限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第十一章 如月(二月)

296.二月十六日 昼過ぎ 小さな拳

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「―――― だから冗談でもからかっているわけでもありませんよ?
 あまり話していると遅くなってしまいますからまた後ほど――――
 ―― そう言われても相手のあることですからわかりません。
 最短で終わらせて連絡しますからそんなにあわてなくても良いでしょう?」

『違うっての、オレは心配して言って―――― なんで怒るんだ!?
 そりゃ捕り物へ行くなんて聞かされたら危ないと思うに決まってるさ。
 じゃあ八早月はオレが心配しない方が嬉しいのか?』

「当たり前ではありませんか、私の実力を低く見積もっていると言うこと。
 別に自信過剰で天狗になっているわけではありませんよ?
 すでに対峙した輩たちの力量からしておよその見積もりは出来て――
 ―――― いちいち口を挟まないで下さい! 筆頭としての義務なのです!
 それに後ほど私が行くと言うのに喜んでいただけないのですか?
 ではお役目が終わったらそのまま帰宅することにしましょう。
 零愛さんとお会いできないのは寂しいですが、許嫁に断られては仕方ありません!」

 八早月と飛雄が犬も食わなそうな言い争いをしているところへ聡明が様子を見にやってきた。全員の準備が整いそろそろ出発の時間となったのだが、荷物を用意している八早月が戻ってこないため貧乏くじを引かされたのだ。

『トントン』
「筆頭? 皆の準備が整いましていつでも出発可能でございます。
 浪内北郡の施設までは真宵殿の足で一時間ほど、十四時には出た方が――」

「わかっております! すぐに行きますからあと数分待ってください。
 いえ、端野へ向かう皆は先に向かって構いません、私は単独ですから身軽ですし」

「そうおっしゃられてもやはりお一人残して出ていくのははばかられます。
 出陣時にはやはり筆頭のときの声があった方が気が乗りますしな」

「確かに聡明さんの言う通りですね、わかりました、あと数分だけ下さい。
 まったく…… ばとんなにがしよりもよほど手ごわい相手を――
 いえいえ、なんでもありませんよ、とにかく私はもう出発しますから。
 来て欲しくないならはっきりとそうおっしゃればいいのです!
 せっかく明日もお役目を交代してもらってお休みだと言うのに……」

『しつこいようだけど本当に大丈夫なんだな? 危険はないのか?
 八早月の身に何かあったらと思うとオレは黙ってられないんだよ――――
 いや、黙ってろと言われてもこれは感情的なもんだから無理だってば。
 でも明日休みならならこっちに泊まっていけるのか?』

「泊まるところがなければ大人しく帰りますけれどね。
 飛雄さんがつれなくするのであれば零愛さんへ頼んでみようかしら。
 これほど信用がないとは嘆かわしい、しっかりと義姉ぎしへ相談しましょう」

『ちょ、ちょっと待てって、いや待ってください……
 お願いだから姉ちゃんに変なことを吹き込まないでくれよ、頼む!
 十五時頃には北郡へつくんだろ? 俺も行くから住所送ってくれ』

「まあ! 飛雄さんも一緒に戦ってくれるのですか!?
 それは却って心配ですが、信用を得るためには仕方ありません。
 近い将来わかることですから八岐大蛇様の加護を知ってもらいましょう」

『お、おう、妖以外と対峙するのは初めてだけど頑張るぜ。
 今も将来もどんな時でも足手まといにはなりたくないからな』

 こうして長話はようやく終わりを告げ、予定時刻をやや・・過ぎたところでいざ出陣と相成ったのである。待ちくたびれた一行は櫛田家の玄関先でアレコレと話し合っており、当初の予定では一人で見張りと留守番をすることになっていた櫻に加えて耕太郎も残ることとなっていた。

「全員で留守にしている間に妖でも出たら困りますからね。
 相手の戦力を考えると僕も残ってしまおうかと思ったくらいですがね。
 ですがドークマン女史の話ではヤツラ銃火器を持っているらしい。
 念のためドロシー殿も留守番にと考えたのですが――」

「宿殿! セッシャは七草家当主でゴザル! お役目を外されるはシンガイ。
 筆頭からも言ってクダサレ、いつまでも半人前扱いではヨロシクナイと」

「その通り! まだ未熟なドリーこそ経験を積まなければなりません。
 第一その場所には信徒も詰めているのでしょう?
 ならばその方たちを保護する人員も必要ではありませんか」

「いいえ、端野の施設は宗教施設ではなくただの拠点ですからね。
 諜報組織の輩どもの詰所と言ったところでしょうか。
 無論今現在所属するすべての諜報員がいるわけではありませんがね?
 それでも十五名程度はいるようです」

「随分詳細に調べてあるのですね、しかも今現在? なるほど、あの男ですか」

「お察しの通り、キーマのやつに見張らせており逐次連絡がきております。
 いやはやあの男なかなか役に立ちますな、何をやらせても文句ひとつ言わずきちんとこなしているようです」

「では正式に雇い入れてもいいかもしれませんね、誰が使いますか?
 諜報で能力を発揮できると言うのであれば耕太郎さんがいいのかしら」

 名指しされた耕太郎が中をちらりと確認すると、中は首を激しく横へと振り自分には不要だとの仕草を見せた。そうなると自動的に担当は耕太郎が引き受けると言うことになり、給金も出してやることになる。

 このことについては、キーマの処遇について希望を聞いてやることに積極的賛成と表明したのだから致し方あるまいと考えていた。問題は年がら年中お役目に関する仕事があるわけではないため、表向きの仕事が必要だと言うことか。

『やれやれ、面倒なことを抱えてしまったわい。
 まさか鍛冶をやらせるわけにもいかんしどうしたもんか……
 役場と相談してみるくらいしか当てがないのう』

 そんな耕太郎の内心はともかく、役割分担も無事終わり全員が八早月の前へと整列し合図を待った。そんな面々を見回して満足げな八早月は、不謹慎ながら初めての大捕り物に胸を高鳴らせていた。かと言って油断や慢心で満足な働きが出来ないなどと言うことは無い。

 その証に、八早月はいつもと変わらず落ち着いた口調で声かけを始める。

「それでは皆さん、参りましょうか。
 大前提として口を割らせるために賊の確保を最優先としてください。
 しかし身を危険に晒すような真似はしないこと、よろしいですね?」

「「ははっ!」」

「ではいざゆかん! えい・えい・おー!」

「「エイ・エイ・オー!!!」」

 八早月の凛とした鬨の声が玄関前に響き小さな拳が天を突く。その後に倍ほどもあろうゴツゴツとした男たちの拳が続いた。
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