゃんと手当てしてもらえよ、ジータもな」
レオーネは御者に「二人を頼む」、と言ってドアを閉めようとしたが、
「――レ、レオっ!」
「どうした?」
「……上着、もらっていい?」
首元を隠すように上着を掴み、メリッサはよく分からないおねだりをしてくる。
「今年から記念祭で女は上着を欲しがるらしい……好きにしろ」
ドアが閉まり、車内には複雑な関係性の二人が残される。 メリッサはダンテをどうも思っていなくても、ジータからすれば自分は婚約破棄の原因、更に言えば、それが無ければ今回の事件だって起こらなかった、そう考えてしまう。
どう詫びようにも許されないだろうが、何も言わずにはいられなかった。
「メ、メリッサさ――っ……?」
意を決して口を開いた時、頬にひんやりとした手が触れた。
「こんなに腫れて、私の為にすみません」
「………」
逆に謝られてしまい、感極まったジータの瞳から溢れる。 その涙は頬を伝い、添えられた手を濡らす。
「レオの言ったように、私も悪いのです」
ダンテを利用したメリッサ、ジータを騙したダンテ、それに流されたジータ。 事の大小はあれど、それぞれに犯した罪はあったのだ。
ジータの背をさすりながら、メリッサは戦利品の上着に顔を埋めた。
「レオの初恋は……私……」
◆◇◆
再戦の地、グレイターズガーデンに着いたレオーネは人混みに揉まれる。
「これは骨が折れそうだ」
今日の賑わいは普段日の比ではない、この中からエルマを見つけるのは至難の業だろう。 だがそれは相手も同じ事。
「あいつの事だ、また曲芸師やらに夢中になってるところを仕留めればいい」
後ろを取られない自信はある、レオーネは余裕の心持ちでエルマ探し始めた。 ―――が、
「……居ないな、まさかまだ来てないのか? それともファビオから何か策を……―――っ!」
何かに気づいた様子のレオーネ、その目に映ったのは子供達に追いかけられるピエロの面。
「そうか、なるほどな」
今日、グレイターズガーデンには子供達の遊び相手をするピエロが何人も放たれている。 それに意識を高めてみると、さっきからよく目に入るピエロが一人。 それも、徐々に自分へと距離を詰めているのがわかる。
「一般の仮面をしているとは限らない……て事だ。 あいつにしては考えたな」
こちらが気づいたと悟られないように、レオーネはさり気なくそのピエロの容姿を確認する。 すると背丈、何より栗色の髪がエルマと一致した。
そして遂に勝負の時、ピエロは子供に追いかけられたフリをしてレオーネの背に迫る。
「悪くなかったが、残念だったな」
その台詞に一瞬ピエロは動きを止めてしまう、そしてレオーネは素早く振り返り―――
「今度もオレの勝ち……」
ピエロの面を上にずらすと、そこには間違いなくエルマの顔があった。 だが、
「お前……その傷……」
1度お仕置にエルマのおでこを弾いたのを思い出す。 その時には無かった傷、それも、それは明らかに古傷だった。
「―――私の勝ちね、レオーネ」
その時、目の前に居る筈のエルマの声が背後から聞こえ、
「…………ど、どうなってる?」
戸惑うレオーネの顔に、それを隠す仮面はもう無かった。
3
あなたにおすすめの小説
妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。
しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹
そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる
もう限界がきた私はあることを決心するのだった
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ
猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。
そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。
たった一つボタンを掛け違えてしまったために、
最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。
主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?
守護神の加護がもらえなかったので追放されたけど、実は寵愛持ちでした。神様が付いて来たけど、私にはどうにも出来ません。どうか皆様お幸せに!
蒼衣翼
恋愛
千璃(センリ)は、古い巫女の家系の娘で、国の守護神と共に生きる運命を言い聞かされて育った。
しかし、本来なら加護を授かるはずの十四の誕生日に、千璃には加護の兆候が現れず、一族から追放されてしまう。
だがそれは、千璃が幼い頃、そうとは知らぬまま、神の寵愛を約束されていたからだった。
国から追放された千璃に、守護神フォスフォラスは求愛し、へスペラスと改名した後に、人化して共に旅立つことに。
一方、守護神の消えた故国は、全ての加護を失い。衰退の一途を辿ることになるのだった。
※カクヨムさまにも投稿しています
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです
珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。
その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。
それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる