限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第十一章 如月(二月)

312.二月二十七日 午後 期末テスト初日

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 朝は不機嫌だった八早月と美晴だったが、初日のテストを終えて帰宅時間となった今はすっかりご機嫌になっていた。過剰に心配していた綾乃の予想をくつがえし、どうやら二人とも今日のテストの出来がなかなか良かったらしい。まったく現金なものである。

「まあでも本命の英語と数学は最終日に重なってるからねえ。
 ついでに言うと二人とも赤点ではないけど微妙な出来の地学もだよ?
 今回はホントに偏ってて考えた先生たちを小一時間問い詰めたい気分」

「夢ったら変な言い方して、それもどうせネットの真似でしょ?
 そういうのやめときなってば、男子にモテないどころか同性からも引かれるじゃない」

「別に私はこれ以上親友はいらないから構わないけどなー
 それよりこの後どうするの? 金井中もテスト期間なんでしょ?
 いやあテスト勉強しようと思ったけどハルが来られないんじゃなあ。
 まあ仕方ないから三人で頑張ろうか、仕方ないからね」

「なに勝手言ってんの? 誰も涼君と遊びに行くなんて言ってないでしょ!
 アタシも一緒に勉強するってば!」

「誰も涼君と遊びに行くなんて決めつけてないのにねえ。
 でもホントに遊ぶつもりだったなら行ってきなよ、今日がんばったんだし。
 この後さすがにお昼食べてから集まるのは難しいでしょ。
 家が近いのって私とハルだけだもん」

「そりゃそっか、それじゃ向こうの出来も気になるから様子見に……
 全然デートとかじゃないから、遊びに行くわけじゃ無いからね!?」

 そんなやり取りを聞いていると八早月も飛雄に会いたくなってくる。これももしかして恋心なのかもと考えるくらいには成長しているのか、もしくは夢路に悪影響を受けているのか。どちらにせよ以前のままではない。

 ついこの間までは山奥から出て来た童女わらわめだった八早月も、ようやく思春期を迎え始めたと言うことなのだろう。身体の成長はかなり緩やかだが、精神は順調に成長し年相応の少女へと歩み続けている。それでもまだコウノトリが子供を運んでくると信じている程度なのはご愛嬌と言ったところか。

 心ここにあらずと言った様子で話を禄に聞いてなかった八早月の都合は置き去りのまま、どうやら今日の予定は決められたらしい。後ほどビデオ通話をしながらの勉強会ということで話はまとまっていた。

「じゃあ後でグループ通話しながら頑張ろうね。
 夕ご飯の後になると思うけど絶対やるから八早月ちゃんもハルちゃんも逃げないでよ?」

「まあ! 綾乃さんにしては随分と人聞きの悪いことを言うのね。
 私が眼前の敵から逃げるはずがないじゃないの、任せておきなさい!」

「ふふふ、今日の出来が良かったからって油断しちゃダメだからね?
 明日は何があるんだっけ? 苦手科目あるの?」

「ええと、明日は確か芸術があったわね、苦手ではないけれど退屈よね。
 人物史や文化史の年表は歴史と被るし文学は国語と共通でしょう?
 音楽も美術も感性が大切なのだから覚えて点数つけるのは意味がないわよ」

「でもその覚えたり考えたりする行為自体が学習ってことだからね。
 学校の勉強程度できなきゃ社会へ出ても必要なことが覚えきれないでしょ?
 武術もスポーツも基礎的なことだって大事なのと同じってこと」

「綾乃さんの意見がもっともな話だと言うことくらいわかっているわ。
 それでも私には抽象画や騒々しい楽隊の良さは理解できないの。
 だけどそれらが素晴らしいものと言う前提で話を進めるじゃない?
 するとますます興味を持てなくなるというわけよ」

「いくら八早月ちゃんが興味を持てなくてもテストには出るからね。
 問題になると言うことは答えがあると言うことなんだからさ。
 それに芸術のテストに芸術性は求められてないでしょ?
 結局は興味がないから覚える気が起きないってだけ、それじゃ赤点だよ?」

「むむむ、さすがに赤点は困るわね、最低限一夜漬けするとしましょうか。
 それにしても最終日に英語と数学をまとめるなんて先生方も意地が悪いわ」

 ああでもないこうでもないとやり取りを繰り返した結果、八早月は綾乃の正論攻めに返す言葉屁理屈を使い果たしどうやら観念したようだ。すぐ脇でも似たような会話が繰り広げられており、美晴が夢路にやり込められた結果、逃げるように八早月の腕へともたれかかってきた。

 その感触に釈然としないものを感じつつ、背後からやってきた美晴の襲来を好機と捉えた八早月は逃げるように体を入れ替えた。代わりに押し出された綾乃は夢路の横へと追いやられ、二人とも呆れ顔で微笑むしかない。

 こうして他の生徒も同じようにぞろぞろと帰宅していく中、やはり遠巻きに注目を浴びている綾乃の居心地は少々良くない。とは言え悪口を言われているのではなく、どちらかと言えば羨望の眼差しを向けられているわけで、考えようによっては悪いものではない。

 だが当然のように心配事もある。綾乃の心に引っかかっているのは直臣のクラスメートである大山裕子の存在だった。本人たちは否定していたし、直臣を疑っているわけではないのだが、裕子の側はどう見ても直臣を意識しているように見えた。

 そしてこれは、直臣が裕子の気持ちに気づいていないだろうというところまで夢路と同意見だ。外見も内面も非の打ちどころがなく欠点らしい欠点の無い直臣だが、八早月同様浮世離れしたところがあるのは否めない。そこはやはり現代社会と隔絶した環境と言えなくもない、八畑村出身者に共通することなのかもしれない。

 こと恋愛に関して言えば、同年代の男女が大勢で過ごす機会がなかったことに起因し、年齢よりもずっと幼い恋愛観のままなのである。それだけに相手の気持ちを察すること、よく言う表現で言えば空気を読むことが苦手なのだ。

 おそらくはクラスでも話題になり直接聞きに来るものもいるだろう。そこで直臣がなんと答えたのかは確認しておく必要があるかもしれないと綾乃は考えていた。口裏合わせと言う事ではないが、あっという間に噂話が広がったことも気になる。

 八早月たちにはテストに集中するようにと言っておいて、本当は自分が一番散漫なのではないかと反省する綾乃だった。
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