限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第十一章 如月(二月)

311.二月二十六日 放課後 残り七十四日

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 いつものようにフリースペースでお茶をしたかった四人は、あきらめの表情を浮かべながら学園を後にした。なんと言っても娯楽の少ない田舎の学校であるからか噂が広まるのは早く、それが浮ついた事ならなおさらと言ったところだ。

 いくら注目を浴び過ぎて校内でゆっくりお茶もできないと言えど、さすがに中学生が学校帰りに『カフェ』へ寄り道するわけにもいかない。と言うわけで限られた行き先の中から選ばれたのは九遠エネルギー迎賓棟の一室である。

 今日は燃料組合総会の前日と言うことで大広間や隣接の部屋は空いていなかったが、従業員休憩室を貸してもらえることになった。たまに従業員が出入りするため少々落ち着かないが、皆すでに八早月が何者なのかわかっているので邪険にされることもなく快適と言っていい。

 行きがけに用意したお菓子と飲み物、肴はもちろん綾乃の偽装婚約の件に決まっており、夢路を筆頭に盛り上がって行く。

「それにしても思い切ったことしたよね。
 私としては偽装じゃない方が良かったけどそれはまあいいわ。
 なんと言ってもあの四宮先輩だもん、玉の輿と言ってもいいくらいでしょ」

「そうは言うけどさ、まだ今週始まって二日目なんだよ?
 それなのにこんなに広く知れ渡るだなんて思って無かったよ。
 ちょっと甘く見てたかもしれないなあ」

「私も意外だったのだけれどね? 直臣はなんで女子に人気なのかしら。
 夢路さんと少女漫画で覚えた知識だとその辺りの理由はいつも不明瞭だわ。
 理由も無く女子が群がったり、恋文が下駄箱に入っていたりするでしょう?
 直臣もそんなものなのではなくて?」

「なにそれ、主人公補正的なやつ? まあそれはあるのかもね。
 旧家の跡取りでルックスはいい感じ、スポーツ万能で優しくて成績優秀。
 しかも書道部では賞をもらったこともあるし体育祭での活躍も知られてる。
 いやあ、これはどう考えてもモテキャラでしょ」

「あら、美晴さんから見てもそうなの? まさか私だけが理解していないとは。
 確かに一族の中ではスラッとしていて現代風ではあるわね。
 臣人さんも昔は格好良くてモテたらしいし遺伝なのかしらね」

「遺伝なのかって他人事みたいに言うけど自分も同じ血統でしょ?
 八早月ちゃんも整ってて目がクリクリの和風美人だもんなあ。
 その美男美女の血統に今度は綾乃ちゃんが加わるんだよ?
 きっと子供が産まれたら相当の美形に違いないね」

 夢路は相変わらず興奮気味で勝手なことを言い始めている。偽装婚約だと知っていてもこれなのだから、事情を知らない一般生徒の反応は推して知るべしといったところだ。

 だがこの意見に異を唱えたいのか、納得していないのが八早月である。

「でも夢路さん、私少々疑問があるのだけれど教えてもらえるかしら。
 一般的に夫婦からの遺伝で容姿が決まるようなことを言うわよね?
 私にはそこが不思議で理解できないのよ」

「どこが不思議なの? 全然おかしいところないと思うけど?」

「だって子供はコウノトリが連れてくるのでしょう?
 どこで夫婦や家系の血統を知ってどうやって混ぜるのかしらね?
 以前も同じようなことで頭を悩ませてお母さまに聞いたけれど知らないらしいわ」

 この八早月の言葉に動揺した夢路は、美晴と綾乃を交互に見やってから逃げるように綾乃の肩を叩き一言。

「私もわからないよ、綾ちゃんのが年上だから知ってるかも?」

「ちょっと夢ちゃん、私に振られても困るよ、それに今はそんな話してる場合じゃないでしょ!?」

「さすが綾ちゃん、ウマイ!」

「そうやって茶化さないの!
 だって明日からテストなんだよ? 今日は勉強できなかったしさ。
 これじゃテスト期間中に直前対策も出来そうにないし困っちゃったなあ」

 ここで忘れていたかのように目を見開いたのは八早月と美晴である。何とか苦手科目で平均点以上を取ること、それ以上に赤点を回避することは必須事項なのだ。なんと言っても、学年末テストの結果が新学年でのクラス分けに影響すると言われては本気以上の力を出さざるを得ない。

「でも不正行為カンニングは絶対にダメだからね。
 特に八早月ちゃん、やる気はないと思うけど藻様が気を回しちゃうかも?
 だから心配かけないように頑張っておこうね!」

「もちろんよ、私は何事においても不正を働くのは大嫌いなのよ。
 前回のテストでも藻さんと真宵さんがそそのかして来たけど毅然とした態度で払いのけたわ」

「そっか、いざとなれば夢の回答を見て来てもらうこともできるってことね。
 でも絶対にやらないってのが凄いなあ、アタシなら絶対誘惑に負けてるよ」

「ハルちゃんってばそんなの自慢にならないからね?
 ほら、初日の科目教えて。少しでもいいから対策しようよ」

 こうして四人が教科書とノートを広げ、遅ればせながらテスト勉強を始めたのだった。その様子を見守る真宵たちなのだが悪い例として名前を出された藻は少々不満げである。

『我が主は確かに立派かもしれませんが、我が巫女のあの言い様……
 そもそも己の能力を用いるのだから不正ではありませぬ』

『八早月様は皆と同じ条件でなければ不正だとお考えなのでしょう。
 そう言った辺り、飛雄殿とも通ずるところがございますね』

『左様でございますなあ。鳶の君は巫としての力を活かせばあのなんでしたか?
 そうそう、野球でもっとご活躍できるでしょうに、もったいない』

『鳶の君はきっと己の活躍よりも主様に愛想付かされる方を恐れるのじゃ。
 はるか上空から蟻の子すら見通せる鳶のまなこを以ってるのじゃから。
 本領発揮すれば球ころを棒きれで叩くことなぞ容易いはずなの蛇』

「もう! 三人とも静かにしていて! ちいとも集中できないわ。
 綾乃さんも笑いをこらえるのは勘弁してもらえるかしら?」

「ごめんね、八早月ちゃんも噂話に悩まされてるんだと思うとおかしくて。
 しかも頭の中だから聞かないわけにもいかないしね。
 それにしても恋バナは誰でも好きだからしょうがないのかなあ」

 藻たちの声が聞こえない夢路でもおよそ見当はついたらしく、一緒になって笑い始める。終いには綾乃へ気休めを言い出した。

「まあ噂話なんてそうそう続くものでもないでしょ?
 収まるまでは辛抱が必要だと思うけどさ」

「また他人事だと思ってそうやって適当なこと言うんだから。
 じゃあいつになったら収まると思う? まさか卒業までってことはないよね?」

「そうだなー、噂になったのが今日からってことでしょ?
 と言うことはあと七十四日はガマンが必要かもしれないね、えへ」

「えへ、じゃないってば。ホントに七十五日も耐えられないよ。
 あーあーやっぱり早まっちゃったかもしれないなあ。
 でももうパパが親戚へ連絡しちゃったかもしれないし逃げられなそうだよ」

 そう言って頭を抱える綾乃、笑い転げる夢路、その隙にお菓子を摘まむ美晴、さらに八早月に至っては座椅子へもたれかかってグラグラと体を揺らしあからさまにやる気ゼロだ。と言うわけで、結局テスト勉強に集中できなくなった面々であった。
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