限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第十章 睦月(一月)

253.一月八日 夜 高速尋問

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 以前八早月暗殺計画と言うものがあった。その際も手練れの暗殺者が八畑村にやって来たのだが、あっさりと返り討ちにあい当然のように拘束された。その男は誰に雇われたのか、理由はなんなのかなど何も話す気はないと抵抗し、さっさと警察へ引き渡せと終始強気だった。

 だがそれも一晩で覆された。

「またあの時のようなことをするのですか? 私は気が乗りませんねえ。
 よくもまああそこまで出来るものだと感心しますよ」

「確かにあの光景を筆頭にわざわざ見てもらおうとは思いませんね。
 ですが警察へ引き渡すとそこで終わってしまいますので仕方ありません。
 それに臣人殿とあたる殿はすでにやる気マンマンですからなあ」

「私は顔出しませんからね? 宿おじさまに任せますから好きにやってください。
 でも拘束は三日までですよ? それ以上経ったら警察へ引き渡してください!」

「かしこまりました、三日もいらぬと思いますが伝えておきましょう。
 もしかしたらもう終わっているかもしれませんしね。
 ちなみに前回の賊ですが、確か三時間ほどだったかと記憶しております」

「話してしまった方が楽に決まっていますもの、口をつぐむだけ無駄ですね。
 どうせ話すまで拷問され続けるなら早い方がいいに決まってます。
 そこまでして誰かを庇う必要もありませんし」

「悪を請け負う人間は信用商売ですから仕方ないのかと。
 とは言え次がないのだから意味もありませんがね」

 こうして捕らえられたキーマへ尋問する許可が出たわけである。担当は四宮臣人と五日市中の二人だ。八早月は拷問と言っているが実際には拷問と言うほどの事はしていない。少なくともやっている二人はそう考えていなかった。

 尋問の際使う手段と言えば脅しではあるのだが、まずは目の前に用意した大根やカボチャなどが何もない空間で斬り刻まれていくところを見せる。その後、賊を斬ると言って実際に呼士に斬らせる。すると本当に腕や脚が落ちたという感覚と痛みで耐えきれなくなりなんでも話すようになるのだ。

 少なくとも八早月が当主筆頭となってから捕らえた賊はその繰り返しで全員口を割っていた。とは言ってもこれで三例目だが。それ以前のことは把握していないが、同じことをやっていたかそれ以上だったかもしれない。

 八早月は話を聞くだけで恐ろしくて見たくないと言うが、自分もいじめを行っていた中学生を斬ったことがあるし、何なら父の道八など何度も斬られている。尋問との違いは目の前で野菜を斬って見せる脅しの有無くらいである。

 ではキーマ・ターリーはどうだったかと言うと、中に家まで連れて行かれ無人の薪割りを見学させられた後、正座した状態で腿を地面に向かって貫かれた段階で自白に同意した。八早月との戦闘時で膝から下を落とされた感覚を覚えていたため、何か摩訶不思議な技を使われていて、すぐに話さなければ酷い目にあうのは間違いないと悟ったらしい。

◇◇◇

「それでキーマとやら、ぬしはなぜあのまじないに協力していたのだ?
 金で雇われていたと言うのは本当らしいが、正体を知っていたのかね?」

「詳しくは知りません、しかし魔術を信じている秘密結社とは聞いてマシター。
 これはボク独自の調査によるもので未確認情報ですが彼らは産業スパイヨ。
 日本政府は宗教団体へのチェックが甘いし税金免除割合もビックりビッグ。
 これが格好の隠れ蓑になるため海外からスパイ組織が集まって来てマスデス。
 スパイに関する法律がないのも大きな要因の一つデスネー
 ですので彼らもその組織の一つではないかと当たりを付けてたのデース」

「それで君はいわゆる殺し屋なのかね? それとも情報屋のたぐいか?
 今後の処分や受け渡し先はそれ次第と言ったところでもあるな。
 場合によっては母国へ直接でも、避けることも可能ぞ?」

「それよりもボクを雇ったりはしませんかね? 情報収集ならお手の物ヨ?
 日本の脅威になりそうな組織を見つけたら報告しますから」

「うーむ、そうは言っても我らの守護範囲はこの近辺のみであるからな。
 おそらく国だとか言われても筆頭が納得しないと思われる。
 必要だとするとこの十久野郡に瑞間市等の隣接する市区町村程度かのう」

「驚くほど狭い範囲ですね。この強さを持つ人たちが他にもいると言うことネ。
 にわかには信じられませんが、不思議な力をお持ちなのは理解シマシタ。
 もし諜報担当のお仲間がいるのならお手伝いさせていただきたいデス」

「うーむ、お前さん程度が必要になるのか私には判断できないな。
 仕方ない、筆頭への取り次ぎを進言してみよう。
 ちなみにうまいこと言って逃げようとしても無駄だぞ?
 すでに刻印を打ちつけてあるのでどこまでも追うことができるのだからな」

 中は時に平気で嘘をつく。そんな風に無制限で追跡できるような術は無いのだから。それにあったとしてもそんなことを施した様子はなくすぐばれる稚拙な嘘だと言える。だがキーマはあっさりと信じた、と言うよりは逃げる気はないようだった。

