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第十一章 如月(二月)
306.二月二十一日 意外な顔ぶれ
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書道部の部室で試験勉強をすることにはあっさりと許可が下りた。これも普段の活動を真面目にやっていたおかげだと夢路は嘯いていたが、直臣に関して言えば確かに真面目な優等生で書道コンクールへの出展も欠かしていないと聞く。
つまりこれは夢路ではなく、明らかに直臣の功績だろうと言うのがここに集まった一同の総意だろう。別に誰に確認したわけでもないが皆の表情と雰囲気から察するにまず間違いない。そしてそのことは当の夢路も納得の様子だった。
さて、その集まった一同だが、なぜか綾乃の後に新庄がついて来たのは誰もが想定外だった。しかしそれよりもさらに驚いたのは、なんと直臣までがクラスメートを連れて来たことである。
「やあ僕たちが一番最後だったみたいだね。
こちら同じクラスの大山さん、一緒に勉強しても構わないよね?
英語が得意だから図書室へ行くところに声をかけて来てもらったんだ」
「ちょっと四宮先輩!? その先輩ってもしかして彼女ですか!?
今までそんなそぶり見せたことも無かったのに超意外です!」
「ちょっと山本さん、滅多なこと言わないでおくれよ。
ただでさえクラスでは少し浮いていて悩んでいるんだからね?
どうも話をするのが女子ばかりなことが気に入らない男子が多くてね……
でも話しかけられて無視もできないし、困ったものだよ」
確かに目鼻立ちがくっきりしていて古風ではあるがどちらかと言えばイケメンな部類だし、物腰が柔らかく誰にでも優しいところなんて女子好みである。別に男子から話しかけられたとしても同じように対応するのだろうが、同世代男子が好むような話題に興味がありそうには思えない。
となると普段から周囲に男子が群がっていないと言うことになり、女子が近づきやすい環境と言えるだろう。こうして出来上がった人間像を含めて結局のところ容姿や人当たりだけではない、女子から話しかけ易い要素が整っているに違いない、と夢路は推察して一人納得していた。
「ちょっと夢ったら何一人で頷いてるのさ。
なにかわかったならアタシにも教えてよ、もちろん綾ちゃんにもね」
「いやいやなにもわかってないけど、先輩のクラスの男子はバカだなって。
話しかけに行かないから女子が集まるんだってことわかってないんでしょ。
女子からしたら話しかけやすい男子って一人は居てほしい存在じゃない?」
「なるほどね、バカは言いすぎだけど一理あるかな。
でもうちのクラスの男子は突っかかってくるようなのばっかだね。
主に八早月ちゃんにライバル心燃やしてだけどー」
「美晴さん? なんでそこで私を引き合いに出すのかしら?
別に恨まれたり羨まれたりするような行動は控えているはずよ?」
どこをどう見たら控えていることになるのだろうかと夢路と美晴が突っ込みを入れている間、綾乃だけは話に加わらずなにやら考え事をしていた。夢路はその様子を横目で見ながらまた一人空想に耽っているが、恐らく考えていることは碌な事ではないだろう。
そんな一年生たちに肴にされた張本人の直臣だがさすが最上級生である。はしゃいでいる三人を諭すように声をかけ、ようやく試験勉強に取り掛かることとなった。
「学年末試験なんだからしっかり取り組まないといけないよ?
二年次のクラス分けにもかかわってくるはずだからしっかり頑張ろう。
とは言っても僕らは中学最後でクラス分けには関係ないけれどね」
「そっか、四宮先輩は卒業しちゃうんですもんね。
高等部は隣の建物だけど文化祭で一度行ったきりだからすごく遠く感じるなあ」
「ちょっとハル、今気にするところはそこじゃないでしょ!
先輩先輩! 学年末テストがクラス分けに関係あるってホントですか?
