限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第十一章 如月(二月)

293.二月十ニ日 昼 捕虜の行く末

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 平日であっても五日市家の食卓にはずらりと家族が並ぶ。家長である中を筆頭に連れ合いの遠子とおこと末っ子の波近なみちかそして先代夫婦である爺婆の前に下女が昼食の膳を運んできた。

 そして今は学校に行っている美琴の席には招かざる客が鎮座しており、明らかに気まずそうな様子である。その客と言うのはもちろんリューリ・ドークマンである。

「中サマ? このような扱い嬉しくも申し訳ないキモチでございます。
 もちろんイマサラ逆らうつもりなど毛頭ございまセンがよろしいのでしょうか。
 牢から出していただき同じ卓を囲むことを許されるなどアリエマセン」

「仕方あるまい、遠子が女子を牢に閉じ込めるなぞ許さぬと申すのだから。
 決して許しているわけではないぞ? 閉じ込めなくともどうせ何もできぬのだ。
 こちらとしても逃げ出して助けを呼んでくれた方が手間は無いしな」

「助けを呼ぶつもりはないのデスガ、諦めて本国へ帰レと進言はしたいキモチ。
 それではいけませンカ? 言うことを聞かぬナラ後はオマカセするのです。
 我々の拠点についてももちろんオオシエいたしますノデ」

「ふむ、ではそうするか、いつまでもお前さんを置いといても仕方ないしのう。
 ただ今は筆頭が学校へ行っているから決めるのは夜になろう。
 授業中だと思うが念のため真宵殿へ繋ぎを付けておこう、元恵げんけい頼むぞ?」

『はっ、お任せあれ、念のため呼士全員へ伝えておきまする。
 それともう一つ、組折殿からつい先ほど申しつけられたのですが……』

『なんだ? 言い難いことなら念話に変えておくか。
 耕太郎殿からの伝令でもあったのか?』

『いえ、その異国の捕虜が連れている呼士と戦わせろと申しております。
 耕太郎様は主と当人の許可が出れば構わぬとのこと。
 許されるなら我輩も相対あいたいしてみたく候、いかがか?』

『そうは言ってもなあ、まずは昼飯を食ってしまってから考えるわい。
 お主らは落ち着きがなくて敵わん、強そうな者とそんなに戦いたいものか?』

『それはそうだろう、武人としての本能のようなものであるからして。
 須佐乃殿と春凪殿は少々変わっておられるだけで我輩たちが普通では?
 もちろん真宵殿は別格です、の姫君は人あらざる強さゆえ小競り合いに興味はないのでしょう』

『そうでもないらしいぞ? 筆頭がおっしゃっていたが腕が鈍っているとこぼしていたらしい』

大妖たいようぬえを倒してしまうほどなのにでござるか? あり得ぬ……
 我々とは全く異なる次元で物事を考えておられるのだろう。
 八畑山と富士山ほどに違いがあるに違いない』

 強さの探求は悪いことではないが今は昼食の時間、いつまでも話をしていては迷惑がかかってしまうと、中は急いでどんぶり飯を掻っ込んだ。ドークマンもなにかおかしな雰囲気を察したのか、急いで昼食を食べ終えようと同じように茶碗を口へと運ぶ。


◇◇◇


 そしてこちらは給食中に連絡を受けた真宵、および八早月である。金井小での集団酩酊では当事者だったとはいえ、まだ何もわかっていない段階と言うことも有り友人たちには詳しいことを話していない。しかし勘の鋭い同級生は八早月の様子の変化を敏感に感じとってしまった。

「ねえ八早月ちゃん、箸が止まったり動いたりしてるけど何してるの?
 どうせ真宵さんとお話してるんでしょ、また事件でもあったんじゃない?
 やっぱそう言う楽しいことはちゃんとおすそ分けしてくれないとさー」

「そうだよ、日曜の練習試合がお役目で台無しになったのは残念だけどさ。
 その関連でなにかあったってことなんじゃないの?
 アタシはあんま鋭い方じゃないけどそれくらいわかるんだからね?」

「美晴さんはその鋭い勘を勉強へ生かすべきではないかしら?
 確かに何かあったと言えばあったのだけれどね、まだなにもわかっていないの。
 隠したいわけではなく話せることがないと言うのが正直なところ、わかって?」

「ま、八早月ちゃんがそう言うならそうなんだろうけどさぁ。
 でもくれぐれも危ない目に合わないよう注意してよね?
 真宵さんもついてるし強いのはわかってるけど心配はするんだよ?」

「私のことを人並みに心配してくれる身内はいないから照れくさいわね。
 今はまだ教えられることがないのだけれど、秘密にはしないから心配無用よ?
 少しだけ明かすとすれば、みんなも当事者と言える事くらいかしら」

 直近で皆が関係していると言えば金井小での一件であることは明白だ。あとは慶事だったり色恋沙汰くらいなのだから、隠すにしても照れ隠しであり真宵と密談する必要などないはずだった。それを聴いた二人は安心したように給食の続きに取り掛かる。

 その後も八早月は手が止まったり考え込んだりしており、綾乃が一緒だったならきっと行儀が悪いと指摘を受けていたことだろう。それでも何とか時間内に食べ終わり昼休みとなったので、しっかり考えながら指示を出すことに集中出来ると安堵する八早月だった。

『それで元恵はあの女性の呼士と手合わせがしたいと言っているのですね。
 まったく、組折もですが血の気が多すぎて困ったものです。
 彼らの主である耕太郎さんや中さんは気の優しいおじ様たちだと言うのに』

 そうは言っても本当の当主たちは別に優しいおじ様などとは言い切れず、冷酷に粛々と拷問を続ける一面や、場合によっては命のやり取りも辞さない武人と言う側面も持っている。ただそんなそぶりを八早月には見せないと言うだけだ。

『ですが八早月様? 彼らの心情もご理解くださいませ。
 日々研鑽を積むことが困難な我々呼士は強者との対戦機会に渇望しているのです。
 私とて同じ、ただ毎朝八早月様がお相手してくださる違いがありましょう』

『そうかもしれませんね、耕太郎さんはもう日々研鑽を積む域ではありませんし。
 しかし中さんはまだまだ努力が必要な、今まさに脂が乗っている時期では?』

『そこまでの事情は分かりかねます…… ただ機会を望む心情をご理解ください。
 あの時一撃交わしたのみでしたが力は相当なものでした。
 練習相手としては悪くないかもしれませぬ』

『では許可を出すとしましょう、それより本分を忘れず進めてほしいものです。
 髪結いへ出かけた時に何かを掴んだと聞いて終わっておりますからね。
 その旨も伝えておいてくれますか?』

『かしこまりました、それでは午後のお勤めご検討を祈念申し上げます』

 真宵にまさかの勉学応援をされた八早月は、次の授業が数学であることを思い出しがっくりと首をうなだれた。
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