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第十章 睦月(一月)
243.一月五日 午後 身近な謀主(閑話)
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離れたところにいる面子のスマホに文字が流れていく、それを知らないのは八早月だけ、と言っても意地悪で仲間外れにしているわけではない。これはあくまで知られたら台無しになること、つまり八早月と飛雄のことを話し合うためのグループチャットである。
『今頃はもう話し合いが始まってるかなあ うまく行くといいんだけど』
『私も帰らずに顛末を見届けたかったのにママがうるさくてさ』
『インフルなんかにかからなければもっと楽しめたのに
せっかくの正月を半分くらい無駄にしたよ』
『恭二はすぐ治ったんでしょ? ホント災難だったよね』
『そうなんだよね、あの子が持って帰って来たのにケロッとしてて腹立つよ』
『夢の弟ってまだ保育園だっけ? なら仕方ないんだろうね
ウチも保育園の頃にトビと交代でもらってきて家中大変な時あったよ』
『そう言えば八早月ちゃんって病気になったことないんだってさ
八岐大蛇様が護って下さってるからって当たり前のように言ってたね』
『そもそもが丈夫そうだもん雪山なのに薄着だし息は上がらないタフさだし
なのに勉強と恋愛が苦手なところがカワイイ妹て感じよね』
『わかるーこないだ綾ちゃんが送ってきた写真もめっちゃかわいかった
あの横顔って恋する乙女って感じしたもんね』
『まあそう言うハルだって涼君の前では似たようなもんだけどー』
夢路が美晴にも彼氏がいることをあっさりとばらしてしまう。最近は美晴も付き合っていることを認めており、年末もデート三昧でまたも小遣いを前借りしていたらしい。
『八早月はともかくハルにも彼氏がいるのに高校生のウチにいないのは問題だな
告白されるにしてももっとマシな男が良かったよ』
『えー! 零愛さん告白されたの? それで断っちゃったの?
聞きたい聞きたいー』
『そう言う夢はどうなのよ なんかいい話ないわけ?
あるならバッチリ応援しちゃうぞー?』
『零愛さんに教えたらこうやって裏で暗躍されちゃうからなー
でも残念ながら何もないしこれからもなさそうで悲しみ』
『暗躍って人聞きが悪いってば せめて後押しって言って欲しいもんだね
トビも親父たちも行動が遅いんだからイライラするよ
まあ八早月がうまく乗ってくれればいいんだけどそうとも限らないでしょ』
『八早月ちゃんは純粋で信じやすいから大丈夫だと思うなあ
それに恋愛感情より家のこと優先としても話を進めたがってるのは確かだしね』
『そこはちょっと不憫に感じるとこだな
あの年で一族や家系のことを最優先に考える思考がそもそも不幸じゃない?
もっと気楽に楽しく恋愛して欲しいとは思ってるけど相手がトビだからなあ』
『でも零愛さんも親御さんも飛雄君を過小評価してると思うんだよね
スポーツマンで頭も良くて優しくてそれでいて旧家のしっかりした男子だよ?
そんな物件そうそうないって考えたら評価高くなるはずなのになあ』
『でたな夢の優良物件発言がさ そんなんだから男子に好かれないんだよ
小学校の頃からすぐ相手のこと値踏みするようなこと言うんだもん』
『私はどちらにしてもモテ女じゃないからどうでもいいよ
生涯で一人いればいいしいなかったら見合いでも独身でもいいや
小鈴ちゃんみたいに適齢期過ぎてから出会うことだってあるかもだしさ』
『あー小鈴さんって夢ちゃんの従姉だよね? うまく行ってるって聞いたよ
お正月も二人で出かけてたんだって八早月ちゃんが教えてくれたもん』
『それがさ、なんか車愛好家の集まりみたいなやつらしくてね
全然二人きりでもないしムードも何も無さそうな感じ
まあ小鈴ちゃんは満足してたみたいだからいい関係なのは間違いないけどね』
『なんか世の中おかしいわぁ JKのウチが独り身なのにさあ
年下の中学生には彼氏がいて年上の三十路もいい感じって聞かされると焦る
よく考えたらトビが婿に行っちゃったらウチ一人でお役目やらないとだよ?
