限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

文字の大きさ
199 / 376
第八章 霜月(十一月)

195.十一月十八日 午後 魂抜きの儀

しおりを挟む
 色々な意味で心配されていた週末の天気だが、八早月の願いが通じたのか冬らしく乾いた晴れ間となっていた。これならば気分よく儀式に集中できると言うものである。

「八早月ちゃん一人じゃなかったんだね。
 結構大仰なことになるみたいでびっくりしちゃった」

「私一人でもできなくはないのだけれど、体力を消耗し過ぎると大変なのよ。
 綾乃さんが抱えて連れて行ってくれるならそれでもいいのだけどね?
 と言うのは冗談で、本当は儀式で巫が倒れたら周囲が心配するでしょう?」

「確かにそっか、本当に儀式が滞りなく済んだのかって不安になっちゃうもんね。
 だからこんなに大人数でやるってわけか」

「儀式と言うのは効果だけではなく形式も必要なのよ。
 綾乃さんのお宅を立てる前にも地鎮祭を執り行ったでしょう?
 あれも最大限簡略化するなら神杭かみくいを打ち込むだけでいいのだから」

「確かにそれだとただ工事しただけっぽく感じちゃって効能を疑うかも。
 形式って言うのも大切だってこと、凄くわかりやすいね」

「だから今日は時間がかかってしまうけれど終いまでお付き合いをお願いよ?
 本当は次回以降に予定している祠の創建だけでも良かったのだけれどね。
 綾乃さんにとってはみくずさんを祀る本社が大切ですから必ず出席していただき、神事にも参加していただかなければなりません」

「ええっ!? そうなの? 私で何か役立てるならいいけど迷惑にならない?
 神事と言っても巫女的な感じでそこにいればいいだけだよね?」

「それはまだ決めていませんが、神事は藻さんが望む形になるでしょうね。
 ああそれとみいさんはこちらへは祀らないことになりました。
 本人がどうしても八岐大蛇様のお側が良いと言って聞かないものですから」

「まあそりゃそうだよ、巳女さんにしてみたら厄介払いみたいに感じるかもだし。
 藻様は私が生きているうちはきっちりお祀りしていくから安心してね」

「それほど気負わなくとも大丈夫、人々に必要とされなくなれば消えるのみ。
 まあ今回のように魂抜きをせずに放置しているとこの場に呪縛されかねませんが」

「私はそんなに薄情じゃありませんよーだ。今だってもっと八岐神社へお参りに行きたいくらいなんだから見くびらないでよね?」

 八早月は綾乃が責任を背負い込みすぎて重荷とならないよう気を使ったつもりだったのだが、綾乃は綾乃でちゃんと考えた上で覚悟を現したつもりだったのだ。その言葉を聞いて一番感銘を受けたのは当然のように藻であった。

 こんな風に雑談をしながら祭事の支度が整うのを待っているのだが、どうにも退屈で仕方がないと言う者が三名ほどいる。正確には三名と五体で、八早月の両肩と頭の上に乗っている、美晴と夢路、そして巳女、さらには車の中でぐったりとしている美晴と夢路の本体・・である。

「神事なんてめったに見られないから面白そうって思って来てみたけどさ。
 別に面白いことなんてなにもなかったかも……」

「でも行こうって言ったのはハルが最初じゃないの。
 私は興味なくはないから構わないんだけど、待ち時間は確かに退屈だね。
 この姿だとスマホで時間つぶしってわけにもいかないし」

「まったく失敬な、わらわに力を使わせておいて退屈とは何たることなのじゃ。
 わらわだって無関係な神事に付き合いとうなかったのじゃよ?
 それを主殿の命であるからこうしてやって来ていると言うのにこの小娘共は……」

「まあそう言わずにお願いよ? 巳さんだって祠を建てる時には儀式をするのよ?
 その時には皆がお付き合いしてくれるのだから持ちつ持たれつでしょう?」

「確かに誰もいないよりは賑やかしがおった方が良いじゃろうが……
 じゃが藻殿にはしもべもおるし巫女もおる、わらわにはなんもなく悔しいの蛇」

「そうはおっしゃいますが、私は巫女へ遣いを与えたわけではありませぬ。
 いつの間にかしもべが現れて巫女へ憑りつき、そを元に私が顕現したと言う順です。
 いやはやえにしと言うのはほんに面白いものでございますねえ」

「面白くないの蛇! わらわも遣いを呼び出してしまうかと考えてしまうのじゃ。
 いっそのことこの小娘共に憑りついてしまおうかと思わなくもないのじゃが……」

「そんなことできるの!? そしたらアタシも巫になれるならうれしいんだけど!」

「これ巳女殿、滅多な事を言うものではございませぬ、なあ主様?
 我が巫女は決して気楽に過ごして来たわけではないのですぞ?」

「そうね、巳さんは危険性を無視しておかしなことを言わないで下さいな。
 美晴さんや夢路さんが妖に追い回される毎日となりたいなら別ですけれどね。
 綾乃さんの場合、幼少より繰り返されたそのような毎日を経て今があると言うことを忘れてはなりません」

