限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第十一章 如月(二月)

276.二月一日 日中 進路の悩み(閑話)

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 今日はクラスの半分以上が進学説明会へ行っていて担任も引率で不在のため終日自習だった。それならいっそこのと休みにしてもらいたいもんだ、なんて話しているヤツラばかりが残っている。もちろんオレもその一人なのでうるさいとか文句言うつもりはサラサラない。

 まだ二年生なのか、もう二年生なのか、オレの場合は前者だろう。どうせ進学なんて考えてないし大学からのスカウトもあるわけないからだ。だがもし社会人チームを探すとなるとどういう手順が必要になるんだろうか。そんなこと今まで考えたこともなかったからさっぱりわからず悩んでいた。

 顧問の爺さんは野球経験者じゃないが当然大卒なので、出身大学の野球部関係者に聞いてみようかと言ってくれたが、聞いたこともないところなので断ってしまった。それならまだ同じ町にある草野球チームにいる大人たちのほうがマシなことを教えてくれそうに思えてしまったのだ。

 そう言えば去年練習試合をした強豪の関係者にうちの卒業生がいたはずだ。四つくらい上なので直接は知らないが、あの人は社会人チームへ入ったと言うことだろうか。そう考えたオレは自習中なのをいいことに監督へメールを入れた。

 何もやることがなくボーっとしながら待っていると、いつの間にか返事が来ていた。どうやらうとうとしてしまっていたようだ。自習時間なんだから体育と言うことでグラウンドへ出て運動していてもいいんじゃないか、居眠りするよりはマシだと思うんだけど、なんて考えたりもする。

 ともあれ、監督の話によると卒業生の野村先輩は社会人チームのある企業へ就職はしたが選手ではなかった。しかしその会社の元レギュラーですでに引退した人たちの部下だと言うので、その会社でも他のチームでもどこか紹介してもらえる伝手つてがあるか聞いてくれることになった。

 もちろん監督でも良かったのだが社会人には伝手がなく、やはり大学になってしまうらしい。その場合でも全国出場レベル以外は一般入学になり学費もかかるためオレには向いていない話である。

 何となく僅かでも先が見えてくるような気がしてすっきりしたオレは、結局教室を抜け出してしまった。とは言っても勝手なことをして出席を削られてしまっては困るので最初の行き先は職員室だ。

 ここで学年主任へ一声かけておけば問題なく許可が出るはず。こういう時は普段真面目な優等生であることが役に立つのだ。姉ちゃんならこうはいかない、と思っていたところにヤツは現れた。

「トビー! なにしてんだ? サボりだろ? 自習とかダルいもんな。
 眠気覚ましにグラウンドでキャッチビールでもするか? 許可貰ってるぞ」

「マジかよ、姉ちゃんでも許可出るとか緩すぎだろ。甘いんだよ……
 俺みたいにまじめな生徒ならわかるけどなあ」
 
「まあそこは神職だし? 特別扱いしてもらえるってのは役得だよな。
 そもそも進路も決まってるんだしあとは残り一年JK楽しむだけだっての。
 そんなことよりお宝写真見たくないか? 今なら安くしとくよ?」

「何バカなこと言ってんだよ、なんで俺が金払ってそんなもん見るかっての。
 どうせそれをネタに強請ろうとか考えてんだろ? 神職が聞いて呆れるわ」

「まあ興味ないならいいけど、あーあー、かわいい誕生日写真なんだけどなー」

 またバカなことを言い出したと相手にせず素通りするはずだったオレの足は、その言葉を聞いた瞬間に動かなくなる。こないだの誕生日ってまさか!?

「おい、念のため聞くんだけどさ、それって一体誰の誕生日の話してんの?
 まさか自分の写真だったらぶっ飛ばすぞ?」

「なに言ってんの、そんなの返り討ちだって、女殴るなんてできないくせに。
 どうすんの? 今なら一枚で手を打つけど? ウチ急いでんだけど?」

「くっ、わかったよ、どうせまた化粧品とか下らねえもんに使うんだろよ。
 いくらこの辺に一軒しかないからってあんな店に金使いすぎだろ」

「いいんだよ、先輩だって良かれと思って連絡くれてるんだからさ。
 新作試せる機会はあんまないし結局自己満足なんだからうるさいこと言うな!」

 姉ちゃんは中高の先輩からの連絡が入るといつもこうだ。あの先輩は地元に一軒しかない化粧品店の娘で、跡をついでからは若者向けに力を入れているらしい。その中でも金遣いの荒い姉は格好の上客と言うわけだ。

 そのこと自体は勝手にすればいいが、そのしわ寄せがしょっちゅうオレに押し寄せるのは正直勘弁してもらいたい。今まであれやこれやでいくら巻き上げられたかわからない。

 だが今回は話が別、どう考えても八早月の誕生日の写真に決まってる。本当はオレだって行きたかったけど学校とかあって無理だったから泣く泣く我慢したのだ。それなのに写真一枚送ってきてくれないなんてショックが大きい。

 それが目の前に!? オレはしぶしぶ財布を取り出して札を一枚手渡した。

「まいどありー いやあ、これはもしかしたら新たな金策の手段では?
 ほっといてもハルが送って来てくれるし確実に買い手がいるってのもいいね。
 まさに格好の鴨だ、うはは、カッコウなのにカモだって、あはははははー」

「うるせえ、早く送れってんだよ、そんでグラウンドにでも行っちまえよ!
 オレは工作室の使用許可貰いに来たんで忙しいんだからな!」

「はいはい、短気な男は嫌われるよーってね、ほら、ありがたく受け取るんだよ」

『ポコンッ』<14枚の画像を受信しました><ダウンロードを開始します>

 オレは急いで受信を始めたのだが、原本を持つ姉ちゃんはそれをあざ笑合うかのように立ち去ろうと離れていく。仕方なくその後を追い、結局グラウンドまで連れて行かれてしまった。


 その夜、八早月が神輿に乗せられている写真を初めとして、キレイな着物を着た姿を健全な意味でたっぷりと堪能したオレは、ようやく仕上げた誕生日プレゼントを握りしめながらメッセしていた。きっとこの神輿に乗せられた姿を見られたくなかったから細かいことは言わなかったんだろうし、写真を送ってくることもなかったはず。ならば話題に出さないよう注意しなければならない。

『こないだ言ってた誕生日のプレゼント出来たよ』

 『出来たと言うことは手作りなのですね、楽しみです』

『早く渡したいけど明日も学校があって行かれそうにないわ』

 『学校なら仕方ありませんね、例のおおぷにかんぱすというものですか?』

『うんうんオープンキャンパスな』

 『でも午前中には終わるのでしょう?』

『そもそもオレは行かないから学校で自習だよ』<スタンプ>

 『私も飛雄さんに渡したいものがあるので早めにお会いしたいです』

『それってもしかして!?』

 『内緒です』

 そんなたわいもないやり取りをしばらく続けていたオレたちは、そのうちどちらからともなく寝落ちしていた。
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