限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第十二章 弥生(三月)

339.三月十七日 朝 新入生説明会

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 いつもの四人は日曜日にも拘らずいつものように教室にいた。しかも今日は綾乃も一年一組の教室である。他にもクラス委員長の井口真帆を初めとして一、二年生の優等生・・・を中心におよそ四十名が好きな席へと座っている。

「えー、みんな日曜日なのに来てくれてごくろうさん。
 それでは今日の流れとそれぞれの担当を説明していくとしよう。
 プリント配布は無いので必要に応じてメモを取ってくれよ?」

 一年一組担任の松平と二年一組担任の女性教諭が同時に存在すること以外は、教壇の教師が黒板へあれやこれやと説明を書いていき、それを必死で板書する生徒たちと言うありふれた光景だ。たった今言われたように配布物は無いらしいのでみな書きとめるのに必死である。

 しかし一人だけ舟をこいでいる者がいた。隣の綾乃に突かれては背筋を伸ばし、数秒後にはまたコクリコクリとこうべを揺らしているのは、つい先ほど明け方までお役目で走り回っていた八早月である。

『ちょっと八早月ちゃん、よだれ垂れてるよ…… ほらこれで拭いて。
 そうそう、起きてないとわからなくなっちゃうからね?』

『あ、ああ…… ごめんなさい、少しうとうとしてしまったようね。
 でももう大丈夫、意識ははっきりしているわ、ええ大丈夫、意識ははっきりしてい――』

『もう、なんでこんなムリしたのよ、急に参加してたから驚いちゃった。
 私ですら貧乏くじ引いちゃったなんて思ってたのにさあ』

『仕方ないのよ、こちらにも事情が―― はっ、今何時間目!?』

 綾乃に面倒を見られながら涎をふき取った八早月は、眠い目をこすりながら自分の役割を書き留めていく。しかしこれは形式的な物に過ぎない。

 本日は来年度新入生の学園施設説明会である。担当教師が手本となるであろう生徒や社交性の高い生徒をピックアップして、来年入ってくる新一年生を案内させると言うものだ。八早月は選ばれていなかったのだが、諸事情あって急遽参加していた。

◇◇◇

 それは昨晩のこと。

やうやうようやく回文れんらくや取れし
 これ娘、どうにも得体のしれぬ気色近寄れめり。
 お主の通ふまねび舎学園へとやりくるところまでは付きとむればぞ付きとめたぞ
 あとのしたため処置は任せし、あなかしこくれごれも逸りし真似すまじくしないようひししっかりと望め』

『それはいかなることでございましょうか、八岐大蛇様が直々お調べに?
 お手を煩わせてしまい我が未熟を恥じるばかり、ほんに申し訳ございません。
 それでは明日学園になにかがやってくると言うことでしょうか?
 妖ではなく、得体のしれないなにか別の物だと?』

『左様、他の神の遣はしし者か、はたまた地球が産みいだしし者なりや。
 とまれかうまれいずれにせよ護り手のお主どもが知りおく要はあらむうてあるだろう
 まだ災いなるものかいかがかまにはどうまかではわからぬぞ。
 それといまもう少し我思ひいだせ』

 どういう事情があるのかわからないが、八岐大蛇が夢枕まで来て命を出すからにはよほどの緊急事態なのだろう。だが神でも不明だと言っているようなことが八早月にどうにかできるのか、それだけか心配だった。

◇◇◇

 そんな経緯の元、急遽新入生説明会の係になるべく無断で登校してきたわけだが、例によって松平からは自分勝手なことをするなと叱られてしまった。しかし二年生の担当生徒の一人が体調不良で欠席するとの連絡が入り、丁度良いからと許されていた。

 その生徒は昨晩寝つきが悪く、朝までうなされながら脂汗が止まらなかったそうだ。母親の話によると明け方まで何度も蛇に飲まれる夢を見ていたのだとか。とは言えそんな報告は学校になされていないので家族しか知らないこと。もちろん八早月の知るところでもない。


 さて、無事に説明会へ潜りこんだ八早月は、欠員を埋めるべく二年生の代わりに加わったわけで、これは偶然とは思えないほど都合のいい事だった。

 本日やってくる来年度の新入生は例年通り四十名、対して案内する生徒も同じく四十名である。これを二人ずつの四人の班にして、定められた施設二十二カ所をひと組ずつずれながら回って行く。

 二年生たちの中へ一人混じると言うことで、面識が有り仲の良い綾乃と組むことになるのは必然と言えよう。押し出された生徒は別のクラスメートと組むだけなので波風も立たない。

 急に押しかけておいて勝手に疑問を持った八早月は、なぜこんな都合よく事が運ぶのかといぶかしんだが、これも八岐大蛇の偉大なる御力・・・・・によるものだといいように解釈していた。これは当たらずとも遠からず、遠からずとも当たらずといったところか。

「本当に大丈夫? 私たちは出席番号一番と二番の子を担当するんだよ?
 さっきの説明、本当にちゃんと聞いてたの? ほら寝ちゃダメ!」

「お願いだから十秒だけ寝かせてちょうだい、そうすればまた十分動けるわ。
 ああでももう時間がないのね、そろそろ新入生が登校してくる時間――」

「八早月ちゃん!? これって…… 新入生の中なの? もしかしてだから?」

「ええ、こんなことは初めてなのだけれど、八岐大蛇様直々の命なのよ。
 だからどんなに眠くても急でも来なければならなかったと言うわけ。
 そしてここまでとここからはおそらくすでに導かれてのことでしょうね」

「だから私たちがなぜか出席番号一、二番の担当になったってこと?
 八早月ちゃんが入って私たちの班がずれるのはまだわかるけどさ。
 新入生までずらすのはおかしいと思ったんだよね」

「全ての偶然は必然であり、結局は神に導かれた手のひらの上なのよ。
 ―― ってこれは仏教用語だったわ、言い換えるなら蛇に睨まれた蛙だわ」

 よほど眠いのか、八早月は意味不明なことを口走っているが、綾乃にとっては雰囲気が伝わるだけで十分だった。なぜならばつい先ほど二人が感じた気配は、明らかにのものだったのだから。
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