限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第八章 霜月(十一月)

179.十一月五日 朝 全校朝礼

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 美晴の機嫌は前日から今朝にかけて激しく上下していた。なんと言っても前日の日曜日に橋乃鷹はしのたか涼とサイクリングデートに出かけ、結構いい雰囲気になりご機嫌で帰宅したのだが、その報告をしようと夢路へ連絡しても返事がなかったのだ。

 その夢路はと言うと、昨晩帰宅後にスマホは取り上げられるわ、ようやく帰って来ていた父にも叱られるわで散々だった。そんなわけで、美晴からのノロケメッセージを確認できたのは朝になってからである。

 もちろん綾乃も父親にこってりと絞られ終いには泣き出してしまったこともあり、目覚めは最悪だし顔は腫れぼったいしで朝の調子はどん底だった。

 一人元気なのは八早月位なもので、真新しいコートバーバリーを着て学校までの道のりをご機嫌で闊歩していた。そのコートは四十男が選んだだけあって女子中学生向けとは言えないが、濃い無地のベージュながら裏地がチェックでさりげないおしゃれ感、それがまた背伸びしたい八早月にとってはちょうど良い物なのだ。

 そんな四者四様とも言える四人は、いつものように学校から少し離れた駅近くの路地で待ち合わせ、残り十分程度の道のりを歩いていく。

 まず美晴が口火を切った。ようやく話し相手が見つかったと言わんばかりに昨日の様子を話し出す。

「まあアタシたちって体力には自信ある方だからさ、どこまで行けるかってね。
 特に目的地を決めなかったんだけど、国道まではあっという間だったよ。
 そこから郡営公園まで行ったから結構走ったなあ、ねえ聞いてる?」

「ん…… ごめん、聞いてない……
 もう昨日は散々で、かれこれ四、五時間はお説教されたからね……」

「私も帰ってからパパに言いつけられて一時間くらい追加されたよ。
 朝貰ったお小遣いも前借扱いにされちゃって来月のお小遣い無しになったし……」

「二人ともちゃんと反省しているようで何よりだわ。
 本当に無事で良かったと思っているのよ?
 二度とあんな真似はしない、それを絶対に守ると約束してちょうだいね?」

 うなだれて返事をする綾乃と夢路、そして何があったのかいまいちわかっていない美晴は疎外感からか膨れ面になっている。あの人形に関わることであるのは間違いないが、昨日何があったのかと八早月へ絡んできた。

「ねえ八早月ちゃん、一体全体昨日何があったのさ。
 アタシだけのけものにするなんてひどくない?
 雰囲気からすると、拾ってきた人形のことで何かあったってことでしょ?」

「人形のことではないのだけれどね、昨日ちょっとした事件があったのよ。
 でも二人は話したくない様子だし、今は私から勝手に言うわけにはいかないわね」

「えー、なにそれー、なんか納得いかないなあ、夢、何があったのさ。
 綾ちゃん、事件てどんなのか聞かせてよー」

 だが綾乃も夢路も口を真一文字に閉じたままである。そのうち学園へと到着してしまったため、話はここまでと言うことになった。明らかに不機嫌そうな美晴がそれでも諦めきれずに八早月へ向きなおると、どうもなにか含みがあるように笑い返してくる。

「ねえ八早月ちゃん? 本当に一体何が――」

「美晴さんごめんなさい、今はお話しできないの、今はね、でも後でわかるわ」

 間もなく始業時間であるし、本日は今月最初の月曜日のため全校朝礼もあり、これ以上のんびり話してもしていられない。美晴は仕方なく引き下がった。それにすでに廊下は登校してくる生徒と体育館へ向かう生徒が入り乱れて、立ち話をするには適さない状況である。

 綾乃は二階の教室へ、三人は一階へとそれぞれ別れ、荷物や上着を教室へ置いてから体育館へ向かう。特に珍しくもない毎月の光景なのだが、今日は何となく違和感がある。美晴は何となくそう感じており、その理由としてなぜかこちらをちらちらと見てくる生徒が多いのだ。

 これはつまり八早月がはっきりと説明してくれないことと関係があると、美晴は当たりを付けた。きっと昨日夢路と綾乃が何かをやらかして、朝礼の場で校長から注意でもされるに違いない。

 二人とも親に怒られたと言っていたし、八早月も反省するようにと言っていた。これは見ものである。そんなことを考えつつ、美晴は一人含み笑いをしながら体育館へ向かう波と共に歩いた。


◇◇◇


「というわけで、二年生の寒鳴綾乃さんと一年生の山本夢路さんに拍手!
 正義感溢れる行動として、金井警察署署長より感謝状が届いております。
 きっかけは文化祭での展示物について検討したことだと言います。
 皆さんも普段から小さなことにも気を配り、疑問を深掘りする癖を付けましょう」

「事件解決なんて凄いね」
「迷宮入り事件なんだってさ」
「大きな組織が摘発されたらしいよ」

 体育館は生徒たちのざわめき声で埋まって行く。たかが普通の中学生が警察でも解決できていなかった事件を解き明かし、繋がりのある薬物犯罪組織摘発にまで関わってしまったのだ。ちょっとした騒ぎになって当然だろう。

 ただ、壇上にあげられた綾乃と夢路はまるでさらし者にでもされたような面持ちで、どう見ても嬉しそうでも誇らしそうでもない。さらに言えば、八早月が柄にもなくいたずらっ子のような笑顔で見つめている。

「ちょっと八早月ちゃん、この表彰ってもしかして……
 ねえそうなんでしょ? 後で詳しく聞かせてよね?」

「後ほどね、まあこれくらいの目にあえば二人ともちゃんと反省するでしょう。
 しばらくは他の生徒たちから注目されて落ち着かないかもしれないけれどね。
 でも本当に一歩間違えたら危ないところだったのよ?」

 八早月はそのことに関しては本気で怒っていた。もう少し助けに行くのが遅れていたら、加害者がもっと短絡的だったら、妖が絡んでいてモコからの連絡が届いていなかったら等々、一歩間違えれば本当に命にかかわる事態になっていただろう。

 それでも今回は無事だったのだし、お手柄として表彰されつつも壇上へあげられある意味辱めを受けてもらうことで反省を促すつもりだ。そう、この表彰は八早月が初崎宿に頼んで手を回してもらったものだ。そうでなければ昨日の今日でこんなに早く大げさな式典が行われるはずもない。

 こうして今回関わった行方不明事件についてはひょんなことから解決することになり、数日後、綾乃と夢路には郡警より本当に感謝状が贈られてきたのだった。
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