限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第十章 睦月(一月)

258.一月八日 昼過ぎ たまには、こんな、パーティーでも

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 長い年末年始の正月休み、中学生にとっては冬休みが明けたその日は始業式と宿題提出があるだけと言うつまらない一日である。八早月のように遠方からやって来ている生徒にとっては授業もないのに丸一日潰されてしまう余計な日との位置付けでもあった。

 しかし今日はそんな愚痴をこぼしたり、授業がないからと呆けることなど許されない。そしてなぜか今、いつもの四人は夢路の家で昼食会との名目で集まっている。

「夢路さん? これは一体どういうことなのかしら?
 久し振りの登校なのだから昼食会をするのはわかるわ、でもこれは何?
 家の中で鉄板焼きをするのも驚きですがこの珍妙な形は一体……」

「ふふふ、やっぱり八早月ちゃんは見たことが無かったみたいだね。
 これこそホームポーティーの定番、タコ焼き器なんだよ!」

「ええっ!? これがそうなのですね? あの噂の、まさかこんな形とは……
 でも確かに漫画で見たような気もしますね」

「まあ鉄板の形なんて真剣に見てないから覚えてなくても仕方ないよね。
 それじゃ作ってこうか、私がやるけど綾ちゃんもできる?」

「私は作ったことないなあ、家にたこ焼き器があるなんてすごいね。
 ちょっとびっくりと言うか不思議な感覚かな、屋台で買うものって認識だもん」

「アタシは食べる専門だから夢におまかせー いっつもそうしてるんだー
 小学生の頃も良く集まってたもんね」

 と、こんな風に四者四様な反応と共に、いわゆる『タコパ』が始まった。ホストの夢路は器用にたこ焼きを焼いていき小皿へと盛りつけていく。ソースやマヨネーズ、鰹節は各々お好みで掛けていき熱さを楽しみながら食していた。

「さてと、一段落って感じだから本題に入らせてもらおうかな。
 八早月ちゃん? さあ全て話してもらおうじゃないの! どうなったの?」

「うふふ、百戦錬磨の夢路さんと言えど最近はすぐにボロを出すのね。
 なんで冬休み中に何かがあったのかと考えているのかしら?
 私は飛雄さんが親御さんたちと共にお話へやってくるなんて言っていないわ。
 つまり零愛さんからすべて聞いているのでしょう?」

