限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第十章 睦月(一月)

274.一月二十八日 放課後 犬は喰わねど夢は喰う

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 今日はいつものフリースペースでお茶をするのはやめて、九遠エネルギーの迎賓棟へやってきた八早月たちだった。その理由は簡単なことで、コロポックルたちが一緒だからだ。

 この時初めて出会ったジャガガンニヅムカムの許嫁であるリムタストンコヌルを見た三人は、予想通りカワイイカワイイと大はしゃぎをし、こちらも予想に反さず悪態で返すリムタストンコヌルと言う予定調和的な邂逅かいこうとなった。

 かわいい物好きの綾乃がおやつをちぎりながら二人へ渡していると、膝の上は絶対死守すると言わんばかりにだんまりを決め込んでいる藻孤が、それでも気になるのか盗み見るように目を開けてまた寝たふりへと戻る。

 その様子を見ながらおしゃべりをするのもまた楽しいものだと考えながら、八早月は思い出したようにジャガガンニヅムカムへと質問を投げかけた。

「そう言えばジャガガンニヅムカムさんの神使は見たことないわね。
 もしかして秘密にする掟でもあるのかしら?」

「そんなんねえが、ちと考えたらわからんか? あの山で呼べるわけねえが。
 大体自分が何に遣えてるのか考えりばすぐわかりそなもんなのによお」

 当然のように嫌な顔をしたジャガガンニヅムカム、そして完全にお見通しと言う表情で横槍を入れたのは綾乃だった。

「ジャガ君の神使って蛙じゃなかったっけ? そりゃ八早月ちゃんの前ではね。
 あんまり強く見せろって言うのはかわいそうじゃない?」

「ああ、そう言えばそうだったわね、うっかりしていたわ。
 あの時の多邇具久たにぐくも八岐大蛇様がひと呑みにしてしまったのだしね」

「蛇の姿ってのは神でも妖でも数多いよな、それだけ強さの象徴なんだろよ。
 こっちにもいるんじゃねえかと思うが、蟒蛇うわばみって知らんか?
 地元には結構出よってから、そのせいで俺はリムタスに頭が上がらねえがい」

「はっ、それはオメにやる気と甲斐性がだけだろがい。
 気合入れて己の肉体で勝負してみりゃええんがよ」

「んで食われちまったらおっんでお終えだがよ、人神になれるわけでねし。
 自分だてできねえこと人に押し付けよとすんなっての」

「まあまあ、物騒な喧嘩はおやめなさいな、無事これ何よりでしょう?
 それにしても蟒蛇が出るだなんて、コロポックルたちはお酒を造っているの?
 なんだかそんな想像したこともなかったから意外だわ」

「まさか俺らの大きさで酒造りなんてできるわけさ、酒造は近所だが。
 米どころだか、酒や醤油にせんべいだとかそんなんが名産だよ。
 コロポックルは民芸品と交換してもらうってこった、米粒に絵を描いたりな」

「交換してもらってるわけじゃ、交換してやって・・・るんだろがよ。
 まったくジャガガンはコロポックルとしての矜持きょうじに欠けるんが情けね」

 どうあっても喧嘩しかしないこの二人、本当に許嫁なのか、夫婦になってもうまくやって行けるのか、他人事ながら心配になる一同である。だがコロポックルの中でも極端な女性上位社会なジャガガンニヅムカムたちの国ではこのような光景が当たり前らしい。

「はっ、男なんてケツ叩いてやんねと働きゃしねがさ。
 特にジャガガンは巫だからって甘やかされて、ぬるま湯浸かりがなげからよ。
 これですぐに子ができなかったらオレまでダメなやつ扱いになちまうが」

「なるほどねえ、ここでも後継者問題が最重要ってことなのか。
 そう考えるとアタシらは平民で良かったよね、夢もそう思うでしょ?」

「今みたいに気楽な生活が出来ないのは困るからね。
 大人になったら好きに使えるお金増えるだろうし、今より趣味人になれそう。
 そしたらふふ、でゅふふ」

「まーた気持ち悪い笑い方するー、ホントそう言うの良くないってば。
 綾ちゃんもちょっとは言ってやってよね、この中で一番女らしいんだからさ」

「えー、私なの? そこは彼氏持ちのハルちゃんが最適だと思うけどなー
 許嫁持ちの八早月ちゃんでも―― ううん、なんでもない」

「綾乃さん? 言いたいことはわからなくもないけれどね?
 それなら初めから引き合いに出さないでほしいわね。客人の前で恥ずかしいわ」

「なんだって!? オメみてえなちっさい娘っ子が許嫁がどうこう言うんか?
 どせ親が勝手に決めたとかそんばだろがい、わっぱのくせに生意気じゃの」

「そんなところにまで文句を言う? よほど八早月ちゃんのことが嫌いなの?
 それともジャガ君が世話になったのが悔しいのかなぁ」

「なっ、なにを言い出すじゃよ、オレはぜんぜん悔しくなんかねいさ。
 ジャガガンの面倒を見てくれる奴なんてどうせいねし、オレだけじゃ。
 今回だって種を引き受けてやったんだから対価として食住で払わせるんが!」

 綾乃が少し突いただけでこの狼狽ぶり、どうやら図星と察することは容易だ。それに口では酷いことを言いながらも、リムタストンコヌルはジャガガンニヅムカムが好きでたまらないように感じられる。まったく素直じゃないなと思わず笑いそうになる。

 だがここで、今まで大して話に参加してこなかった夢路が突然の異常反応を見せた。どうやら何かが琴線に触れてしまったようである。

「リムたんツンデレかわいー! もうね、お持ち帰りしたいんだけどダメかな?
 はあはぁ、もっとその隠しきれないデレ要素が見たい聞きたい愛でたい!
 もっとケンカしていいんだよ? ね? たまにジャガ君も言い返さないの?」

「ちょ、ちょっと夢ってば息荒いよ? それ以上はヤバい正気に戻れってば。
 こらあ! 聞いてんの? ナマモノ接触禁止なんでしょ!」

「あ、ああ、そうだった、危なく我を忘れるところだったよ。
 でもホントにかわいいよ、リムたんかわいすぎる問題発生」

「これ、夢路さん大丈夫なのかしら? 一応妖の反応は無いようだけれどねえ。
 さすがに動揺したわ、一体どうしてしまったのか、それにナマモノって何?」

「ああこれはね、夢が暴走した時のための緊急ワードなの。
 一応こう見えて夢路なりのルールみたいなのがあるらしいよ?」

「こう見えてってなによ! ハルには以前ちゃんと説明したでしょ?
 ナマモノって言うのは現実にいる人たちってことなんだけどね。
 私の決め事として直接手を出さないって決めてるの。でもたまに、ね……」

 夢路の説明を聞いた八早月と綾乃は、わかったようなわからないような微妙な顔をするしかなかった。そして対象となったジャガガンニヅムカムとリムタストンコヌルはもっと複雑で嫌悪感丸出しの表情を見せていた。
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