限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第十二章 弥生(三月)

329.三月十一日 放課後 〆は上々

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 充実した週末を過ごし、いつも通りの平常運転へ戻った八早月たち。だがこの月曜日には忘れてはならない行事があった。本当は忘れたいとも言えるがそうもいかない。

「なるほど、さすが学年末、いつもとは異なる趣向と言うわけなのね」

「なにがなるほどでさすがなのかはわからないけど違うのは確かだね。
 貼り出しがないって言うのは意外だったよ、嬉しかったけど」

「なんでよ、夢は成績いいから貼ってもらった方が優越感モテるでしょ?
 アタシなんて一回も載ったことないからなあ、八早月ちゃんはずるいよ。
 得意科目は学年一位で苦手は下から何番目とかさ、一瞬仲間かと思っちゃう」

「じゃあハルが頑張って仲間入りすればいいんじゃないかな。
 保健体育なら二十番以内いけそうじゃない? 実技は得意だろうしさ」

「保体だけなんて却って恥ずかしくない? その…… なんかさ……」

「あー、ハルのむっつりが出たよ! これだから彼氏持ちは参っちゃうよ。
 あ、八早月ちゃんは関係ないか、ね? 綾ちゃんもそう思うでしょ?」

「えっ!? なんで私? 別に保体だけ出来ても恥ずかしくないよ?
 どれでも得意科目があった方がいいじゃないの、なんで嫌なの?」

 夢路はちょっとふざけてみたのだが、誰もピンとこないらしくハズ・・してしまったことを恥ずかしがっている。だがここで助け舟を出してきたのが八早月なのだが、こちらは予想通りハズ・・すのが平常運転である。

「ちょっと夢路さん? そう言う物は公衆の面前で言う物ではないそうよ?
 恋人と二人の鬨ならいいみたいだから、美晴さんも橋乃鷹さんと二人きりなら、ね?」

「ね? じゃないってば! 誰なのさ、八早月ちゃんにこんな入れ知恵したの。
 でも夢路が言ったこととは少しずれてるからね?」


『ん゛、んん゛っ』
『コホン、コホン』


 そしてこれもよくある光景なのだが、少し離れた受付にいる図書委員が四人を見ながらなにか言いたそうに存在をアピールした。これすなわち『うるさい』と注意されているのと同意である。さらに言えば一番近くの席に座って勉強している生徒からも睨まれていた。

「んじゃそろそろいこうか、ママたちもそろそろ着くころじゃない?
 そう言えばさ、少し前に着付け教室だって言って集まってたときあったでしょ。
 ―――― そうそう、八早月ちゃんの叔父さんち借りてたって。
 あの時なんてお寿司とって食べたんだってさ、ずるくない?」

「それは確かに聞き捨てならないわね、その前には鰻を食べに行ったことも……
 なら今日はきっと、好きなだけ頼んで沢山ご馳走を食べても構わないわね」

「そうだよね、なるべく使ってあげないと潰れちゃうかもしれないしさ。
 出来たばっかの時はあんなに並んでたのに今は満席なんて無いらしいよ?
 近所のおさんがパートに行ってるんだけど結構暇だってさ」

「夢ちゃんはまたそんな言い方して…… お店の中では言っちゃダメだよ?
 でもそんなに暇なのにパート雇わなきゃいけないなんて大変だね。
 お店作ればもうかるってわけじゃないから次々変わって行くんだろうけど」

「それにしても近所の住人に協力を仰いでいるなんて随分と人材不足なのね。
 なんならウチからキーマを貸し出そうかしら、未だにフラフラしているのよ。
 早く定職を持たせないと怠け癖がついてしまうわ」

「キーマってあの時の悪い人でしょ? 本当に雇っていて平気なの?
 そりゃ乱暴なことされても大丈夫なのはわかるよ? でも悪い人を引き入れたりとか怖いじゃない」

 綾乃の心配はもっともだが八早月たちにとっては小物も小物だ。何の心配もしておらず、むしろその後対峙した秘密結社バトンの関係者を、わざわざ呼び寄せようとしていたくらいなのだから。

 その辺りの詳しい事情は国家機密とは言わないまでも気軽に話すことはできないため、掃討作戦自体が友人たちの与り知らぬところである。元々あちら側だったキーマを除けば外部からの参加者は飛雄だけだが、それもきっちりと口止めして有り零愛にさえマフィアの存在は伝えていなかった。


 こうして口から先に生まれた集団が校門を出ると、すでに板倉が車で待機しており皆が出てくるのを待っていた。もちろん朝からずっとここにいたわけではない。いくら生徒の関係者だろうと校門の前にずっと止めていたら邪魔だろうし、近所の人から苦情が来てもおかしくない。そのためいつもは九遠エネルギー会社で待機したり昼食を取ったり、時には雇用主の九遠寄時よりときの用事で出かけたりしている。

 だがこの日はいつものように八早月を送ってきた後に櫛田家へ戻り、昼過ぎまで適当に時間を潰し昼食を取ってから、今度は手繰社長を会社まで乗せていったのだ。つまり半日で片道約五十分の道のりを一往復半走ったということでもある。

「板倉さん、お疲れ様です。お迎えありがとうございます。
 お母さまたちはもう向かったのですか?」

「はい、先ほど送って行きましたんで今頃はもう合流しているかと。
 ちなみに山本の奥さまは先にいらしていました」

「ちょっと八早月ちゃん、今の聞いた!? 山本の奥さまってうちのママだよ?
 あのトドみたいなグウタラ専業主婦が奥様だって! おっかしいのー」

 この反応には弁の立つ板倉もどう返していいかわからず愛想笑いが背一杯である。とは言え気持ちはわからなくもない。自分の母親が普段とは異なる扱いを受けていることが可笑しいのだろう。しかし同時に恥ずかしさや照れも感じているかもしれない。

 少々考えが足りなかったかと考える板倉ではあるが、かといって『山本さん』などと呼べるはずもなく『奥様』が最適解だったことを信じるのみである。そんな板倉の悩みなどつゆ知らず、少女たちにはなぜか奥様がツボだったらしく、ケラケラと笑いながら次々に車へと乗り込んでいく。

「それでは例のお店までお願いしますね。
 と言っても遠いわけではないので歩いて行っても良かったのですが」

「それでは私の仕事が無くなっちまいますからねぇ、勘弁してください。
 皆さんもシートベルトはきちんと締めましたか? では参りましょう」

 行き先と言っても大した場所ではない。先日も訪れた珈琲店である。この町では洒落た店の範疇であり、かといって気取る必要もなく子連れで多少騒がしくしても問題ない。まさに母子の集団が集まるにはうってつけなのだ。

 これは本日返却されたテスト結果をそれぞれの親の前で見せ合うと言う、ある意味神経を使う集まりでもある。だが落ちこぼれ組の八早月と美晴も結果は上々だったので、心配することなどなにもないと意気揚々に向かうのだった。
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