 二人に叱られた巳女は反省の態度を見せ、それを聞いた美晴も同じようにしょんぼりとうなだれた。どうやらその気の無かった夢路はケラケラと笑っており、一緒に綾乃が笑えていることを八早月は本当にうれしく感じていた。


「筆頭様、準備が整いました。ですが八畑宮司が『本当に巫女を連れてこなくて良かったのか』とまだ言っておりますので、改めて説明していただけますか?」

「わかりました、珍しいことなので不安なのかもしれません。
 では聡明さんは配置について待機願います、麗明れいめいも同様にお願いしますね」

 筆頭家と七家の補助当番だからと駆り出された序列三番目である双宗聡明と、その呼士である麗明は八早月へ恭順の意を示し所定の場所へ向かった。その反対側には七草ドロシーと春凪が立っている。もちろん真宵もすでにその輪の中にいた。

 これから例の三角地に祀られている牛塚の魂抜きを行うのだが、生活道路に隣接しているため、各所との調整に大分時間がかかってしまい伸び伸びとなっていた。いくら神事だとは言え勝手に行うことは出来ず、現代では神の力よりも行政の都合が優先されるのは致し方ないことだ。

 八岐大蛇に許可を取ってから約ひと月、その間に久野町町長や町会長へ繋ぎを付けたり、所轄で道路使用許可を取ったり、普段のお役目の間を縫って初崎宿が・・・・事務手続きに奔走していた。

 八早月がそう言った事務的なことをやろうとすると、まず身分証明の辺りで手続きが止まってしまうし、役場ならともかく警察や代議士相手だとさらに面倒なことになるのは目に見えている。

 そんなことで結局出て行くのであれば、最初から自分でやるのが効率的だと言うことで、宿や耕太郎が貧乏くじを引いて事務仕事を引き受けていると言うわけだ。

 その甲斐あって今日と言う日にこぎつけたわけで、それがわかっている八早月はもちろん尽力に感謝している。ただ、給料制でもボーナスがあるわけでもない八家の仕組み上、彼らに与えられるのは労いの言葉くらいなものだ。

「では宮司殿よろしいですね、巫女は綾乃さんがおりますからご心配なく。
 綾乃さんはこの印まですり足で進み二礼してから大幣おおぬさを渡してください。拍手かしわでは不要ですからね」

「わかった、他に何か注意することはある? 藻孤モコはどうすればいいの?」

「モコは綾乃さんに乗っていて構いませんよ。今回は無関係ですしね。
 儀式の巫女として手伝っていただくのも経験以外の意図はありません」

「えー、せめてなんか今後のための下準備とかだったらよかったのになぁ。
 それでもまったく意味がないってことはないんだよね?」

「さすが綾乃さんは察しが良い、儀式への参加は心の鍛錬に良いですからね。
 常世との繋がりを深めるためにもぜひ体験していただきたかったのです。
 それに給金も巫女の規定料分きちんと出しますからね」

「やった! ちょうど欲しいものもあったし嬉しい臨時収入だよ、ありがとー」

 そんなやり取りを眺めながら年老いた宮司は目を細め笑っている。しかし八早月が合図をするとその表情は真剣なものへと変わり、いよいよ儀式が始まるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

訳あって学年の三大美少女達とメイドカフェで働くことになったら懐かれたようです。クラスメイトに言えない「秘密」も知ってしまいました。

亜瑠真白
青春
「このことは2人だけの秘密だよ?」彼女達は俺にそう言った――― 高校2年の鳥屋野亮太は従姉に「とあるバイト」を持ちかけられた。 従姉はメイドカフェを開店することになったらしい。 彼女は言った。 「亮太には美少女をスカウトしてきてほしいんだ。一人につき一万でどうだ?」 亮太は学年の三大美少女の一人である「一ノ瀬深恋」に思い切って声をかけた。2人で話している最中、明るくて社交的でクラスの人気者の彼女は、あることをきっかけに様子を変える。 赤くなった顔。ハの字になった眉。そして上目遣いで見上げる潤んだ瞳。 「ほ、本当の私を、か、かかか、可愛いって……!?」 彼女をスカウトしたことをきっかけに、なぜか「あざと系美少女」や「正体不明のクール系美少女」もメイドカフェで働くことに。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。 その彼女に脅された。 「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」 今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。 でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる! しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ?? 訳が分からない……。それ、俺困るの?

負けヒロインに花束を!

遊馬友仁
キャラ文芸
クラス内で空気的存在を自負する立花宗重(たちばなむねしげ)は、行きつけの喫茶店で、クラス委員の上坂部葉月(かみさかべはづき)が、同じくクラス委員ので彼女の幼なじみでもある久々知大成(くくちたいせい)にフラれている場面を目撃する。 葉月の打ち明け話を聞いた宗重は、後日、彼女と大成、その交際相手である名和立夏(めいわりっか)とのカラオケに参加することになってしまう。 その場で、立夏の思惑を知ってしまった宗重は、葉月に彼女の想いを諦めるな、と助言して、大成との仲を取りもとうと行動しはじめるが・・・。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...