「筆頭とはあの少女のコト! ぜひもう一度お会いしたいです。
 ソゥキュー、素晴らしいお嬢さん、完敗感服としか言いようがアリマセーン」

「お主日本育ちと言っていた割に英語訛りがきついな、わざとか?
 色々と大変だと聞くが聞き取りにくくて敵わん、可能なら普通に話せよ?」

「これは失礼しました、ですが親は日本語話せなかったですカラネ。
 ボクもプライベィトでは英語のみですよ? これはホントにホントの話」

「わかったわかった、もうどうでもいいわ、好きにしろ。
 では―― 元恵よ、真宵殿へ連絡し筆頭へ繋ぎを付けてくれ。
 まさかご自宅に連れて行くわけにもいかないだろうから場所も聞くのだ」

「かしこまった、だが八早月様はもう就寝後では?
 まさかこれから起こすわけではないでござろう?」

「それもそうだな、ではこの男は我が家に泊めると言う事か?
 はあ、まったく面倒なことになってしまったわ、逃げるなら好きにしろ。
 だが捕らえた時にどうなるかは知らんぞ?」

 キーマは中が誰かと話している様子が不思議でそれどころではなかった。ぶつぶつ独り言をいうのではなく、明らかに誰かと会話をしている。ここには中とキーマの二人しかいないと言うのに、だ。

「あ、ああ、ボクは逃げませんよ、この村に興味が出てしまったのでネ。
 きっと役に立ちますカラ雇って下さいまセー、プリィズ」

「私には必要ないから別の当主を紹介してやる、だから黙れ、うるさくて敵わん」

「主殿、話し中すまぬ、真宵殿によると八早月様はまだ起きているようだ。
 今なら電話して良いとのことだぞ」

「おお助かった、では早速―― 夜分遅くに失礼いたします、中でござる。
 筆頭に相談なのですが、今日捉えたキーマと言う男はなんでも話すそうです。
 それどころか私共に雇われたいと言いだしておりますがいかがいたしましょう。
 ―――――――― はい、ええ―――――――― まことですか!?
 ―――――――――――― はあ、かしこまりました、そのように致します。
 それではお休みなさいませ」

「どうやら快いお返事がいただけた様子、ハハハ普段の行いが良いのでしょうナ。
 それでボクはどうすればいいのですか?」

「とりあえずは諜報担当の当主へ引き渡す、が、今日のところはうちで寝ろ。
 部屋と布団くらいは貸してやる、だがくれぐれもおかしな行動はとるなよ?
 筆頭のところから見張りを寄こしてくれるそうだからな」

「なに、真宵殿がやってくるのか? ならばぜひ手あわせをしていただきたい。
 手合わせがだめでもせめてじっくりと話をするくらいはいいだろう?」

「何を言うか元恵、さうしたら私の寝る時間が無くなるではないか。
 あまり無茶を言わんでくれ、今度時間を作ってお願いしてやるから」

「主殿、間違いなくお頼み致すぞ? 最近は弱い妖しか斬っておらぬからな。
 何ならその異国人でも構わんか、相当やるのであろう?」

「どうかな、真宵殿無しの筆頭にあっさり負けた程度だから知れてるだろう。
 ―― なあキーマよ、お主はどれくらい強いのだ? 筆頭には負けたがな。
 どの程度の勝負が出来たのか気になるところだ、聞かせて見ろ」

「うーん、割と簡単に負けたとだけ言っておきまショウ、恥ずかしデス。
 ボクからも一つ質問いいですか? 先ほどから誰と話しているのでしょう。
 独り言ではありませんヨネ?」

「ああ、我々八岐八家の当主には守護してくれる者が憑りついているのだ。
 オレの側にいるのは元恵と言う名の武士もののふよ。
 お主の前で薪を割ったのも、脚を貫いたのもな」

「なんと!? そんな幽霊みたいな人がいるのですか!?
 だからあの少女は尋常ではなく強かったと言うわけですか、納得デス」

「いいや、あの時は一人だったと聞いているぞ、あの場に入れず足止めされていたらしいからな」

「なんとなんと! ではやはり純粋な強さなのですね…… 末恐ろしい。
 それでボクを見張るために来るのはその筆頭様の守護人デスか?
 見えないのでピンときませんね、その方たちも強いのデスか?」

「そうだな、筆頭よりも強いだろうな、人間よりもはるかに早く動けるのだ。
 さらに言えば正確性も上回るし疲れることもない、宙も飛べるのだぞ?」

「オオウ、スゥパーマンのようですねー! ぜひお会いしてみたい。
 どうすればお会いできるのデスカ!? お願い教えてクダサーイ!」

「そうだなあ、素養がないとしても百年ほど修行すれば可能かもしれぬ。
 まずは生活を律し自然を愛する生活を始め精進してみることだな」

「ワァオォウ、ィンポゥシブウ……」

 そろそろやり取りに頭が痛くなってきた五日市中は、キーマに部屋をあてがい鍵をかけた。これで朝まで顔を合わせずに済む。後は真宵の到着を待ってから寝る準備だと大きく息を吐き、ようやく肩の力を抜いた。
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