限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第十章 睦月(一月)

254.一月十一日 夕方 寝返り者の処遇

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 八畑村にまたもやって来た青い目の異邦人は意外にすんなり馴染んでいた。五日市家から三神家へと引き渡されてからは、特に監視もつけられず自由に行動している。それは八畑村の範囲内にいれば藻がいつでも検知できるから問題ないとの理由からだ。

 もし範囲外へと逃げようものなら捕らえられるまで追いかけられ、再び痛い目にあわされるのは明白、なにせ相手は見えない上に空を飛び、人が走るよりも高速で移動可能な存在なのだから追われることの恐怖は計り知れないだろう。

 そんなこともあって、逃げる気など微塵も起きないキーマ・ターリーである。

「うーむ、殺気のコントロールは出来ているが、そのまま移動できぬのか?
 老いてしまったワシでも容易だと言うのに情けない奴だ、いいか、こうだ」

「そう言われても殺気を消すこと自体が出来ているか自分でわかりませんヨ?
 対象を見つけたら気構えが変わってしまうので仕方ないのではありませんかネ」

「なるほど、殺気を察することがまずできないものなのだな? ならば良い。
 次は足音を消したまま山道を走る訓練と参ろう、落ち葉や枝を踏まぬようにな」

 耕太郎の指導でキーマが出来ること出来ないことが明らかにされていく。キーマはキーマで自然の中で行う訓練が神通力を得る一つの手段だと言われ真面目に取り組んでいた。どうやら元々スピリチュアルな方面に興味があったらしく、八家の特殊な力に魅かれると共に、摩訶不思議な事象にも抵抗がないようだ。

「そう言えば、アノ怪しい団体の者たちがやろうとしていた悪魔の召喚ネ?
 あの程度の者たちでもアヤカシを見ることが出来るのは悔しいのですヨ」

「いやいやおそらくヤツラのほとんどは何も見えないと思われる。
 呪いを垂れ流しにして何かを呼び出す程度の認識だろうて。
 中には本物の呪術師や神の遣いに値する者もいたかもしれんがな」

「そんなヤツラでも術が成立出来てしまうのだから困りものデスネ。
 それを繰り返したら本物の力を得られる可能性もあったりしませんノカ?」

「まあ近道として気になるのはわからんでもない、しかしそれは無理なことよ。
 以前、術を行使したものを保護した際には術式に囚われ昏睡状態だった。
 先日のような集団儀式であれば被害者は少人数に収まるかもしれんがな。
 当然影響の無かった者に力が降りるわけもない、わかるな?」

「もちろん! 自我を失ってしまうなら何の意味もありませんデスネー
 やはり近道はないと入れただけで十分、きっと夢叶う日は来ないのでしょうネ」

「当たり前だ、後天的に力を持つ者などごくごくまれだからな。
 しかもそれだって元々素養が眠っていただけなのだ、貴様にあれば覚醒するやもしれん」

「オッオー、望みがゼロでないならやる価値は十分になるというものデス。
 サーがんばりますヨー」『パキッ』

『甘ーい! 枝を踏むんじゃない!』

 音を立てずに走る訓練でミスをしたので耕太郎の呼士である組折くみおりから容赦ない一撃が飛んだ。しかし当然どこから誰にされたのか見えないキーマはキョロキョロするだけである。それを見ていた耕太郎はニヤニヤしながらも容赦なく走り続けた。


◇◇◇


 そして夕方になり八早月が学校から帰ってくると、久し振りに当主会合が開かれることとなった。議題はもちろんキーマの処遇と、彼からもたらされた情報の取扱い等々についてである。

「ドロシーはもう少しかかるようなので先に情報の取り扱いについて考えます。
 現在のところお役所への連絡はしておらず、金井小の出来事も伏せたまま。
 ここで事を荒だてると前回のように解散や摘発となるでしょう。
 私としては、地下に潜られるよりも所在が分かっているうちに息の根を止めたいところです」

「僕もその意見に賛成です、前回は先走りなのか意図的なのかわからず仕舞い。
 おかげで調査した情報が全て無価値になりましたからなあ」

「ワシも筆頭と宿殿に賛成だ。例のキーマが所在と連絡先を知っている。
 その情報が生きているうちにやってしまおうではないか」

「耕太郎さん? 念のため言っておきますが、あくまで能力のあるものだけを捕らえるのですからね?」

「も、もちろん承知しておりますぞ? まさか無差別にやりこめようとは考えておりませぬ」

「私も異論有りません、時間を無駄に掛けるよりも先手を打つべきでしょうな。
 第一いつまでこの地域が標的かもわかりません、結局逃げられたでは一銭にもならぬ」

「中殿の言う通りだ、私もとっとと懲らしめて解決すべきと考えます。
 なんせ予備校代が想像よりも高く物入りなもので……」

「聡明さんは私情が入りすぎですよ? 聖も今年こそは受かるのでは?
 今度でもう三回目、これでダメなら素質がないとされかねません。
 大学受験がどれ程難しいのか知りませんが、そう何度も受けるものではないのでしょう?」

 そう言って八早月は座っている者たちを見回したが、現当主の中で大学へ進学したことがあるものはまだ来ていないドロシーのみ。当然誰も事情が分からず首をかしげるのみだった。

 次の世代であれば現在浪人中の聖、六田家の楓に双宗家の美葉音、そしておそらく四宮直臣も大学進学を希望するだろう。今時と言ってもすでに現当主たちの世代あたりの大多数は大学まで行く時代である。

 進学など全く考えていない八早月や、中卒で鍛冶師の世界に入った三神太一郎のほうが今となっては少数派だ。そう言えば綾乃がすでに大学進学を考えていたことを思い出す。勉強はともかく目標を持っていることは見習うべきだろう。

 だが今は聖や大学のことは後回しだ。

「臣人さんと櫻さんはどうですか? なにか意見があれば聞かせてください。
 異論なければなんたら結社の件はこのまま秘密裏に遂行とします。
 ―――― 承知しました。それでは満場一致と言うことでいいですね。
 責任者は耕太郎さん、せっかくですから補佐は聡明さんにお願いしましょう。
 あのキーマという人の監視を怠らないよう間違いなく頼みますよ?」

「もちろんです、それであの男に何か枷を付けておきますか?
 今は筆頭の力で居場所がわかりますが、範囲が広くなった場合が心配です。
 ヤツは今のところ従う素振りはありますが、信用し過ぎは良くないですからね」

「まずは場所を聞いてからにしましょう、郡内程度の範囲であれば可能ですから。
 ようは十久野郡から出られないようにすればいいだけでしょう?」

「はっ、左様でございます。ですがあの程度の者に逆式結界を使うのですか?
 筆頭の力が無駄遣いされもったいない気もしますが……」

「今は力の量が増えすぎてうっかり漏れてしまうこともあるのですよ。
 先日もドロシーに力を貸そうとしたら周辺にばらまいてしまって大ごとでした」

 自分の失敗で飛雄が気絶してしまったことは恥ずかしいので伏せておき、あくまで力が漏れたと言うことにする八早月である。こういう時に限って頭がよく回るのは自分でも不思議だった。
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