限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

文字の大きさ
324 / 376
第十二章 弥生(三月)

320.三月四日 午前 乙女の目覚め

しおりを挟む
 確かに朝目覚めた時から体調がすぐれなかったのは確かである。しかし生まれてこの方一度も体調不良を感じたことも、実際に病を患うことも無かった八早月だ。初めての体験に戸惑いを感じつつもどこか楽しさを感じていた。

「八早月ちゃんどうしたの? 具合悪そうにしてるなんて珍しくない?
 テストも終わって後は終業式待つだけだしあんまり無理しない方がいいよ?」

「珍しいと言うよりこんな様子始めてじゃないの?
 どっか痛いとか苦しいとかあったりする? 板倉さん呼んだ方が良くない?」

 夢路も美晴も心配して声をかける。その様子を見ながら当然綾乃も声をかけるのだが、少し不思議そうな表情を浮かべていた。どうやら疑問を感じている様子なのだがもちろん八早月が仮病だなどと考えてはいない。

「ねえ八早月ちゃん、巳女さんに直してもらうことは出来ないの?
 顔に出るくらいにはつらそうなのにそのままにしている理由があるのかな」

「実は巳さんでも治せない痛みがあると言われてしまったの。
 でも私は痛みよりも違和感のほうが大きくて気になるわね。
 なんと言えばいいのか、お腹の中に何かが飛び込んで蠢いているような感覚かしら」

 すると巳女がブツブツと小言のようなことを言い返す。しかしこれは当然ながら八早月と綾乃にしか聞こえていない。

『狐の巫女が不思議がるのももっともなのじゃが主様が無茶を言っているのじゃ
 わらわにだって出来ないこともあることをご理解いただきたいのじゃ。
 大体童女・・乙女・・になろうとのは怪我でも病でもないのじゃがな』

 それを聞いた綾乃は目を丸くして口を押えた。そのまま八早月の腕をつかむと、物凄い剣幕で学園への道を急ぎ歩きはじめる。腕を引かれた八早月はと言えば、腹を押さえながらたどたどしくついていくしかなく、突然何が起こったのかわからない美晴と夢路も慌ててその後を追った。

◇◇◇

 学園についた四人が真っ先にやってきたのは中等部の保健室だった。ここまで来ると夢路はすでに察しがついており、美晴も耳打ちされてようやく理解した。

 綾乃はさすがに頼りになると言うのか、一つ違うだけでもお姉さんなのだと感心する二人だ。引きずられるように連れてこられた八早月だけが事情を理解せずベッドに腰掛けて不満顔である。

「それでは先生、お願いします。担任の先生にもうまく説明お願いします。
 用意もビデオもなにもないと思うので…… うちは親同士仲が良いので説明してもらうよう話しておきます」

「えっと二年生の寒鳴さんね、わかりました、たまにこう言う生徒もいるからね。
 櫛田さんも大丈夫、心配はいらないわよ、でも午前中は授業はお休み。
 これからみっちりと別の講義・・を受けてもらいますからね?」

「事情は分からないけれど、まあ授業に出なくていいのは悪くないわね。
 それにしても今日は真宵さんもなんだか静かすぎて不気味だわ。
 妖が出なければいいのだけれど」

「うーん、それはきっと大丈夫なんじゃないかなぁ。
 真宵さんって照れ屋さんみたいだし、多分巳女さんと藻様が説明してるでしょ」

「一体何の説明が必要だと言うのかしらね。三人とも様子がおかしいわ。
 それにお母さまへも連絡するなんて随分と大げさではなくて?」

「いいから後は保健の先生の指示に従って大人しくしてね。
 お昼になったらまた様子見に来るけど教室に戻るようなら連絡ちょうだいよ?」

「知っているかしら? 今日の給食はバターロールとシチューなのよ?
 這ってでも教室へ戻るに決まっているわ、ええ、絶対に戻ってみせる!」

「いやいや八早月ちゃん、そんな大げさな話じゃないからね……
 それにお昼までかかるようならアタシがちゃんと持ってきてあげるってば。
 バターロールに目がないなんてホント面白いよね」