成績がいいクラスと悪いクラスに分かれるってこと? 聞いてないよー!」
「例年通り、上位何名かと外部進学希望者を同じクラスにするはずだよ。
山本さんは成績上位だったよね? だから多分1組になると思う。
筆頭と板山さんもなるべく上位に入れるように頑張った方がいいかなと」
「なるほど、まさかそんな考えもしなかった仕組みがあるなんて困ったわね。
でも私は英語と数学だけ何とかなれば問題ないはずだわ。
今でも全体順位は半分より大分上だもの、美晴さんと違ってね」
「ちょっと八早月ちゃんばらさなくたっていいじゃないのさー
アタシも英語と数学と保体と地学と地理が何とかなれば平気だってば。
順位はそれでも大体半分だからきっとだいじょぶだよ、ね?」
思わぬ心配事が持ち上がったことで、腰の重い八早月も美晴もようやくやる気が出てきたようだ。夢路と綾乃はテスト前になって慌てて机にかじりつく必要は無く、どちらかと言えば自分より苦手科目のある二人の面倒を見ることが目的でここにいる。
夢路は八早月の数学を監視し、直臣が連れてきた大山裕子は美晴の英語を見てくれることになった。直臣と親しいだけあってと言えばいいのか、二人は似た者同士らしく、人当たりが柔らかく大人しい性格のようだし面倒見も良い。美晴も慣れない相手だからか大人しく英語に取り組んでいた。
こうなると暇を持て余すのが綾乃である。かと言って手持無沙汰のままではいられないので何となく教科書と参考書を開いてパラパラと眺めてみるがどうにもやる気が出ない。だがやる気が出ないのは本当に手持無沙汰だからなのだろうか。
その視線はチラチラと直臣と裕子へ向けられている。そんなことをしている自分にすぐ気付き、慌てて視線を教科書へと戻すがどうにも落ち着かない。そしてこう言ったことに目ざとい夢路が綾乃の様子に気づかないはずがなかった。
まるで待ってましたと言わんばかりに顔を上げると、隣で美晴の面倒を見ている裕子へ声をかけた。
「大山先輩、四宮先輩と仲いいんですね。やっぱ優秀な者同士だから?
綾ちゃんと先輩も気が合うみたいなんですけど二人で話してる内容が難しくてー」
唐突に名を出された綾乃はドギマギしながら夢路へ否定を投げかけようとしたが、夢路の言葉を聞いた裕子の表情が一瞬曇ったのを見てしまい声に出すことができず仕舞いだ。方や直臣はと言うと否定も肯定もせずに苦笑いするだけである。
「ええっと山本さんて成績優秀で書道にも真面目に取り組んでるらしいわね。
突然こんなこと言ってくるタイプだと思ってなかったから驚いたわ。
四宮君に仲良くしてもらってるのは否定しないけど期待するようなことはないんだから」
「そうなんですか? パッと見では結構お似合いだと思うんですけどね。
私の持論としてはやっぱり共通点が必要じゃないかなって。
四宮先輩と大山先輩は才子才媛って感じだし仲良くなるのは必然だろうなあ」
この発言にはさすがに直臣も黙ってはいられず横槍を入れてきた。
「山本さんたらなにを言い出すんだい? 時と場合を考えないとダメだよ。
さすがに僕はもう慣れたけど、初対面でそんな話するなんてまったく……
ほらほら変な話するから全員の手が止まってしまったじゃないか」
「ちょっとした息抜きと親睦を深めるつもりなだけですよ。
もちろんお二人にその気がないのを無理にでもどうかしようなんて考えていませんってば!」
こうなると他の面子も大人しくはしていられない。まずはこれ幸いと美晴が口を開いた。
「ちょっと夢ったらなにを言い出すかと思えばトンデモないこと言わないの!
四宮先輩は綾ちゃんとくっつけるんでしょうに! ね、八早月ちゃん?」
「そうね、私としては友人の綾乃さんを押したいところなのは間違いないわ。
ただしこればかりは当人たちがどうしたいかによるのではないかしら?
