限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第八章 霜月(十一月)

211.十一月三十日 夜 深層の真相

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 考え込んで黙ったままの八早月とそれを見つめている三人。この謎の空気感はもう十数分ほど続いている。問いを投げかけた綾乃はいったいいつになったらこの重苦しさから解放されるのだろうかと頭を悩ませていた。

 自分の気持ちを考えるようにと言ってはみたものの、言いたいことが喉まで出かかっていて今にも飛び出しそうである。息を呑む緊迫感の中、三人に見つめられたまま動かない八早月だったが、綾乃の言っていることが理解できたのかとうとうぼそりと呟いた。

「私のしようとしているのは飛雄さんを婿として迎えること……
 なぜそうしたいのか? 愛の告白をされたから? 他の人だったら? ……」

「そう、そう言うことなのよ! ここまで来たらわかるでしょ?
 八早月ちゃんが飛雄さんのことをどう思ってるか、なんで彼ならいいと思うのかってことなのよ!」

「そうよね、長男なのに跡取りではないし鍛冶もやると言ってくれたのよ?
 私としてはこんなに嬉しいことは無かったわ」

「あーん、また遠のいたー、そうじゃなくて、きっとなにか決め手になることがあったんでしょう?」

「決め手は条件に合うからだわ、もちろん彼を尊敬しているからだけれど。
 だって飛雄さん英語が得意なのよ? 野球に打ち込んでいるのも素敵よね。
 お話していると色々なこと知っていて知的で博識だとも感じるわ。
 これほどの候補者は早々出てくるとは思えないから捕まえておきたいのよ。
 そうでなければ例の観光会社の子と見合いをしなくてはいけないし、それが済んでもまた別の話がやってくるだけだもの」

「あのね八早月ちゃん、誰かに向かって捕まえておきたいなんて言っちゃダメ。
 それは飛雄さんに限らず都合よく抑えておくって意味になっちゃうよ?
 私たちなら悪意はないとわかるけど、誰でも理解できるわけじゃないからね?」

 今まで誰かに叱られたことなどなかった八早月は、綾乃の発言に驚きながらも感激していた。きっと八早月の為を思って厳しい言葉をかけてくれたと言うのがありありと出ているからである。

 八早月自身が分家等の後身を指導する立場だからこそすぐに理解でき、綾乃が本当に親身になってくれていることはとても嬉しく、信頼と尊敬に値すると感じていた。

「綾乃さんありがとう、ご指摘もっともだしそんなことを言うなんて恥ずべきね。
 でも言い方が悪かったと言うだけでなく、実際にそう言う目で見ていたわ。
 私にとって婿とは、跡継ぎを作るために必要だと言うのが大前提なのよ。
 きっと飛雄さんに失礼なことを言ってしまったから嫌われてしまったんだわ。
 ついこの間まではただ一緒に居るだけでも十分だったのに……」

『パッチーン!』
「いったーい! ちょっと夢ってば興奮しすぎだって言ってるでしょ!
 わかるよ? わかるけど限度ってもんがあるっての!」

「ごめんごめん、ハルのお尻は引き締まってて叩きやすいんだよね。
 でもさ、これでちゃんとわかったでしょ、八早月ちゃんが飛雄さんをどう想っているか」

「どう思っているのかしら、一緒に居たくても無理なものは無理なのよ?
 養子に貰って適齢になったら結婚するのが一般社会では無難なのかしら」

「いやいやいや、だからそれもないってば、まずは即結婚から離れよう?
 まずはお付き合い、そう、中高生らしく健全な交際から始めるべきよ。
 そりゃしょっちゅう会えないだろうけどスマホもあるし別にいいじゃない。
 最初はメッセのやり取りだけでもいいし、休みの日には行かれるでしょ?
 板倉さんは大変かもしれないけどそれくらい快く引き受けてくれるよ」

「でも毎週と言うわけにはいかないわ、板倉さんにもお休みは必要でしょ?
 それに結婚したらどうせ毎日顔を合わせるのだから今は少なくてもいいわ。
 だからこそ将来は婿に来てくれる約束をしてほしいのよね。
 直前で断られたらすぐに誰か探さないといけなくなって大変だもの」

「う。うーん…… まあ今はこのくらいなのかな、夢ちゃんどう思う?」

「私は婚約? 許嫁? になってもらった方がいいと思うよ。
 だって身の回りに許嫁がいる人なんてそうそう現れないじゃないの!」

「夢…… ブレなさ過ぎてさすがのアタシも呆れるよ。
 もうちょっと友達の将来について真面目に考えられないもんかねえ」

 美晴にそう言われた夢路は舌をペロリと出して誤魔化している。八早月の考えとしては、確かに夢路の言う通り許嫁になっておいてもらった方が間違いはない。しかしそれは同時に飛雄を縛り付ける枷になるだろう。

 八早月の価値観では当たり前のことだが、かと言って他人に押し付けるようなことをしてはならないようだと今は考えを改めつつある。それにしてもなぜそれほど飛雄に、そして形式にこだわるのだろうか。結局のところ八早月は、今も自分自身の気持ちがわかっていなかった。


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