限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第十二章 弥生(三月)

330.三月十三日 午後 懲りない面々

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 一年生も終わりが見えて来てもう残り二週間である。授業はほぼすべてが教科書の範囲を終えており、時間割も通常とは異なる割振りとなっていた。特に三年生は進学の準備で慌ただしいらしく、数少ない外部進学者を除いた高等部への内部進学者には校舎や施設の説明会も行われるらしい。

 そのために駆り出される教師が授業に当たれないことも、この学年末時間割変更の要因である。そして今日は午後の授業が体育のみに代わっていた。授業がないことに喜ぶもの、体育になって不満があるもの様々だが、着替えのための移動が面倒なことは女子全員の共通であり騒がしくなるのも致し方ない。

「たまには男子が移動して着替えればいいのにね。
 ジャージや貴重品持って更衣室まで行って、終わったら同じことするんだよ?
 めんどくさいったらありゃしない」

「でも教室はカーテンだけだから覗かれたらヤダし鍵もかからないじゃないの。
 そんな心配するくらいならアタシは移動くらいなんでもないけどなぁ」

「そんなことよりもなぜ午後の時間割を変えたのかが問題ではないかしら?
 午前であれば英語が無くなったと言うのに、まったく気が利かないわ」

「それはまた別の話だと思うんだけど…… それより今日何するか聞いた?
 持久走だよ? 確かに少し暖かくなってきて動きやすい季節だけどさあ。
 誰が好んで長距離走りたいのかって話じゃな―― 二人には無駄か……」

「まあ夢は走りたくないよね、色んな意味でさ。
 アタシみたいにスポーツ用にしたらいいんじゃないの?」

「そんなの陸上選手でも陸上部でもないのに買ってくれないってば。
 とにかくいちいち高いんだからさ、今日は透けるの嫌だからとっておきだよ。
 普段みたいなママのお下がりじゃさすがにね……」

「二人とも悩みが贅沢だわ、私なんて房枝さんになんて言われたと思っているの?
 昨晩私が体操服を用意していたらサラシは必要ないのかと言うのよ?
 さすがにサラシは使わないと答えたら、まだ必要にならないのかって胸元を……
 まったく失礼な話だわ!」

 昨夜の憤りを思い出した八早月が声を荒げると、教室に残り女子が出ていくのを待っている男子の一人が怒鳴りつけてきた。振り返って顔を確認するまでも無く、八早月たちに突っかかってくるのは例によって郡上大勢である。

「お前ら早く更衣室へ行けよ! こっちが着替え始められないだろ!
 まったく、下ネタは女だけでやってくれよ」

「うるさいよ! どうせ聞き耳立ててたくせにさ、このムッツリスケベ!
 そんなに胸元が気になるなら好きな子にでも見せてもらえばいいでしょ!
 女子ならそう言う悩みがあって当たり前なの! まったくどこが下ネタなのよ!」

「ちょっと山本さん、言いすぎだよ、郡上君も失礼なこと言っちゃダメでしょ?
 櫛田さんもそう言うセンシティブなことは小さい声でね?
 そう言う態度だからフリースペースから追い出されちゃうんだよ?」

 間に入って来たのはクラス委員長の井口真帆である。誰かを悪者にはせずに全員を諭すと言うのはうまいやり方だと、八早月はその手腕を心の中で讃えていた。おそらく自分なら夢路同様大声でやり込めようとしてしまうだろう。今回は夢路が真っ先に言い返したので出る幕が無かっただけだ。

 ひょんなことで真帆に対して好感を持った八早月だが疑問を感じる部分もあった。元々真帆と夢路は折り合いが悪く、ついこの間も諍いを起こしさらなる仲違いをしたのではなかったのか? いつの間にか仲直りをしたとも思えないが、それでもわざわざ助け舟を出すほどの聖人なのだろうか。

 しかしそう考えたのも束の間、廊下へ出て移動を始めるとお互い二言三言交わしてからそっぽを向いてしまった。どうやら仲直りしたわけではなさそうだ。そして夢路が八早月たちのほうへ戻ってくると同時に真帆の元へ駆け寄って行った者が一人、それは郡上に好意を寄せているのがあからさまな女子、クラスメートの三田村愛美まなみだった。

 その姿を見て夢路が呟く。

「あの二人は凄い仲いいのよ、前のクラス分けの話もまなちん愛美が原因ね。
 郡上君は成績いい方だけどまなちんはあんま良くないみたいなのよ。
 それでクラス分けの噂を聞きつけてピリピリしてたところを――」

