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第八章 霜月(十一月)
203.十一月二十四日 午後 お互いの気持ち
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八早月と飛雄の距離は確実に縮まっており、それは物理的な距離感にも繋がっている。八早月は元から親しい人との距離が近めなこともあり、それが男女であろうとあまり関係なかった。
だから飛雄の手を取り繋いだまま回ろうがなにも気にしていない。しかし飛雄にとってはそう簡単に割り切れるものではなく、八早月の行動に特別な理由がないとわかっていても意識が高まってしまう。さらに言えば手汗が気になって仕方がない。
とは言え嬉しい気持ちのほうが勝っていることは間違いなく、あえて手を離さなくてもいいのではないかと、そのまま八早月のしたいよう流れに任せていた。
その八早月はと言うと、自分の通う学園でのイベントと言うこともあって飛雄に喜んで貰いたい気持ちが最優先だった。そんなこともあり飛雄向けの出し物を探すのに夢中で、手を引かれ恥ずかしそうについてくる飛雄の表情には気が付いていない。
半ば暴走とも言える行動力で飛雄を引き回し運動部を中心に回って行くうち、八早月は知らず知らずの間に飛雄に魅かれて行った。受け身になっている飛雄などはなおさらで、もはや頭の中はピンク色状態となり誤解を解くなんて目的は忘れ去られている。
極めつけは校庭でやっていた野球同好会の主催するゲームへ参加した時のことだ。それはベースを二つ置いて挟殺プレイで何秒間生き残れるかと言う単純なものだったが、始めてみる動きに八早月はますます胸を高まらせた。
「飛雄さん凄かったです! 最後は体が地面につきそうで転ぶかと思いました。
でもあそこから起き上がって次の枕までたどり着いたのは素敵でした。
野球とはあれほど行ったり来たりが激しいスポーツなのですね。
朝おっしゃっていたダッシュを繰り返す練習の意味が良く分かった気がします」
「枕じゃなくてベースね、グラウンドにはあれが四つあるんだよ。
それを結んだ四角形のことをダイヤモンドって呼ぶんだけどさ――」
「なるほど、それで『喫茶 ダイヤモンド』だったわけね、とても面白いです。
それに英語が上手で羨ましい限り、私はどうも苦手意識があって嫌いなの」
「そんな難しいもんじゃないよ、アメリカやイギリスなら子供だって英語だぜ?
いきなりは無理でも使ってるうちに覚えていくもんだと思うけど、まあそこまでが大変だろうな」
「ええ、私も漢文や古文はすらすら読めますからその言い分もわかります。
でも必要性が無いから覚える気にならないと言うのが最大の理由なのでしょう。
将来にわたって八畑村から出ることもないので今後も不要のままですしね」
「やっぱり当主ともなると将来が決まってしまってるってことか。
八早月はそれでいいのか? もっと自由に生きてみたいと思わない?
ウチは姉ちゃんが跡継ぐって言ってるけど、多分俺に気を使ってんだよなあ」
「零愛さんは優しいお姉さんなのですね、普段は厳しいように感じますが。
それも飛雄さんのためにあえてしていることなのかもしれませんね。
私も厳しくするだけではなく見習わなければなりません」
「当主の筆頭ってのは普段どんな役目があるんだ? リーダー的な立場だよな?
