限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

文字の大きさ
320 / 376
第十二章 弥生(三月)

316.三月一日 午後 因縁の対決

しおりを挟む
 学年末試験最終日、全ての教科が終了した時には八早月や美晴のような切羽詰まった生徒だけでなく全員の表情に安堵の色が浮かんでいた。もちろん優等生で何の心配もない夢路や委員長でも同じこと、周囲からは嫌味か等と言われていても当人には当人なりの苦労があるのだろう。

「八早月ちゃんどうだった? アタシはちょっと英語ヤバいかもしれないよ……
 多分単語はそれなりだと思うんだけどさ、和訳英訳が全然ダメっぽいのー
 周りの子は結構がんばったみたいに話してるから平均点上がるかもなぁ」

「それは聞き捨てならないわね、平均点が上がったら順位は下がるのでしょう?
 それでは勉強した甲斐がないし綾乃さんにも夢路さんにも申し訳が立たないわ」

 そんな風に二人が低次元な話をしているところへ、余裕たっぷりと言う様子で近寄ってくる者がいた。美晴がうんざりした顔でその方向を見上げると、やってきたのは夢路ではなくまさかの郡上大勢だった。

「どうやらさすがの櫛田も勉強はそう優秀でもなかったようだな。
 掲示では毎回国語トップだから驚いていたが一芸タイプだったとはね。
 こんな事なら勝負を挑んでおけばよかったよ、だが今更挑んでも意味がない」

「ちょっと美晴さん、この人はなにが言いたいのかしら?
 趣旨がちいともわからないわ、私と勝負がしたいのかしたくないのか。
 どちらにせよ成績で争うなんてバカなことは受けやしませんけれどね」

「きっとアレだよ、デザート取り返したいけどもう三学期が終わるからね。
 もし勝ったとしても数日分じゃ意味がないって言いたいんじゃないかな。
 でもさ、巻き上げられてると言うか差し出してる先は夢なんだよ?
 どうせならあっちに挑んできなよ、学年一桁に勝つ自信があるのならだけど」

「またそうやって屁理屈を…… 山本は割り込んで来ただけで勝負は櫛田とだ!
 だがまあいいさ、どうせ二年に上がったら別のクラスだろうしな。
 知ってるか? この学園は成績優秀者が一組、下半分が二組なんだぞ?
 おまえら二人はきっと二組だろうな」

「その話私も聞いていたから頑張ろうと誓ったのだけれどね。
 少々眉唾ではないかしら、だって綾乃さんは学年で一二を争っているのよ?
 その彼女が編入試験で半分より下に扱われるなんてことあるかしら」

 それを聞いた美晴は手をポンと叩いて納得の表情である。周囲の生徒も同じ噂を聞いていたのだろう、『なるほど』だとか『嘘だったのか』などと言う声が漏れ聞こえてきた。

「だ、だがそれも編入と言うイレギュラーなものに対する結果じゃないか。
 例年通りなら進級時に成績上位者と外部進学希望者は一組になるはずさ」

「まあそれでも私は半分より下にはなったことないから心配はしていないわよ?
 美晴さんだって問題ないに決まっているわ、でも郡上君と三田村さんはどう?
 もしかしたら来年もまた同じクラスなのかしらね」

 いつの間にか郡上大勢の背後にやって来ていた三田村愛美まなみは、八早月に名を出されたことが気に入らないのか顔をしかめた。クラスに険悪ムードが漂い生徒たちがざわつき始めたことで、これ以上話をややこしくしないでもらいたいと言わんばかりに割って入ってきたのは意外にもクラス委員長の井口真帆だった。

 これ以上という表現はおかしかったかもしれないが、すでに同じ内容について教室の前方では真帆と夢路がやりあっていたのだ。どうやら考えていた以上にこの噂は広範囲に広まっており誰もが気にしているようである。

「ちょっと夢と真帆ちゃん待ってよ、結局本当はどっちなの?」
「気になるからちゃんと教えてよー」

「実際のところは私も知らないのよ、先輩から聞いただけだからね。
 貼り出し順位は二十人までだけど一組は大体そこに載ってるんだって。
 考えてみれば授業するにもあまり差がない方がやりやすいのは確かでしょ」

「私も先輩に聞いただけだから真偽はわからないわね。
 でも上位者って言ってただけだから真ん中から半分ずつかまでかわからない。
 いくらなんでもそんなきっちり分けてクラス同士が仲悪くなっても困るでしょ」

 ほんのわずかな違いなのだが、お互い元々仲が良くないのだから諍いにもなろうと言うものだ。周囲も委員長派とそれ以外でやや対立傾向がある。かと言って夢路派といえる者がいないところに普段の態度や発言が現れており、人徳の大切さがわかると言うものだ。