「なるほど、飛雄君と親御さんが揃って八早月ちゃんちへ来たんだね。
 それは例の許嫁の話をしに来たってことでしょ? それでどうなったのよ?」

「しまった、今のですでに誘導されていたなんて気付かなかったわ……
 やっぱり夢路さんは悪知恵が働くわねえ」

「いやいや、綾ちゃんが帰る時に飛雄君たちが来るって自分で教えたんでしょ?
 だから知ってて当たり前だと思うけど? ちなみにまだ零愛さんから連絡は来てないよ」

「そうなのですか? 私はてっきり零愛さんから聞いている物だとばかり。
 飛雄さんは土曜の夕方に帰られたので、帰宅後に話す時間はあったと思うのですが」

「あらま、それなら昨日零愛さんが問い詰めててもおかしくないよねえ。
 飛雄君に何かあったのかな? 零愛さんに折檻されたとかー」

「可能性は十分ありそうです、しかし今後は櫛田家の婿になる身ですからね。
 もう少し大切にしてもらわないと困ってしまいます」

「婿になるのは決まったんだ! それじゃ許嫁になったってことなのね!?
 ねえ今どんな気持ち? 許嫁が決まったってどんな気分になるのかぜひ聞かせてよ!」

「ちょっと夢、またつば飛んでるってば、ホント興奮しすぎるとこれだから……
 八早月ちゃん、うちの夢がバカでゴメンネ、はいハンカチ使って」

「ふふ、美晴さんは夢路さんの保護者ってことなのね、とても微笑ましいわ。
 付き合いの長さは後からどうにもできないから羨ましいとさえ感じてるのよ」

「そんなことより許嫁が決まった気分を――」

 そんな風に夢路大興奮劇が展開されているのだが、少々ボリュームが大きすぎたようだ。夢路の母がやって来てチクリと小言を言ってきた。

「ちょっと夢ちゃん、リビングでそんなに騒がないでちょうだいね?
 この間お隣さんに『お嬢さん随分お元気ですね、まだ小学生でしたっけ』って言われちゃったわよ」

「あっ、はい…… ――自分だってワイドショー大好きなくせにさぁ……
 いちいち小言が多いんだよ、そのくせ恭二には何にも言わないんだよ?」

 まさか表まで声が漏れているわけがないと高をくくっている夢路は、母親が立ち去った後に悪態をつく。それに五歳の弟が甘くされているのはおかしくもないだろう。三人は苦笑いしながら夢路の愚痴を聞いていた。

 だがその時、今言われたことを証明するような出来事が起きたのだ。

『ピンポーン』
「こんにちはー 山本いるんだろー? こっちに美晴来てるー?」

「あれって涼君の声じゃない? ハル、まさか今日デートの約束でもしてたの?
 ていうかなんでウチに来たのよ、呼んでもいないのにおかしくない?
 もしかしてハルが声かけたとか?」

「いやいやアタシはなにも言って無かったしメッセも来てないけどなぁ。
 とりあえず出てみよっか、一緒に行くよ」

 夢路と美晴は揃って玄関へと向かう。残された八早月と綾乃は不思議そうな顔をしながら向き合ってから噴き出した。

「一体どういうことなのかしらと思ったけれど、まさか本当にそうなのかしらね」

「夢ちゃんのママが言ってたこともまんざら大げさでもないってことじゃない?
 通りがかりに気がつくって相当のレベルだよ」

「まあそれが本当かどうかは戻ってくればわかるわ、楽しみに待ちましょう。
 でも確かに夢路さんの声は大きくて良く通るから山住まいには向いてるわね」

「そんなこと言ったって八早月ちゃんちから隣の家なんて見えないでしょ?
 隣って四宮先輩の家とドロシー先生の家って聞いたけど随分あるよね。
 川まで行って半分くらいなら向こうの家まで一時間はかかるってことかあ」

「まあそれなりにはかかるわね、でも普段は車で行くから気にならないわ。
 急ぎの用事なら真宵さんに乗せて行ってもらえば十分くらいかしらね」

「なるほど、だから飛雄さんのところまで行けたってわけか。
 車より早いなんてすごいよね、モコもそういうことできるの?」

『俺はそんな凄いこと出来ねえよ、体も小さいから弱小妖相手で精いっぱいさ。
 主が不満なら藻様に頼めばもっと強い守護獣と交換してくれるだろうよ』

「そんなのダメダメ! 私はモコがいいんだもん、弱くてもいいんだからね。
 お役目もないから戦う必要なんて無いの、いつも私のそばにいるのよ?」

 そう言って綾乃はモコを優しくなでるのだった。それを見た八早月は真宵を抱えて撫でようかと考えたのだが『八早月様、それは勘弁願います……』と先に念話を送られてしまい諦めた。

 こうして八早月と綾乃はこっそり楽しんでいるうちに夢路が戻ってきた。どうやら美晴はまだ玄関先で話しているらしい。

「ねえねえ二人とも、涼君から聞いたんだけど金井小で新年祭りやるんだって。
 夕方からは町内会で屋台も出すみたいだから行ってみない?」

「いいかも、なにか面白い出し物みたいなのあるのかな。
 金井町では毎年そんなお祭りやってるの?」

「ううん、初めてだと思うよ、今まで一回もそんなの無かったもん。
 どっかの楽団が来て演奏会もやるんだって、その後に屋台をやるみたい。
 とりあえず行ってみよっかー」

 思わぬところでお祭りに出くわした八早月たちは誘いに乗って出かけることにした。綾乃も夢路もお年玉で懐の温かいこともあり屋台で何を買おうかなんて話をしている。

 子供たちを送り出した夢路の母は、いつの世も正月の子供たちは散在したくてたまらないものなのだな、と笑いながら後姿を見送っていた。
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