 面白いと言われて抗議しようとした八早月だが、興奮して腹に力を込めるとどうにも痛みが強まってしまう。結局養護教諭に促され横になって休むことになった。ご丁寧に電気毛布まで出してくれてお腹を温めると違和感が緩和され心地よくなってくる。三人が教室へ向かおうとするころには寝息をかきはじめていた。


「それにしても驚いたよ、あの八早月ちゃんが病気かと思ってさ。
 でもそうじゃ無くて安心したよ」

「いやいや始めてってことは相当苦しいと思うよ?
 痛みと言うよりも体験したことの無かった気持ち悪さ? 苦しさなのかな。
 とにかくよかったよかったってわけにも行かないと思うんだよね」

「夢ちゃんが言うように、未体験の辛さみたいなのはあると思うんだよね。
 私はそれよりもその…… 仕組み? 構造的と言うか生物学的な、その……」

「あーね、確かにそれを聞いた八早月ちゃんがどう反応するかは見てみたかった!
 きっとコウノトリの話はしなくなると思うけど、別の話をしないことを祈ろう」

「ちょっと夢ったら何変なこと言いだすのさ! バッカじゃないの!」

 そういうと美晴は夢路の背中を平手ではたいた。廊下には大きな音が響き、歩いている生徒が一斉にこちらを振り返ったので、美晴はとっさに頭を下げてしまった。


 だがこの夢路の心配は取り越し苦労でもなんでもなく、放課後のフリースペースではやや興奮気味にコウノトリはおとぎ話であったと力説する八早月の姿があった。

 そしてそれだけではなく、学術的生物学的・・・・・・・正しい仕組み・・・・・・の解説を始め、それを懸命に止める三人と言う光景が多数の生徒の前で繰り広げられたのだった。

 もちろんその後すぐ、図書委員によって追い出されたのは言うまでもない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

訳あって学年の三大美少女達とメイドカフェで働くことになったら懐かれたようです。クラスメイトに言えない「秘密」も知ってしまいました。

亜瑠真白
青春
「このことは2人だけの秘密だよ?」彼女達は俺にそう言った――― 高校2年の鳥屋野亮太は従姉に「とあるバイト」を持ちかけられた。 従姉はメイドカフェを開店することになったらしい。 彼女は言った。 「亮太には美少女をスカウトしてきてほしいんだ。一人につき一万でどうだ?」 亮太は学年の三大美少女の一人である「一ノ瀬深恋」に思い切って声をかけた。2人で話している最中、明るくて社交的でクラスの人気者の彼女は、あることをきっかけに様子を変える。 赤くなった顔。ハの字になった眉。そして上目遣いで見上げる潤んだ瞳。 「ほ、本当の私を、か、かかか、可愛いって……!?」 彼女をスカウトしたことをきっかけに、なぜか「あざと系美少女」や「正体不明のクール系美少女」もメイドカフェで働くことに。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。 その彼女に脅された。 「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」 今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。 でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる! しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ?? 訳が分からない……。それ、俺困るの?

負けヒロインに花束を!

遊馬友仁
キャラ文芸
クラス内で空気的存在を自負する立花宗重(たちばなむねしげ)は、行きつけの喫茶店で、クラス委員の上坂部葉月(かみさかべはづき)が、同じくクラス委員ので彼女の幼なじみでもある久々知大成(くくちたいせい)にフラれている場面を目撃する。 葉月の打ち明け話を聞いた宗重は、後日、彼女と大成、その交際相手である名和立夏(めいわりっか)とのカラオケに参加することになってしまう。 その場で、立夏の思惑を知ってしまった宗重は、葉月に彼女の想いを諦めるな、と助言して、大成との仲を取りもとうと行動しはじめるが・・・。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...