「夢が突っついたってわけね、相変わらず言葉が悪いし意地も悪いんだよ。
 仲いい子ならイジリだって理解できるけど、仲悪い相手にも同じなのはどうかと思うなあ」

「違うってば、勘違いしてそうだけど、私はあの時フォローしてたんだよ?
 まなちんがクラス分けは成績で半分ずつだから郡上君と別のクラスになるって。
 それを聞いたまほちん真帆が他の子に聞いて回ってたのが発端なのよ。
 でさ、ほとんどの子が半分で足キリだって言ってて余計に落ち込んでたわけさ。
 だからそうと決まったわけじゃ無いって言ってあげたのに証拠がないとか言い出して言い合いよ」

「うーん、どっちもどっち? 確かに夢に悪いところは無いように思えるよ?
 でも仲良くないのになんでわざわざ割って入るわけ? それにその呼び方。
 まほちんまなちんって呼ばないでって言われたことあったでしょうに」

「そうだっけ? 確かに馴れ馴れしいとか言われた覚えはあるなあ。
 あの時、友達でもないんだから、みたいに酷いこと言ってなかったっけ?」

「でも事実友達ってこともないでしょ? いいとこクラスメートじゃない?
 アタシは仲悪くないつもりだったのにいつの間にか悪くなってたけど……」

 結局仲直りはしていないことが判明し、なんだかすっきりした八早月は二人の後に続き話を聞きながら何となく楽しそうである。なんと言っても午後の授業が体育になっただけでなく三学年合同なのが大きい。


 そんな騒ぎで余分に時間を喰ってしまったが、ようやく着替えが終わり校庭へ出ると、さすがに男子生徒はほぼ全員揃っているように見える。方や女子生徒たちはいいとこ半分ほどだろうか、明らかに数が少ない。

 だがこれは八早月たちにとっては都合が良かった。探し人を見つけるためにキョロキョロする三人は、クラスごとに並んでいることなど完全に無視したままうろうろしていた。

「ああいたわよ、綾乃さーん」

「八早月ちゃん! クラスでまとまって無くて平気なの?
 それに夢ちゃんやハルちゃんまで来ちゃって、まったく……」

「集まるも何も、事前に言われていないから平気ではないかしら。
 私は合同授業なんて始めてでもうワクワクしているの、一緒なんて楽しみね」

「でも持久走ってただバラバラで走るだけだよ?
 早く走るのもそうだけど走りきるのも重要だからペース配分も考えないと。
 まあ八早月ちゃんは全力で走ってもなんとも無さそうだけどさ」

「正直いってアタシは短距離専門だし八早月ちゃんと一緒には走らないからね。
 夢はどうせのんびり歩き組でしょ、綾ちゃんは走るの得意なの?」

「全然得意じゃないよ、短距離ならまあまあだけど持久力は自信ないなあ。
 そもそも出来れば走りたくないんだけど…… 夢ちゃんもでしょ?」

「しーしー、その話は禁句だから! さっきそれで一触即発だったんだからね?
 八早月ちゃんももう大声で変なこと言わないでよ?」

「夢ったら自分も今日はお母ちゃんのブラじゃないとか言ってたでしょうに。
 そんな話になったから八早月ちゃんだって変なこと言っちゃったんだよ」

「なにか私が責められているような気がするのだけれど気のせいかしら?
 私はただサラシが必要ないと言われたことを二人に伝えただけよ?
 なんで先ほど険悪な雰囲気になったのか全く分からないわ」

 校庭へ出た後も先ほど同様、美晴と八早月が大きな声で下着の話を始めたものだから周囲の男子生徒はいたたまれない様子だ。しかもここは二年生の列である。

「こらっ! そこにいるのは一年生だな? ちゃんと自分のクラスにいなさい。
 今も授業中なんだから勝手な行動をしたらダメじゃないか!」

「やっぱ怒られちゃったじゃないの、ほら二人とも行くよ、綾ちゃんまたね。
 始まったら一緒に走ろ、きっと八早月ちゃんとハルはどんどん行っちゃうからさ」

「うん、また後でね、八早月ちゃんもハルちゃんも一位になれるよう頑張ってね」

 最後は夢路と綾乃にきれいにまとめられてしまい、何となく釈然としない八早月と美晴であった。
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