ヤバくね?』
零愛がそう嘆くと全員から『ヤバい』『うんうん』『ガンバレ!』とスタンプが飛んでくる。実際は本当に焦っているわけでも彼氏が欲しくてたまらないわけでもなく、あえて自分をネタにして楽しんでいるだけなのだ。
とにかく今は自分の恋愛よりも八早月と飛雄をくっつけることに専念したく、今回も父親たちを焚きつけて挨拶へ行かせたのだ。方や迎える側の八早月には高岳家一行が結納に来たと早とちりしたと見せかけ、正式な場を設け派手にもてなして押し切ってしまえと唆していた。
その計画を立てたのもこのグループチャットであり、八早月の普段の言動や行動も逐一零愛へと報告されていた。とは言え八早月の思考や行動パターンは、こと恋愛ごとに関して言えば単純で予想しやすいものである。
おかげでそれほど工夫はせずともうまく行くだろうと全員が考えていた。問題はそれを受けた高岳家の連中が素直に受けるかどうかだ。零愛の予想では飛雄と父はともかく叔父はかなりの抵抗を見せると思っている。
叔父の高岳磯吉は、どんなことがあっても自分の代で一族を崩壊させたくないとの考えが有り、わずかな危険性も排除したい慎重な人なのだ。零愛たちが中三の修学旅行でも同じバスに乗るなだとか、日程をずらせと無茶を言ってきたくらいである。
だが今はそんなことを気にせず、八早月の押しの強さと家の格で押し切られてしまえと不敵な笑みを浮かべるのだった。
『今頃はもう話し合いが始まってるかなあ うまく行くといいんだけど』
『私も帰らずに顛末を見届けたかったのにママがうるさくてさ』
『インフルなんかにかからなければもっと楽しめたのに
せっかくの正月を半分くらい無駄にしたよ』
『恭二はすぐ治ったんでしょ? ホント災難だったよね』
『そうなんだよね、あの子が持って帰って来たのにケロッとしてて腹立つよ』
『夢の弟ってまだ保育園だっけ? なら仕方ないんだろうね
ウチも保育園の頃にトビと交代でもらってきて家中大変な時あったよ』
『そう言えば八早月ちゃんって病気になったことないんだってさ
八岐大蛇様が護って下さってるからって当たり前のように言ってたね』
『そもそもが丈夫そうだもん雪山なのに薄着だし息は上がらないタフさだし
なのに勉強と恋愛が苦手なところがカワイイ妹て感じよね』
『わかるーこないだ綾ちゃんが送ってきた写真もめっちゃかわいかった
あの横顔って恋する乙女って感じしたもんね』
『まあそう言うハルだって涼君の前では似たようなもんだけどー』
夢路が美晴にも彼氏がいることをあっさりとばらしてしまう。最近は美晴も付き合っていることを認めており、年末もデート三昧でまたも小遣いを前借りしていたらしい。
『八早月はともかくハルにも彼氏がいるのに高校生のウチにいないのは問題だな
告白されるにしてももっとマシな男が良かったよ』
『えー! 零愛さん告白されたの? それで断っちゃったの?
聞きたい聞きたいー』
『そう言う夢はどうなのよ なんかいい話ないわけ?
あるならバッチリ応援しちゃうぞー?』
『零愛さんに教えたらこうやって裏で暗躍されちゃうからなー
でも残念ながら何もないしこれからもなさそうで悲しみ』
『暗躍って人聞きが悪いってば せめて後押しって言って欲しいもんだね
トビも親父たちも行動が遅いんだからイライラするよ
まあ八早月がうまく乗ってくれればいいんだけどそうとも限らないでしょ』
『八早月ちゃんは純粋で信じやすいから大丈夫だと思うなあ
それに恋愛感情より家のこと優先としても話を進めたがってるのは確かだしね』
『そこはちょっと不憫に感じるとこだな
あの年で一族や家系のことを最優先に考える思考がそもそも不幸じゃない?
もっと気楽に楽しく恋愛して欲しいとは思ってるけど相手がトビだからなあ』
『でも零愛さんも親御さんも飛雄君を過小評価してると思うんだよね
スポーツマンで頭も良くて優しくてそれでいて旧家のしっかりした男子だよ?
そんな物件そうそうないって考えたら評価高くなるはずなのになあ』
『でたな夢の優良物件発言がさ そんなんだから男子に好かれないんだよ
小学校の頃からすぐ相手のこと値踏みするようなこと言うんだもん』
『私はどちらにしてもモテ女じゃないからどうでもいいよ
生涯で一人いればいいしいなかったら見合いでも独身でもいいや
小鈴ちゃんみたいに適齢期過ぎてから出会うことだってあるかもだしさ』
『あー小鈴さんって夢ちゃんの従姉だよね? うまく行ってるって聞いたよ
お正月も二人で出かけてたんだって八早月ちゃんが教えてくれたもん』
『それがさ、なんか車愛好家の集まりみたいなやつらしくてね
全然二人きりでもないしムードも何も無さそうな感じ
まあ小鈴ちゃんは満足してたみたいだからいい関係なのは間違いないけどね』
『なんか世の中おかしいわぁ JKのウチが独り身なのにさあ
年下の中学生には彼氏がいて年上の三十路もいい感じって聞かされると焦る
よく考えたらトビが婿に行っちゃったらウチ一人でお役目やらないとだよ?
ヤバくね?』
零愛がそう嘆くと全員から『ヤバい』『うんうん』『ガンバレ!』とスタンプが飛んでくる。実際は本当に焦っているわけでも彼氏が欲しくてたまらないわけでもなく、あえて自分をネタにして楽しんでいるだけなのだ。
とにかく今は自分の恋愛よりも八早月と飛雄をくっつけることに専念したく、今回も父親たちを焚きつけて挨拶へ行かせたのだ。方や迎える側の八早月には高岳家一行が結納に来たと早とちりしたと見せかけ、正式な場を設け派手にもてなして押し切ってしまえと唆していた。
その計画を立てたのもこのグループチャットであり、八早月の普段の言動や行動も逐一零愛へと報告されていた。とは言え八早月の思考や行動パターンは、こと恋愛ごとに関して言えば単純で予想しやすいものである。
おかげでそれほど工夫はせずともうまく行くだろうと全員が考えていた。問題はそれを受けた高岳家の連中が素直に受けるかどうかだ。零愛の予想では飛雄と父はともかく叔父はかなりの抵抗を見せると思っている。
叔父の高岳磯吉は、どんなことがあっても自分の代で一族を崩壊させたくないとの考えが有り、わずかな危険性も排除したい慎重な人なのだ。零愛たちが中三の修学旅行でも同じバスに乗るなだとか、日程をずらせと無茶を言ってきたくらいである。
だが今はそんなことを気にせず、八早月の押しの強さと家の格で押し切られてしまえと不敵な笑みを浮かべるのだった。
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