限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第十章 睦月(一月)

255.一月十一日 夕方 楽しそうな寝返り者

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 第一の議題についての検討が滞りなく終わった直後、急に部屋の外が騒がしくなった。どうやらドロシーがやって来たようだが、部屋の外で待たされているキーマと出くわしてしまったらしい。耕太郎はうっかりしていたと言いながら立ち上がり襖を開けた。

「こらキーマ、騒がしいぞ! ドロシー殿は貴様と歳は近いが七草家当主ぞ!
 無礼の無きようきちんと敬意を払え、このうつけが!」

「なんと!? この美しい金髪のうら若き乙女も八家の当主なのデスか!?
 本当に驚きでございますヨ、なぜそんなことがあり得るのか、コレハ奇跡か!」

「耕太郎殿? まさかこのバカっぽい男が例の…… まさか同郷ではナカロウナ?
 筆頭様、皆さま、遅れましてモシワケなく存じマス、残業で抜けラレズ……」

「大丈夫ですよ、重要な話は話はこれからで今は結社への対応が決まったところ。
 お上へ知らせずこちらで潰すと言うことに決まりましたが異論はないですね?
 ―― はい、結構です。それでは次にそのキーマなる男の処遇についてと参りましょうか」

「ボクの処遇? ですか!? 頑張って働きますから使って下サイ!
 諜報員界隈では一度の失敗で仕事は無くなるマスし戻りたくもない!
 どうか役に立てるようショウジンしますのでナニトゾー!」

「耕太郎さんはどう考えますか? 使い物になるなら前向きに検討しましょう。
 ただし、枷は付けさせてもらいます、完全に信用できると判断できるまでね。
 それに体力はなかなかありそうですし、太一郎の練習相手にも良さそうです」

「ワシはうまく使ってやれば良い戦力にあると考えます。諜報が得意ですしね。
 筆頭の枷を付けるなら信用もへったくれもない、奴隷同然でしょう?」

「うーん、僕はあまり乗り気がしませんね、金で雇われていた奴ですよ?
 つまり大金を積まれれば我々を簡単に裏切るでしょう、危険だと判断しますね」

「私も宿殿同様反対です。なんだか軽薄そうで気に入りません……
 もし娘の身に何かあったら困りますからさっさと始末してしまいましょう」

「櫻さん、それは少し考えが性急すぎると言うものです。
 我々で使わないのなら役人へ引き渡すことになる、するとバトン結社潰しに影響が出ます」

「なるほど、それは確かに考えられますね、では終わるまで牢に入れましょう。
 四宮家か五日市家のどちらかの牢に放り込めば良いではありませんか」

「いやいや、私は使った方がいいと言う側だから牢に入れたくはないな。
 それにコイツの日本語は聞き取りにくくて敵わん、面倒を見るのはまっぴらぞ」

「私は中殿と意見は違いますが、利用価値があるなら使うも良しかと。
 ですが積極的に賛成とは言い切れませんね、素性が知れないし信用しきれない」

「なるほど、意外と割れましたね、宿おじさまと櫻さんが反対ですか。
 逆に耕太郎さんと中さんは賛成で臣人さんはどちらでも良いが賛成寄りと。
 後は聡明さんとドロシーの意見を聞きましょうか」

「私はどちらでも構いませんが必要性は感じませんね、所詮部外者です。
 何かあった時に助けてやらないといけないのも面倒でしょうな。
 使い捨てで見捨てると言ってもアレコレぺらぺら話されて被害こうむりそうだ。
 これで意見は三対三、ドロシー殿はどうお考えになりますかな?」

「左様でゴザマスガ、セッシャはこの者を否定するほどの腕はありマセヌ。
 ですので反対と言いきれず不甲斐ナイ、それにチャンスを与えてほしいデス。
 セッシャたちが八畑村に初めてやって来た時は大変でしたカラ」

「ああ、確かにあの時は冷たく突き放してしまったからな、申し訳なかった。
 だがこの男とはまったく事情が異なりますぞ? 混同してはいけません」

「宿殿の言うことはもっともデスガ、それでもやはり見極める機会をどうか。
 同郷なのかわかり申さぬが、やはり無碍にはしたくナイのでゴマイザス」

「なるほど、ドリーの意見ももっとも、では一度だけ機会を与えましょう。
 耕太郎さんと聡明さんを助け立派に働いたと証明してください。
 それを櫻さんと宿おじさまが交代で監視し判断すること、いいですね?
 最終的に信用に値するか、働きが良く価値を見いだせた場合は使いましょう。
 それ以外は処分と言うことで、みなさんよろしいですか?」

