限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

文字の大きさ
192 / 376
第八章 霜月(十一月)

188.十一月十日 昼過ぎ 和平交渉

しおりを挟む
 昼過ぎになり飲食を出店している教室はどこも混雑してきた。そこはこの『喫茶ダイヤモンド』も同じことなのだが、他とは違う目立つポイントがあった。

「なにあれ、かわいいー」
「野球部の子だってさ」
「坊主にメイド服は草」

 通りがかりに冷やかされているのは、当番をほっぽり出して脱走を企てた(ことにされた)高岳飛雄である。早とちりと言うのか、とにかく焦って飛び出していったために罰として調理実習室前で客引きよろしく置物にされているのだ。

 そしてそのきっかけを作った八早月はと言うと、零愛によって説教ではないものの講釈を受けていた。その隣にはルーファスも神妙な顔をして座らされている。

「ルーファス君、いい? 日本の神様については大体理解できた?
 一神教じゃないから形も成り立ちも様々で自然神も多いんだからね。
 むやみな決めつけや否定は諍いの元なんだよ」

「はい…… わかりました……
 それにしても蛇が神だなんて考えたこともないし今でも信じられない」

 八早月の思考を受けて真宵が即座に抜刀すると、ルーファスは両手を顔の前で振り無駄な抵抗をする。

「そして八早月もさあ、いくらなんでもやり過ぎってか限度があるでしょ?
 まあ信仰している神様を悪魔扱いされたら頭に血が上っても仕方ないけどね。
 向こうでは蛇が原因で人が神の国を追われたって伝承だからさ」

「それはおかしな話です。
 欲しいと請われ譲った蛇を持ちかえり甲斐性がなく被害を出しただけでしょう?
 なのに恩を受けたことを忘れ、恥を隠すために事実を捻じ曲げての流布とは。
 神にも欲があることくらいわかっていますが、それにしても呆れる限りです」

「なにデタラメなことを! それこそ我らが神に対する侮辱ではないか!」

 ルーファスは激高しながら立ちあがったが、その喉元には瞬時に真宵の持つ小太刀の切っ先が触れておりいつでも一刺し可能な状態となった。そのことが脅しではないとすでに先の戦いで良く知っているため大人しく引き下がるしかない。

「まあそう興奮せずにお坐りなさい。ルーファスさんとやら、よろしいですか?
 私も八岐大蛇様も妖ではない、これが何より事実を証明していると理解なさい。
 あなたも道を踏み外したわけではなく、信徒として正しいと考えただけ。
 それがハナから間違っていたのはあなたのせいではなく先人たちのせいです。
 悲観することは有りません、これから正しい事柄を学んで行けばよいのです」

「そのような侮蔑、我が神に誓って受け入れることは出来ぬ!
 だが学んできた歴史や思想に相違があるのもまた事実、争う気はない……
 今後はお互い不干渉と言うことで手打ちにしたいのだがいかがだろうか」

「あら、私は存じているのですよ? 先ほど口にされた『十字兵』の意味を。
 どうやら大規模すぎて非道の数々を隠すことが出来なかったようですね。
 そのあなた方の流儀をなぞるのであれば、決着は力づくではありませんか?」

「ちょっと八早月! その辺にしておきなよ。
 歴史と現代をごっちゃにしちゃダメ、まさか本当にこ、こ――」

「いくら私が世間知らずと言っても法律の存在くらい存じております。
 ですので彼をあやめるなどとは考えておりません。
 しかし法の下では裁かれない存在ならいかがでしょうか。
 彼が言うところの天界との結び付きを切断するもよし、神を消滅させるもよし」

 八早月の発言はひどく物騒なものであるがこれはただの脅しであった。実際に出来るかどうかは考えておらず、どうしたら相手を委縮させられるかが重要なのだ。そしてこの言葉が効果絶大なことはルーファスの態度を見れば明らかである。

 つい先ほど自慢の鎧騎士を粉々に切り裂かれ、それはもう圧倒的な力の差を体験したばかり、八早月の発する言葉に信憑性を感じて当然だ。机に両手を付き顔を伏せ震える姿は誰が見ても怯えた子犬のようだった。

 人種的にも宗教的にも選民志向の強いルーファスの血族、それゆえ神からの力を代々賜ってきた。その高いプライドが打ち砕かれただけでなく、さらには力まで奪われるかもしれないと考えれば恐れる理由は十分だろう。

「―― ぁりません…… 本当に申し訳ありません。蛇を邪悪とは妄言でした。
 今ここに取り消して謝罪いたします……」

 八早月はそれまで鬼の形相で仁王立ちしていたのだが、ルーファスによる謝罪の言葉を聞き笑顔へと変わる。ようは八岐大蛇が貶められなければそれでいいのだ。

「はい、良くできました、あなたの謝罪、快く受け入れましょう。
 それと零愛さんたち海側から来ている生徒への差別行為もおやめくださいね」

「あ、八早月、それはさ、どっちもどっちでいがみ合ってんだよね。
 でもウチらもむやみにケンカ腰にならないようにって周知しておくよ」

「ええ、何事も平和が一番ですからね」

 目の前の零愛も、すぐそばで聞いている綾乃たちも、それをどの口が言っているのかと明らかな呆れ顔で眺めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

訳あって学年の三大美少女達とメイドカフェで働くことになったら懐かれたようです。クラスメイトに言えない「秘密」も知ってしまいました。

亜瑠真白
青春
「このことは2人だけの秘密だよ?」彼女達は俺にそう言った――― 高校2年の鳥屋野亮太は従姉に「とあるバイト」を持ちかけられた。 従姉はメイドカフェを開店することになったらしい。 彼女は言った。 「亮太には美少女をスカウトしてきてほしいんだ。一人につき一万でどうだ?」 亮太は学年の三大美少女の一人である「一ノ瀬深恋」に思い切って声をかけた。2人で話している最中、明るくて社交的でクラスの人気者の彼女は、あることをきっかけに様子を変える。 赤くなった顔。ハの字になった眉。そして上目遣いで見上げる潤んだ瞳。 「ほ、本当の私を、か、かかか、可愛いって……!?」 彼女をスカウトしたことをきっかけに、なぜか「あざと系美少女」や「正体不明のクール系美少女」もメイドカフェで働くことに。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。 その彼女に脅された。 「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」 今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。 でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる! しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ?? 訳が分からない……。それ、俺困るの?

負けヒロインに花束を!

遊馬友仁
キャラ文芸
クラス内で空気的存在を自負する立花宗重(たちばなむねしげ)は、行きつけの喫茶店で、クラス委員の上坂部葉月(かみさかべはづき)が、同じくクラス委員ので彼女の幼なじみでもある久々知大成(くくちたいせい)にフラれている場面を目撃する。 葉月の打ち明け話を聞いた宗重は、後日、彼女と大成、その交際相手である名和立夏(めいわりっか)とのカラオケに参加することになってしまう。 その場で、立夏の思惑を知ってしまった宗重は、葉月に彼女の想いを諦めるな、と助言して、大成との仲を取りもとうと行動しはじめるが・・・。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...