失礼承知で言うけど、中学生の身で大人を率いるってのはかなり大変だろ?」
「そうでもありません、分家の皆は私を過剰に持ち上げてくれますしね。
長い年月受け継がれてきた八家と言う仕組みは絶対的な物と言ったところです」
ここでも八早月は綾乃に言われた通り、武術で分家全員を上回ることを黙っていた。とにかく自分を強くは見せないことがごく普通の女子中学生の有り方なのだと言われれば素直に従う八早月である。
注意すべき点は、自分を卑下したり貶めたりしないことと謙遜に聞こえるような言い回しはしないことらしい。一番簡単なのはその手の話題になった時には自分のことを話さない、これならあえて真実を伝えないだけで嘘をつかずに済む。
それでも飛雄のような巫に属するものであればある程度の力は推察できる。ゆえに八早月の持つ神通力が強大で、飛雄をはるかに上回っていることは承知しているのだ。ただ武術の腕前に関しては早々わかるものではなく、一緒に鍛錬した様子から推し量るのみである。
こうしてそれぞれの思惑が交錯した一大イベントは初日を終えた。もう辺りはすっかり暗くなっているが、高等部の校舎内では明日の準備や補修等が慌ただしく行われている。
八早月たちも高校へ進めば同じように出店出来ると思うと楽しみで、そんなことを皆で語り合いながら学園を後にした。
だから飛雄の手を取り繋いだまま回ろうがなにも気にしていない。しかし飛雄にとってはそう簡単に割り切れるものではなく、八早月の行動に特別な理由がないとわかっていても意識が高まってしまう。さらに言えば手汗が気になって仕方がない。
とは言え嬉しい気持ちのほうが勝っていることは間違いなく、あえて手を離さなくてもいいのではないかと、そのまま八早月のしたいよう流れに任せていた。
その八早月はと言うと、自分の通う学園でのイベントと言うこともあって飛雄に喜んで貰いたい気持ちが最優先だった。そんなこともあり飛雄向けの出し物を探すのに夢中で、手を引かれ恥ずかしそうについてくる飛雄の表情には気が付いていない。
半ば暴走とも言える行動力で飛雄を引き回し運動部を中心に回って行くうち、八早月は知らず知らずの間に飛雄に魅かれて行った。受け身になっている飛雄などはなおさらで、もはや頭の中はピンク色状態となり誤解を解くなんて目的は忘れ去られている。
極めつけは校庭でやっていた野球同好会の主催するゲームへ参加した時のことだ。それはベースを二つ置いて挟殺プレイで何秒間生き残れるかと言う単純なものだったが、始めてみる動きに八早月はますます胸を高まらせた。
「飛雄さん凄かったです! 最後は体が地面につきそうで転ぶかと思いました。
でもあそこから起き上がって次の枕までたどり着いたのは素敵でした。
野球とはあれほど行ったり来たりが激しいスポーツなのですね。
朝おっしゃっていたダッシュを繰り返す練習の意味が良く分かった気がします」
「枕じゃなくてベースね、グラウンドにはあれが四つあるんだよ。
それを結んだ四角形のことをダイヤモンドって呼ぶんだけどさ――」
「なるほど、それで『喫茶 ダイヤモンド』だったわけね、とても面白いです。
それに英語が上手で羨ましい限り、私はどうも苦手意識があって嫌いなの」
「そんな難しいもんじゃないよ、アメリカやイギリスなら子供だって英語だぜ?
いきなりは無理でも使ってるうちに覚えていくもんだと思うけど、まあそこまでが大変だろうな」
「ええ、私も漢文や古文はすらすら読めますからその言い分もわかります。
でも必要性が無いから覚える気にならないと言うのが最大の理由なのでしょう。
将来にわたって八畑村から出ることもないので今後も不要のままですしね」
「やっぱり当主ともなると将来が決まってしまってるってことか。
八早月はそれでいいのか? もっと自由に生きてみたいと思わない?
ウチは姉ちゃんが跡継ぐって言ってるけど、多分俺に気を使ってんだよなあ」
「零愛さんは優しいお姉さんなのですね、普段は厳しいように感じますが。
それも飛雄さんのためにあえてしていることなのかもしれませんね。
私も厳しくするだけではなく見習わなければなりません」
「当主の筆頭ってのは普段どんな役目があるんだ? リーダー的な立場だよな?
失礼承知で言うけど、中学生の身で大人を率いるってのはかなり大変だろ?」
「そうでもありません、分家の皆は私を過剰に持ち上げてくれますしね。
長い年月受け継がれてきた八家と言う仕組みは絶対的な物と言ったところです」
ここでも八早月は綾乃に言われた通り、武術で分家全員を上回ることを黙っていた。とにかく自分を強くは見せないことがごく普通の女子中学生の有り方なのだと言われれば素直に従う八早月である。
注意すべき点は、自分を卑下したり貶めたりしないことと謙遜に聞こえるような言い回しはしないことらしい。一番簡単なのはその手の話題になった時には自分のことを話さない、これならあえて真実を伝えないだけで嘘をつかずに済む。
それでも飛雄のような巫に属するものであればある程度の力は推察できる。ゆえに八早月の持つ神通力が強大で、飛雄をはるかに上回っていることは承知しているのだ。ただ武術の腕前に関しては早々わかるものではなく、一緒に鍛錬した様子から推し量るのみである。
こうしてそれぞれの思惑が交錯した一大イベントは初日を終えた。もう辺りはすっかり暗くなっているが、高等部の校舎内では明日の準備や補修等が慌ただしく行われている。
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