「しょ! 処分!? そんな無体な! ボクまだ死にたくないですヨ!
 お願いします、頑張って働きますカラ!」

「ああ、処分と言うのは語弊がありました、役人へ引き渡すと言う意味です。
 まさかいくら私たちでも現代の世で闇に葬ることなど―― しておりませんよね?」

 一瞬の沈黙と微妙な空気が流れた後、当主全員がバラバラに同意の返事をしたのだが、それがキーマにとっては却って恐ろしく感じた。

 キーマにとってはこの短い話し合いの時間が相当長く感じただろう。だが一度とは言え、まずはチャンスを与えられたことにホッとしていた。なんとしても結果を出し認めてもらいたい、そんな気持ちになったのも久しぶりだったからだ。

 これでひとまずは会合も終わりかと思われたその時、八早月が突然大きな声を上げ、続いて耕太郎も何かに気付いた様子で手を叩く。その拍手に皆がビクッと反応したのを見てから八早月が口を開いた。

「一つ忘れておりました、が、その前にキーマをどこかへやってください。
 そうですね、修行がてら走って三神家まで帰っていてもらいましょうか。
 その前に逆式結界を施しますのでこちらへいらっしゃいな?」

「ははあっ、痛くしないでクダサイませね? 絶対逆らいませんから、ゼッタイ」

「はいはい、あなたを信じた人たちのためにも頑張らなければなりませんよ?
 それでは術を掛けますから少し我慢してください」

 八早月はそう言ってから両手でキーマの手首を握りしめ祝詞のりとを唱えた。祈りにあわせて八早月の両腕が白い光に覆われていく。それを見たキーマは目を白黒させた後興味深く見つめている。

「―― ッツゥ! チクッとしましたヨ?」

「これであなたには結界が張られたことになります。普通の結界とは逆ですが。
 何かが立ち入るのを防ぐのではなく、自分が出られなくなる効果があります。
 これが効いているうちは私の守護範囲からは抜けられませんので悪しからず」

「なんと! 本当に八家の力はグゥーレィトゥ! もっとなにかやって欲しい!
 実験台でも奴隷でも家来でもなんでも構いませんのでゴザマス!」

「なんですかこの人は、おかしなことを言いますね…… 気味が悪いですよ?
 耕太郎さん、どうやら真人間にする教育も必要そうです、頼みましたよ?」

「はい、確かに承りました。全くこやつは…… 向上心なのか変態なのか……
 これだけの熱、どうにか役立つ方向へ向けさせたいものだな」

「大丈夫、役に立ちます立ってみせます! だから修行もガンバルマス!
 耕太郎殿、引き続きよろしくお願い申し上げマス。
 ヤツラのアジトは北久野町から移って隣の瑞間みずま市に構えているでアリマス。
 久野町との境、端野たんの駅から少し離れた住宅街に小さな店を持ってマス。
 都会にはよくあるデスが、高齢者を集めてインチキな商売をしてるデスヨ」

「ふむ、催眠商法と言うやつか? 幸いこの辺りや金井町では聞かぬがな。
 端野ほど大きな町になると標的となる年寄りも多いのだろう。
 それは後程しっかり聞かせてもらう、とりあえず先に帰っていろ。
 まさか道がわからぬとか申さぬよな? ちゃんと目印を打ってやっただろう?」

「イェッサー! 速やかに帰還し風呂焚きを始めておくのデス!
 ミセスプラムを手伝うのも役目の一つでゴザマスのであると考えてますカラ」

「わかったわかった、風呂を沸かすのは早いと思うが好きにしろ。
 それと小梅のことをプラムと呼ぶのはやめてやれ、アレはもう婆なのだぞ?
 後、雪山に埋もれないようにな、位置がわかるとは言え拾いに行くのは面倒だ」

「サーイェッサー! ではキーマ・ターリー帰還イタマス!」

 騒がしい掛け声とともにキーマは走り去って行った。三神家までは平時に歩いて一時間程度の道のり、走って行けば雪があっても四十分ほどで付くだろう。ようやく静かになったとブツブツ言っている中の肩を耕太郎がポンポンと叩いてから二人は座りなおした。
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