限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第十一章 如月(二月)

295.二月十六日 早朝 休日出勤

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 土曜日は八早月にとって一番幸せな日である。なんと言っても学校は無いしお役目もないのは週でたった一日なのだ。と言ってもいつもなら、ではあるが。

「筆頭、やはり昨日のうちに済ませておけば良かったのではありませんか?
 この程度の捕り物で全員出張るのはやりすぎかと思いますがなあ」

「うむ、宿殿の言う通り、ワシらをもっと信頼していただきたい。
 なあに、筆頭が家で茶をすすっている間にサッと行って片付けて参りますわい」

「ですが耕太郎さん、本命はばとんなにがしではないのでしょう?
 異国の諜報組織などと言う大物を取り押さえるのにてっぺんが出ないのは礼を欠きます」

「いやいや、あのような輩に礼なぞ不要、ちょちょいと捻って終いです。
 それに捕虜の見張りもありますからどうせならそちらをお願いしたい」

「確かにあの方、ええっとあのドークマンは女性ですけれどね?
 それなら櫻さんでも構わないし、牢へ入れておけば良いでしょうに」

「いや、牢に入れておくのは遠子がダメだと言ってましてですね……」

「中さんは黙っていてください! とにかく私も捕り物へ行きたいのです!
 だからこうして学校が休みの土曜日にしてもらったと言うのに!」

 宿を初めとする男衆おとこしは、今回の相手がかなり凶悪な組織のため激しく抵抗するだろうと考えており、もしかしたら血なまぐさいことにもなりかねないことを危惧していた。もちろん八早月が手傷を負うなんてことは一切考えておらず、心配なのは誰かが敵を殺めてしまうかもしれないことと、それを少女の八早月が目の当たりにしてしまうことだった。

 既に中年を過ぎようかという他の当主たちは、八早月がある程度の年齢になるまで出来る限りそう言った裏の部分を見せたくないと考えており、これは父親であり先代の道八が当主継承の際に皆へ託したことでもあった。どちらにせよ人を手に掛けるようなお役目・・・の時には男衆だけで済ますのが慣例である。そのため同じ当主の櫻でさえ、そのような荒事の場へ参加したことは無い。

 だが当主筆頭と言う立場である八早月に対し、櫻と同じように掟だ慣例だと言うだけでどうにかできるはずがなかった。なんと言っても八早月の興味をくつがえし、留守番を納得させるほど説得力のある理由付けが今のところ示せていないというのも大きい。

「どうあっても私を除け者にしようと言うのですか? 明確な理由もなしに?
 ええわかっておりますとも、私が未熟ゆえ加減が出来ないと言うのでしょう?
 それとも私が賊などに後れを取ると考えているのですか!?」

「筆頭? まあ落ち着いて下さいな、理由はどちらでもありません。
 まずひとつに、こうした捕り物は男衆で行うものというのが掟です。
 そしてもうひとつは、相手が手練れの非能力者である可能性ですな。
 無論、筆頭と真宵殿が組んで倒せぬ相手はいないとは考えております。
 しかし銃火器を装備しており手を抜けない事態に陥ったらいかがいたします?」

「それは…… 本気で相手をするしかなくなりそうですね……」

「果たして筆頭にそこまでやって欲しいと願うものがいるとお思いでしょうか?
 少なくとも僕は考えていませんよ、失礼ながら男女には役割がありましょう。
 この際ですから包み隠さずお話いたしますが、我々はいわゆる裏稼業です。
 過去して来たことは村の外で堂々と話せることばかりではございません。
 もちろん隠し通すつもりはございませぬが、今すぐ手を汚すこともありますまい」

「しかしそれでは筆頭としての責務を放棄したことになるではありませんか。
 大体我々がどういったことをしてきているのかくらいとうに知っていました。
 それこそ戦の世以前から近代まで全ての文献を読んでいるのですからね」

「当然でしょうな、それならばなおのこと我々の気持ちをご理解ください。
 その代わりと言うわけではありませんが、後日としていた別の拠点はどうです?
 なあ聡明殿? そちらを筆頭にお願いしても構わないのだろ?」

 突然宿から話を振られた双宗聡明は、一瞬きょとんとした様子だったがすぐに気を取り直しうんうんと頷き始めた。その様子を見る限り、何の打ち合わせも無く宿が苦し紛れに言い出したことだと言うのは明白である。

「ああ確かに向こうを筆頭にお願いするのが良いかもしれん。
 今からなら昼過ぎには着けるであろうし、移動中に資料を確認できるでしょう。
 しかしあそこはまだ調査の段階であるのだが――」

「どうでしょう、まだ調査中なのだが『浪内北郡』にもヤツラの施設があります。
 まあそちらは小規模ですからつまらぬことになりそうではあるが……」

 だが八早月の目はキラキラと輝いている。それもそのはず、浪内北郡は飛雄たちの住む浪内西郡の隣であり、勝手知ったる浪西高校への通り道でもあるのだ。しかし慌てて飛びついてしまっては威厳はがた落ちであると、努めて冷静に詳細を聞くことにする。

