限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第八章 霜月(十一月)

209.十一月三十日 夜 憂鬱明けの騒動

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 金曜日の放課後になり綾乃の家に集まっての宿泊勉強会の日がやって来た。二度目ともなると手際も良くなり、美晴と夢路は朝のうちに荷物を玄関先へと用意してきたようだ。二人ともあっという間に着替えを終え、八早月たちの迎えが来るのを今か今かと待っていたらしい。

 二人を拾ってから綾乃の家へと向かい、事前に購入しておいてもらったお菓子やジュースを玄関まで運んでもらって準備完了だ。いったい何泊するつもりなのかと言うくらいの物量に、綾乃の母親は大口を開けて驚いていた。

「いや、だから私は多いと言ったんですよ、お嬢はいつも大雑把すぎやすぜ?
 大きなカバンと言っても段ボール二つ分もあるわけないと思ったんですがねえ」

「大丈夫よ板倉さん、早々痛む物でもないし多い方があれこれ選べて楽しいわ。
 それより自分たちの生菓子四人分・・・、忘れずに選んだかしら?」

「ええ、ちゃんと五つ・・買って参りました。例によって社長は二つですからね。
 それにしても、本当に皆さんの分はいらなかったんですかい?」

 その疑問には大きな箱を持ち上げながら得意そうな夢路が答えた。

「板倉さん、これ見てください。昨晩作っておいたケーキがあるんですよ?
 ママも張り切って手伝ってくれたんで用意は万全、ご心配なくー」

「なるほど、今時の中学生は立派なもんですねぇ、ケーキまで作りますか。
 お嬢なんて…… あいや、なんでも、包丁より刀が得意だとか言いませんよ?」

「もう、板倉さんはすぐそう言うこと暴露する! 私だって恥じらうのですよ?
 ほうらご覧なさい、この夢路さんの嬉しそうなお顔、いつもこうですから」

「まあまあ、別に八早月ちゃんの弱みを見つけて喜んでるわけじゃ無いってば。
 苦手なところを知るとホッとするのよね、やっぱり同じ人間なんだってさ」

「一体私はなんだと思われているのかしら、れっきとした人間のはずよ?
 大体みくずさんやみいさんに言われるならまだしも、夢路さんにまで言われてしまうとは驚きを通り過ぎて呆れるしかないわね」

 気楽に笑い話をしている間に荷物が運び込まれたが、そろそろ夕飯の時間だと言うことで勉強は後回しになった。板倉にはまたもや綾乃の母からコーヒーが渡され、そんなに眠そうに見えるのかと解せない様子で帰って行った。


 食事が終わるといよいよ勉強の時間、ではなく次は順番に風呂へ入り、髪を乾かすのにもひと騒動である。美晴は鉢巻のようにタオルを巻き、八早月はグルグルと捻じってから髪紐で無造作に縛ったのだが、それはもちろん綾乃と夢路に叱られてしまった。

「綾乃さんのお母様は本当にお料理が上手よね、お鍋おいしかったわ。
 鶏の肉団子ってあまり食べる機会が無かったけれど好みの食感とお味なのは新たな発見ね」

「うちの定番で冬になると頻繁に出てくるから私もパパも飽きてるけどね。
 でも今日は八早月ちゃんが差し入れてくれた生しいたけがおいしかった!
 お土産の箱に自然薯も入ってたから明日のお昼はとろろそばだってさ」

「それこそ私は週に何度も食べていて飽きが来ているのだけれどね。
 もう冬だからあまりおいしいものが無くてごめんなさい。
 玉枝さんも用意するのに悩んでいたわ、ところでそろそろいいかしら?」

「もうちょっとじっとしていて、ちゃんと乾かさないと風邪引いちゃうでしょ。
 ハルちゃんも短いからって油断しちゃダメ、夢ちゃんの言うこと聞くのよ?」

 八早月の背後では綾乃がドライヤーを手にし、美晴の後ろでは夢路が愚痴をこぼしながらもタオルドライの面倒を見ていた。落ち着きのない二人相手はまるで小さな妹を世話しているようだと綾乃は含み笑いをした。

 こうして慌ただしい夜のおつとめ・・・・が終わるといよいよ勉強の時間、とはいかないのがこの四人である。学校で相談しているときはやる気に満ち溢れていた夢路も、今は気になることがあってどうにも落ち着かないらしい。


「それで本題なんだけどさ、この間飛雄君が帰る時にホームで何話してたのよ。
 随分と長く話し込んでたから気になって気になって仕方なかったわ。
 それなのにもうほぼ一週間だよ? 少しくらい聞かせてくれてもいいでしょ?」

「そんな大した話でも無かったのだけれど、気になるのは当然でしょうね。
 なんと言っても夢路さんが間に入ってくれなかったら頓珍漢なままだったわ。
 私に原因があるだなんて思っても見なかったもの、本当にありがとう」

「どういたしましてだけどそれはどうでもいいのよ! 私は真相が知りたいの。
 どうなの? いくら遠いからと言っても付き合うくらいにはなったでしょ?
 あー、羨ましいってことはないけどいつも近くで見守れなくてもどかしい。
 飛雄君が九遠の高等部へ転校してくれたら毎日見られるのにね」

「ね、じゃないよ、夢はそうやって自分の妄想を無理やり現実化しないこと。
 そんな急に話が進むわけないでしょ、だってこの間ようやく告白だよ?
 アタシだったら返事するだけでひと月はかかっちゃうよ」

「だよねえ、そのまま帰るところだったしまだ進展なんて早すぎると思うよ?
 しかも転校してこいだなんて考えが突飛で乱暴すぎだよー
 ハルちゃんみたいにすぐ近くの学校だとしても返事に一か月だもん。
 ―― って、告白されたの? もう付き合ってるってこと!?」

「いやいやされてないけどもしされたら考え込んじゃうってこと。
 てか、アタシの話はどうでもいいの、今は八早月ちゃんを問い詰めないとだよ」

「三人とも興味津々のところ悪いのだけれど、別に面白い話にはなってないわよ?
 確かにあの時しっかりと告白されて交際を申し込まれたし理解もしているわ。
 でも話をしているうちに交際の定義がわからなくなってしまったのよね。
 だってそうでしょう? 次はいつ会えるのかもわからない、会えなくても構わないならそれほど好きでもなくて交際と言う形式が希望ということよ?」

「いやあ、それはアタシでもわかるくらいおかしいと思うしかわいそう……
 別に遠距離恋愛なんて珍しくないし、普段はメッセのやり取りでいいじゃない。
 もしかしてそれで告白をその場で断っちゃったの?」

「断ったわけではないはずよ、どちらかと言うとお断りされたのではないかしら」

 この発言に三人は文字通り飛び上がって驚いてしまった。リアクションが大げさな夢路は、あまりの慌て振りに後ろへひっくり返り柱に頭をぶつけて悶絶しながらも、八早月を問いただそうと目を光らせた。
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