それにしても大山先輩にその気がないなんて、直臣もそれほどモテるわけではないと言う事ね」
八早月の発した言葉に予想外の反応を見せたのは大山裕子だった。目を丸くして口元を押さえるなんてマンガだけかと思っていたのに、と言いたくなるも辛うじて思いとどまり、この面白すぎる現実の先行きを見守りつつ心の中でほくそ笑む夢路である。
だが残念ながら裕子が驚いているのは、夢路が期待しているようなことに対してのリアクションではなかった。その証拠に、驚きが収まった裕子の見せた表情は、どこか怒りと言うか憤りのようなものだった。
「ちょっとあなた、櫛田さんだったわね。四宮君とは親しいようだけどね?
かと言って上級生を呼び捨てにするなんて失礼すぎじゃないの?
それに四宮君はクラスの女子一番人気ですごくモテるんだから!
家柄も由緒ある旧家らしいし私にはとても手の届かない素敵な男子よ?」
「なるほど、確かに他人様の前で呼び捨ては良くなかったかもしれないわ。
でも勝手に高嶺の花に祀り上げてしまうのはいかがなものかしら?
その程度の想いしかないのであれば先に手を打っても良さそうね。
直臣、あなた綾乃さんと婚約しなさい、臣人さんへは私から説明するわ」
言った側から呼び捨てだが問題がそこでないのは明白である。いきなりなにもかも飛ばして婚約などと言う言葉が出て来たものだから、この場にいる誰もが呆気にとられ凍りついたように動かなくなってしまった。
それは数秒なのか数分なのかわからないが、ハッとして我に返った綾乃が声を震わせながら力なく呟く。
「私まだそんなこと考えてないから……」
「まだと言うことはこれからそうしたくなる可能性があると言う事ね。
大丈夫よ、私も自分でわからなかった気持ちに気付くことが出来たのだもの。
綾乃さんだって直臣に対し悪い気持ちは持っていないのでしょう?」
「そんなこと…… まだ早すぎてなんにも考えられないよ!」
八早月の余計なひと言でとどめを刺されたのか、綾乃は大声を出して部室を飛び出してしまった。これにはのんきにオモシロ展開だなんて考えていた夢路も少々慌ててしまい後を追う。
この突然の出来事に直臣と裕子はどうしていいかわからず頭を抱えるだけ。方やキョトンとして首をかしげる八早月と美晴、さらにもう一人。
「あの……? 俺ってここにいていいのかな?
なんだか微妙に気まずいんだけど……」
だがこの状況下で新庄に構う者などここには誰一人いないのだった。
つまりこれは夢路ではなく、明らかに直臣の功績だろうと言うのがここに集まった一同の総意だろう。別に誰に確認したわけでもないが皆の表情と雰囲気から察するにまず間違いない。そしてそのことは当の夢路も納得の様子だった。
さて、その集まった一同だが、なぜか綾乃の後に新庄がついて来たのは誰もが想定外だった。しかしそれよりもさらに驚いたのは、なんと直臣までがクラスメートを連れて来たことである。
「やあ僕たちが一番最後だったみたいだね。
こちら同じクラスの大山さん、一緒に勉強しても構わないよね?
英語が得意だから図書室へ行くところに声をかけて来てもらったんだ」
「ちょっと四宮先輩!? その先輩ってもしかして彼女ですか!?
今までそんなそぶり見せたことも無かったのに超意外です!」
「ちょっと山本さん、滅多なこと言わないでおくれよ。
ただでさえクラスでは少し浮いていて悩んでいるんだからね?
どうも話をするのが女子ばかりなことが気に入らない男子が多くてね……
でも話しかけられて無視もできないし、困ったものだよ」
確かに目鼻立ちがくっきりしていて古風ではあるがどちらかと言えばイケメンな部類だし、物腰が柔らかく誰にでも優しいところなんて女子好みである。別に男子から話しかけられたとしても同じように対応するのだろうが、同世代男子が好むような話題に興味がありそうには思えない。
となると普段から周囲に男子が群がっていないと言うことになり、女子が近づきやすい環境と言えるだろう。こうして出来上がった人間像を含めて結局のところ容姿や人当たりだけではない、女子から話しかけ易い要素が整っているに違いない、と夢路は推察して一人納得していた。
「ちょっと夢ったら何一人で頷いてるのさ。
なにかわかったならアタシにも教えてよ、もちろん綾ちゃんにもね」
「いやいやなにもわかってないけど、先輩のクラスの男子はバカだなって。
話しかけに行かないから女子が集まるんだってことわかってないんでしょ。
女子からしたら話しかけやすい男子って一人は居てほしい存在じゃない?」
「なるほどね、バカは言いすぎだけど一理あるかな。
でもうちのクラスの男子は突っかかってくるようなのばっかだね。
主に八早月ちゃんにライバル心燃やしてだけどー」
「美晴さん? なんでそこで私を引き合いに出すのかしら?