「それは摘発後の彼らが移転するのではないかと言っていた先ですよね?
 もう施設が出来ているのですか? 想定よりもかなり早いように思えます」

「ええそうなんですよ、僕もおかしいとは思っていたんですがね?
 聡明殿の調査によれば既に土台は出来上がっていたとのことです」

 宿の言葉を受けて聡明が後を継いで話を続ける。概略はすでに聞いており、同じように宗教施設を作ったのだと考えていたのだが実際には違っていたようだ。

「NPO法人フェアグリーンという非営利団体が元々ありましてな。
 そのNPOが『しらなみの家』と言う児童保護施設を運営しております。
 活動名目は児童健全育成環境推進、まあ事情のある児童を受け入れる施設です。
 表向きにはまったく宗教活動は見えておりません」

「それがどうして関係があるとわかったのですか?
 また独自調査の結果などと言ってはぐらかすのではないでしょうね」

「そんなことは…… たまには情報元を明かせない場合もあるだけで……
 はぐらかすなどとんでもございませんし今回は簡単でした。
 実は先日摘発された北久野町のバトン教会と土地の貸し主が同じでしてね。
 しかもこれがなんととある政党幹部の身内なのですよ」

「なるほど、つまり銭ゲバであり売国奴でもあると言うことですね。
 そうするとおそらくあれですね、アレです、お金をごまかすあれも?」

「無論、土地建物の賃借を利用しての脱税ももちろん確認済みです。
 ただこちらは調査方法が公にできませんので口外できませんが。
 前回の摘発も全てが芋づる式になる前に切ったのでしょう」

「純粋な信徒も多くいたようなのにかわいそうですね。
 では今回はどうしようと言うのです? その団体は合法なのでしょう?
 それともなにかおかしな動きが確認できているのですか?」

 それを聞いた聡明は着物の袖口から紙の束を取り出し座卓の上へと置いた。それは全員見覚えのあるカード形状の印刷物である。

「なるほど、その施設からこれが発見されたと言うことですね。
 これは公園の林で貼り付けられていた物と全く同じに見えます。
 裏を剥がすと粘着面になっていてぺたりと貼り付けできるものですよね?」

「左様です、かなり大量に用意されていましていつどうやって使うのやら。
 ちなみにドークマンにも確認済みで同一の物であることは間違いございません。
 それにしてもなぜ日本でやるのかと、自国でやればいいものを」

 聡明の不満へ同調するように宿も文句を言い始める。だがこれは愚痴ではなく自国を荒らされていることへの悲観と、それを野放しにしている現状への不満を言葉にしただけだ。そしてそれは八早月も同じように感じていることでもあった。

「聡明殿の言わんとすることはもっとも。まったくもって迷惑千万ですな。
 しかし理由は明確で予算の確保が簡単だから無くならないのだと。
 NPOや宗教団体を作ると税金がかからず活動でき、場合によっては補助金まで出るのですから」

「その仕組みに政党や議員が絡んでいて、金儲けにも繋がっていると。
 はあ、それではこんなバカげたことが無くなるはずがありません。
 まったく嘆かわしい限りです」

「そうやって資金を得て活動する政党が存在するのですから困りものです。
 しかもそ奴らの活動で一部の国民がガス抜き出来るなどという風潮まで……
 世の中は堂々巡り、無駄な事ばかりと言ったところでしょう。
 おかげで我々の存在意義もあろうかと。聖人君子のみなら妖は産まれませぬ」

「物は言い様ですね、それで私はなにをして来れば良いのです?
 力ずくで潰して来ればいいわけではなさそうですが、話し合いは無理ですよ?」

「それがなんと力ずくでと言ったらいかがいたします?
 ドークマンの話では端野町の施設にはオセアニア系マフィアが詰めていると。
 浪内北郡にはバトン結社のトップがおり、そやつが送り雀や集団酩酊の主犯とのこと」

「ふむ、それは歯ごたえがありそうで楽しみ、いや気を引き締めなければね。
 ドークマンも相当の遣い手でしたから油断は禁物でしょう。
 一瞬しか見えませんでしたが、彼女の呼士は角を生やした鬼のような異形でしたね」

「はい、あれは彼らの信じる神の姿を投影する召喚術と言うものだそうです。
 この魔方陣と祈りと魔力、我らで言うところの神通力で呼び出すとのこと。
 どうやら使い捨てのようでいつも同じ姿とは限らないのだと聞きました」

「神を使い捨てとは…… 本当に信仰しているのか疑わしいものですね。
 世の中は広い、そう感じることがこれからもまだまだあるのでしょう。
 では今回は宿おじさまと聡明さんに免じて脇役に徹しましょうか。
 あー、貧乏くじったらありゃしない~」

 そう言いながらも、誰がどう見てもご機嫌で今にも歌いだしそうな八早月だった。


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 お読みいただき誠にありがとうございます。数ある作品の中から拙作をクリックしてくださったこと感謝いたします。少しでも楽しめたと感じていただけたならその旨お伝えくださいますと嬉しいです。

 ぜひお気に入りやハート&クラッカーをお寄せください。また感想等もお待ちしておりますので、併せてお願いいたします。

 連載はいったんここで一息となりまして、次回は11月1日の296話から11月20日の315話までの全20回です。引き続きのご愛護、よろしくお願いいたします。
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