限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第八章 霜月(十一月)

201.十一月二十四日 昼 複雑な心境

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 文化祭一日目、残念ながら午前中は完全自由時間ではなかった。他の学校がどういう仕組みかはともかく、九遠学園中等部では初日の午前中のみ中等部の展示しか回ることが許されない。

「いいかー、午前中に自分のクラス含めた五クラスと、文化部全部回ること。
 配布したプリントに簡単でいいから所感を書き込み週明けに提出だからな。
 ちなみに二十六、七の月、火曜日は代休で学校は休み、間違えるなよ?」

 午前中は中等部から出られない不満も、代休と言う言葉がクラスの皆を盛り上げ差し引きゼロと言ったところ。ワイワイと騒ぎながら各々一緒に回る面子と話をし計画を練っている。

 もちろん八早月たちも同様で、手癖の悪い夢路はすでに綾乃へメッセージを飛ばしホームルーム終了後に待ち合わせる場所を伝え終えていた。幸い外部から来ている一般客も校舎へ入ることが出来るので、飛雄も一緒に中等部を回ることになりホームルームが終わってから連絡し合流することになった。

 生徒たちが溢れかえる廊下はいつもと異なる雰囲気でざわついており、テンションも通常とは異なっている。そんな中、見慣れない年上男子が登場したのだからジロジロと注目を浴びることとなりちょっとした騒ぎである。

「やっぱり俺は外で待ってた方が良かったんじゃないか? 変に注目されてるぞ?
 俺も気まずいけど八早月たちまで変な目で見られたら悪いじゃないか」

「そんなこと気にしなくていいわ、奇異の目で見られる事には慣れているし。
 それとも男子一人が私たちと一緒だからという意味だったかしら?」

 そんなことを話していても聞こえてくるのが周囲のひそひそ話である。「あれって櫛田さんの彼氏?」「高校生かな、年上だよね」「私服だから別の学校だよね、久野高生かなぁ」等々、その内容はさまざまだ。

 とは言え、これで気にするなと言う方が無理だというのは飛雄にしか当てはまらないようで、八早月が気にしている様子はない。それでもずっと見世物になっているのは本意ではないと、遠巻きの生徒たちに聞こえるよう大きめの声で周囲を諭す。

「あなた方? 遠巻きに他人を値踏みするのは褒められたものではありません。
 私をどう思おうがなんと言おうが構いませんが、こちらのお方に失礼ですよ?
 こちらの男子には心に決めた想い人がいらっしゃるのですから滅多な事を言うものではありません」

 この言葉を受けて周囲の生徒たちは一斉に口を閉じ、それぞれ展示回りへと去って行った。それと同時になにも言えなくなった者はここにもいて、まず当の飛雄は放心状態に近い。綾乃に美晴、夢路はあまりに哀れな言われようにどうすればいいのかわからず言葉に詰まっていた。

「では参りましょうか、飛雄さん、こちらに夢路さんの書が展示してあるのです。
 そこから上へ向かって回って行きましょう」

 皆を黙らせてやったと得意げな八早月だけがご機嫌で飛雄の手を引いていく。何とか二人の仲を近づけたいと考えている三人は、零愛がせっかく気を使って飛雄を寄こしたのに無駄になりそうだと落胆しながら力なく後へ続く。

 だがこの状況のお蔭か、期せずして八早月に手を握られた飛雄はすっかりと舞い上がっており、誤解はいつか解けばいいし、今日明日いくらでもチャンスはあると楽観的になっている。

 こうして中等部の校舎を回っているうち、あっという間に昼になっていた。


「それにしても本日給食がないことを失念していたのはうっかり過ぎね。
 高等部の出店があるからとお小遣いをもらっておいて正解だったわ。
 飛雄さんの用意はどうかしら、私が誘ったのだからなんでもご馳走するわよ?」

「なに言ってんだってば、それくらいちゃんと持ってきてるさ。
 俺たち御神子みかんこは別にボランティアじゃないんだから、同年代に比べたら懐は温かい方だぜ?」

「なるほど、給金が出ているのですね、それなら私と同じなので安心しました。
 それでもお礼がしたいのでお昼だけでもご馳走させてくださいね。
 なにか気になるものはありましたか?」

 高等部の屋台が並ぶ中庭の通路で八早月と飛雄が立ち話をしていると、美晴と夢路が少し離れたところで誰かと話をしている。どうやら小学校の同級生らしい。

「八早月ちゃん、綾ちゃん、アタシたち『おな小』の子に誘われちゃった。
 一緒に回れなくてごめんだけど、無碍にもできないから勘弁してー」

「飛雄さんもごめんなさいね、八早月ちゃんをよろしくお願いします。
 綾ちゃんも夕方かな、明日かもだけどまたね」

「わかったわ、お友達は大切にしないといけないもの、こちらは気にせずどうぞ。
 たまには二人を旧友へ譲らないとバチが当たってしまうし楽しんで来てね」

 突然ひょんなこと・・・・・から二人が抜けてしまったが、それぞれに付き合いはあるのだし、仕方のないことだと納得した八早月である。だがその直後、まさか綾乃までもが連れ去られ・・・・・るとは予想していなかった。

 二人と別れた後、昼食を選び中庭に用意された特設テーブルを三人で囲む。食べ終わってからも談笑していたのだが、そこへ意外な人物が近づいてきた。

「こんにちは、もう中等部は回り終わりましたか?」

「あら、直臣から声をかけてくるなんて珍しいわね。
 いけない、学校では先輩なのだから敬意を払わないといけなかったわ」

「そんな風に使い分けるのは難しいでしょうから構いません。
 僕の友人たちは事情を知っていますし、筆頭のご友人も同じですよね。
 そ、それでですね…… 実はそのご友人にお話が……」

「綾乃さんのことかしら? もしお邪魔だったら席を外しますよ?
 いつの間にそういう関係になったのか知らないけれど、お似合いではないかしら」

 自分のことには無頓着で、飛雄の気持ちに全く気付かない割にはこう言った色恋沙汰を勘ぐるのが好きな八早月は、気を利かせているのか冷やかしているのか、どちらとも言えない雰囲気をかもし出している。

 そんな態度に一瞬ためらいを見せた直臣だが、いったん深呼吸をしてから背筋を伸ばし改めて口を開く。

「いえ、とりあえずそのままで大丈夫です。えっと…… それで……
 寒鳴さん、良かったら午後は一緒に回りませんか?」

「ええ構いませんよ、四宮先輩が誘ってくれるなんて光栄ですから喜んで。
 でも先輩のクラスの女子に恨まれたりしませんよね?」

「まさかそんなことあるわけありません。考えすぎです。
 では高等部の演劇が十三時半からなので早めに行って席を抑えましょうか。
 それでは筆頭、僭越せんえつながらご友人をお借りし接遇せつぐういたします」

 冷やかしてはみたものの本当に誘って連れて行くとは思っていなかったし、綾乃があんなすんなりついていくとも考えていなかった八早月は、珍しく驚いたのか呆けたように動きを止めている。それを見ていた飛雄は八早月の意外な一面を可愛らしいと感じ、ますます好意を高めるのだった。

 いつもはシャンとして強気な少女もこんな表情を見せるのかという意外性と、造形や仕草自体の可愛らしさからそう感じたのだろう。だが今の飛雄なら内容は無関係かもしれず、まさに『あばたもえくぼ』と言ったところだ。

 そんなこんなで、つい先ほどまでワイワイとはしゃいでいたはずなのに、あっという間に二人きりになり少しつまらないと感じてはいるが、同時にこうなってなんとなく嬉しいとも感じている八早月だった。
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