別に恨まれたり羨まれたりするような行動は控えているはずよ?」
どこをどう見たら控えていることになるのだろうかと夢路と美晴が突っ込みを入れている間、綾乃だけは話に加わらずなにやら考え事をしていた。夢路はその様子を横目で見ながらまた一人空想に耽っているが、恐らく考えていることは碌な事ではないだろう。
そんな一年生たちに肴にされた張本人の直臣だがさすが最上級生である。はしゃいでいる三人を諭すように声をかけ、ようやく試験勉強に取り掛かることとなった。
「学年末試験なんだからしっかり取り組まないといけないよ?
二年次のクラス分けにもかかわってくるはずだからしっかり頑張ろう。
とは言っても僕らは中学最後でクラス分けには関係ないけれどね」
「そっか、四宮先輩は卒業しちゃうんですもんね。
高等部は隣の建物だけど文化祭で一度行ったきりだからすごく遠く感じるなあ」
「ちょっとハル、今気にするところはそこじゃないでしょ!
先輩先輩! 学年末テストがクラス分けに関係あるってホントですか?
成績がいいクラスと悪いクラスに分かれるってこと? 聞いてないよー!」
「例年通り、上位何名かと外部進学希望者を同じクラスにするはずだよ。
山本さんは成績上位だったよね? だから多分1組になると思う。
筆頭と板山さんもなるべく上位に入れるように頑張った方がいいかなと」
「なるほど、まさかそんな考えもしなかった仕組みがあるなんて困ったわね。
でも私は英語と数学だけ何とかなれば問題ないはずだわ。
今でも全体順位は半分より大分上だもの、美晴さんと違ってね」
「ちょっと八早月ちゃんばらさなくたっていいじゃないのさー
アタシも英語と数学と保体と地学と地理が何とかなれば平気だってば。
順位はそれでも大体半分だからきっとだいじょぶだよ、ね?」
思わぬ心配事が持ち上がったことで、腰の重い八早月も美晴もようやくやる気が出てきたようだ。夢路と綾乃はテスト前になって慌てて机にかじりつく必要は無く、どちらかと言えば自分より苦手科目のある二人の面倒を見ることが目的でここにいる。
夢路は八早月の数学を監視し、直臣が連れてきた大山裕子は美晴の英語を見てくれることになった。直臣と親しいだけあってと言えばいいのか、二人は似た者同士らしく、人当たりが柔らかく大人しい性格のようだし面倒見も良い。美晴も慣れない相手だからか大人しく英語に取り組んでいた。
こうなると暇を持て余すのが綾乃である。かと言って手持無沙汰のままではいられないので何となく教科書と参考書を開いてパラパラと眺めてみるがどうにもやる気が出ない。だがやる気が出ないのは本当に手持無沙汰だからなのだろうか。
その視線はチラチラと直臣と裕子へ向けられている。そんなことをしている自分にすぐ気付き、慌てて視線を教科書へと戻すがどうにも落ち着かない。そしてこう言ったことに目ざとい夢路が綾乃の様子に気づかないはずがなかった。
まるで待ってましたと言わんばかりに顔を上げると、隣で美晴の面倒を見ている裕子へ声をかけた。
「大山先輩、四宮先輩と仲いいんですね。やっぱ優秀な者同士だから?