「そんなのどっちでもいいじゃない、進級すればわかるしもう手遅れなんだから。
 委員長も夢もそんなことで言い合いするほど成績悪くないくせにおかしいよ」

 美晴の言うことはもっともだったが、この発言が井口真帆を刺激してしまった。

「そりゃ夢ちゃんみたいに友達がみんな似たような・・・・・成績なら気にしなくていいよ?
 でもわたしは必ずしもそうじゃないから悩んでるんじゃないの」

「もしかしてそれって嫌味なのかな? こんどはアタシにケンカ売るつもり?
 昔からそうだけどさ、なにかと厭味ったらしくグチグチ言うのやめてくんない?」

「誰が嫌味っぽいのよ、それならすぐ意味不明なこと言ってくる夢ちゃんは?
 わたしがやめてって言ってもマンガの続きをしゃべっちゃうしさ。
 五年の時もわたしが育ててた花壇の野菜を勝手に調理実習で使ったでしょ!?
 それに六年の時は卒業式の練習でぺちゃくちゃしゃべり続けて進行の邪魔するし……」

「わかったわかった、アタシが悪かったから泣かないでよ、めんどくさい……
 しかも今の全部アタシじゃなくて夢がやったことじゃないのさ。
 ホントウマが合わないんだから関わらないようにすればいいのに……」

「なんでハルはまほちん真帆の味方してんのよ、この裏切り者!
 そう言いつつも自分だって実習で作った野菜炒め一緒に食べたじゃないの。
 新鮮なわりにあんまりおいしくないねとか酷いこと言いながらさ」

「いや、それ言ったのはアタシじゃなくて誰か男子だったはずだよ?
 デリカシーの無い発言をなんでもかんでもアタシのせいにするのやめてくれる?」

「結局そうやっていつも二人で言いたいことばっか言って誤魔化すじゃないの!
 わたしの気持ちなんて誰も考えてくれないじゃないの、酷いよ!
 クラス委員長だって別にやりたいわけじゃ無いのにいつも推薦されてさ。
 成績で選ぶならたまには夢ちゃんだってやったらいいんだよ。
 それなのにのらりくらりはぐらかして引き受けたことないじゃない!
 一回なんて投票で選ばれたのにわざと変なこと言って取り消させたりしてさ。
 あの時だってわたしの組織票だとか言い出して散々だったんだからね!
 もうやだ! クラス委員長だってもうやめるんだから!」

 興奮した真帆はとうとう完全に泣き出してしまった。どうやら今までも夢路や美晴とは色々あったらしく因縁の相手と言ってもいいくらいの間柄なのだが、別の小学校から来た生徒にはそんな事情は分からず困惑しきりである。

 今目の前で行われたことだけを見ると真帆に同情したくなった八早月だが、それでも一言言いたいことがあるところをなんとか我慢し口をつぐんだ。真帆は泣きながらもうクラス委員長を辞めると言ったが、それはせいぜいあと三週間だと言いたいのを飲みこんだのだ。

 それにしてもこの惨状、一体どうすればいいのだろうか。周囲の女生徒を中心に各陣営に分かれて一触即発と言った雰囲気である。片方は真帆派と言えそうな仲の良い面々、もう片方が別の小学校出身者が中心の集団らしい。

 出身校で分けるなら夢路も美晴も真帆陣営になりそうなものなのだが、その当人と折り合いが悪いのだから始末が悪い。かと言って別小グループと特別仲が良いわけでもない。

 随分と騒がしくなった教室で、八早月は我関せずとただ眺めているだけの傍観者ぼうかんしゃに徹していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

訳あって学年の三大美少女達とメイドカフェで働くことになったら懐かれたようです。クラスメイトに言えない「秘密」も知ってしまいました。

亜瑠真白
青春
「このことは2人だけの秘密だよ?」彼女達は俺にそう言った――― 高校2年の鳥屋野亮太は従姉に「とあるバイト」を持ちかけられた。 従姉はメイドカフェを開店することになったらしい。 彼女は言った。 「亮太には美少女をスカウトしてきてほしいんだ。一人につき一万でどうだ?」 亮太は学年の三大美少女の一人である「一ノ瀬深恋」に思い切って声をかけた。2人で話している最中、明るくて社交的でクラスの人気者の彼女は、あることをきっかけに様子を変える。 赤くなった顔。ハの字になった眉。そして上目遣いで見上げる潤んだ瞳。 「ほ、本当の私を、か、かかか、可愛いって……!?」 彼女をスカウトしたことをきっかけに、なぜか「あざと系美少女」や「正体不明のクール系美少女」もメイドカフェで働くことに。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。 その彼女に脅された。 「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」 今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。 でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる! しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ?? 訳が分からない……。それ、俺困るの?

負けヒロインに花束を!

遊馬友仁
キャラ文芸
クラス内で空気的存在を自負する立花宗重(たちばなむねしげ)は、行きつけの喫茶店で、クラス委員の上坂部葉月(かみさかべはづき)が、同じくクラス委員ので彼女の幼なじみでもある久々知大成(くくちたいせい)にフラれている場面を目撃する。 葉月の打ち明け話を聞いた宗重は、後日、彼女と大成、その交際相手である名和立夏(めいわりっか)とのカラオケに参加することになってしまう。 その場で、立夏の思惑を知ってしまった宗重は、葉月に彼女の想いを諦めるな、と助言して、大成との仲を取りもとうと行動しはじめるが・・・。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...