綾ちゃんと先輩も気が合うみたいなんですけど二人で話してる内容が難しくてー」
唐突に名を出された綾乃はドギマギしながら夢路へ否定を投げかけようとしたが、夢路の言葉を聞いた裕子の表情が一瞬曇ったのを見てしまい声に出すことができず仕舞いだ。方や直臣はと言うと否定も肯定もせずに苦笑いするだけである。
「ええっと山本さんて成績優秀で書道にも真面目に取り組んでるらしいわね。
突然こんなこと言ってくるタイプだと思ってなかったから驚いたわ。
四宮君に仲良くしてもらってるのは否定しないけど期待するようなことはないんだから」
「そうなんですか? パッと見では結構お似合いだと思うんですけどね。
私の持論としてはやっぱり共通点が必要じゃないかなって。
四宮先輩と大山先輩は才子才媛って感じだし仲良くなるのは必然だろうなあ」
この発言にはさすがに直臣も黙ってはいられず横槍を入れてきた。
「山本さんたらなにを言い出すんだい? 時と場合を考えないとダメだよ。
さすがに僕はもう慣れたけど、初対面でそんな話するなんてまったく……
ほらほら変な話するから全員の手が止まってしまったじゃないか」
「ちょっとした息抜きと親睦を深めるつもりなだけですよ。
もちろんお二人にその気がないのを無理にでもどうかしようなんて考えていませんってば!」
こうなると他の面子も大人しくはしていられない。まずはこれ幸いと美晴が口を開いた。
「ちょっと夢ったらなにを言い出すかと思えばトンデモないこと言わないの!
四宮先輩は綾ちゃんとくっつけるんでしょうに! ね、八早月ちゃん?」
「そうね、私としては友人の綾乃さんを押したいところなのは間違いないわ。
ただしこればかりは当人たちがどうしたいかによるのではないかしら?
それにしても大山先輩にその気がないなんて、直臣もそれほどモテるわけではないと言う事ね」
八早月の発した言葉に予想外の反応を見せたのは大山裕子だった。目を丸くして口元を押さえるなんてマンガだけかと思っていたのに、と言いたくなるも辛うじて思いとどまり、この面白すぎる現実の先行きを見守りつつ心の中でほくそ笑む夢路である。
だが残念ながら裕子が驚いているのは、夢路が期待しているようなことに対してのリアクションではなかった。その証拠に、驚きが収まった裕子の見せた表情は、どこか怒りと言うか憤りのようなものだった。
「ちょっとあなた、櫛田さんだったわね。四宮君とは親しいようだけどね?
かと言って上級生を呼び捨てにするなんて失礼すぎじゃないの?
それに四宮君はクラスの女子一番人気ですごくモテるんだから!
家柄も由緒ある旧家らしいし私にはとても手の届かない素敵な男子よ?」
「なるほど、確かに他人様の前で呼び捨ては良くなかったかもしれないわ。
でも勝手に高嶺の花に祀り上げてしまうのはいかがなものかしら?
その程度の想いしかないのであれば先に手を打っても良さそうね。
直臣、あなた綾乃さんと婚約しなさい、臣人さんへは私から説明するわ」
言った側から呼び捨てだが問題がそこでないのは明白である。いきなりなにもかも飛ばして婚約などと言う言葉が出て来たものだから、この場にいる誰もが呆気にとられ凍りついたように動かなくなってしまった。
それは数秒なのか数分なのかわからないが、ハッとして我に返った綾乃が声を震わせながら力なく呟く。
「私まだそんなこと考えてないから……」
「まだと言うことはこれからそうしたくなる可能性があると言う事ね。
大丈夫よ、私も自分でわからなかった気持ちに気付くことが出来たのだもの。
綾乃さんだって直臣に対し悪い気持ちは持っていないのでしょう?」
「そんなこと…… まだ早すぎてなんにも考えられないよ!」
八早月の余計なひと言でとどめを刺されたのか、綾乃は大声を出して部室を飛び出してしまった。これにはのんきにオモシロ展開だなんて考えていた夢路も少々慌ててしまい後を追う。
この突然の出来事に直臣と裕子はどうしていいかわからず頭を抱えるだけ。方やキョトンとして首をかしげる八早月と美晴、さらにもう一人。
「あの……? 俺ってここにいていいのかな?
なんだか微妙に気まずいんだけど……」
だがこの状況下で新庄に構う者などここには誰一人いないのだった。
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