限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第十二章 弥生(三月)

340.三月十七日 午前 妖なのかなんなのか

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 どうやらこの娘で間違いない。明らかに異様な力の持ち主であるが、不思議と八早月と綾乃に対し警戒する様子はない。発する力の種としては妖に近いが真宵たち呼士にも似通っている。

 だが八早月はこの娘と一番近い波長の持ち主を他に知っていた。さらに言えばその力を思い出すと胸が締め付けられる気分にもなる。

「おはようございます、私は二年生の寒鳴綾乃、隣が一年生の櫛田八早月さん。
 今日お二人を案内することになったのでよろしくお願いします。
 ええっと、愛甲あいこう一二三ひふみさんと植田南さんですね、二人とも近所から?
 私は久野町から来ていて、やよ―― 櫛田さんは八畑村からなの」

「寒鳴先輩、よろしくお願いします。でも私の名前は愛甲いつみですから。
 読み辛い名前でゴメンナサイ、でもよく間違えられるんで気にしてません。
 金井町にはついこの間やって来たばかりで、それまでは山の向こう側にいました」

「あ、ごめんなさい、名簿に振り仮名振って無くて……
 山向こうって本久野? そんな都会から来たならビックリでしょうね」

「そうですね、本久野からだったら驚いたかもしれません。
 でもいつみは越尾久えつおく郡からなのでもっと全然田舎ですよ。
 郡内でも一番山に近い越奧えつおう村だし山と沢と山葵わさび田しかないですから」

 最初に名乗った愛甲一二三は、本当にまだ小学六年生なのかと思うくらいには物怖じしない性格らしく、雰囲気としては八早月に近いかもしれない。なんでもはっきりと物を言い、遠慮はしないけれど無礼ではないギリギリのラインである。

「えっとあたしは植田みなみ、です、出身は金北小、です……
 よかったあ、担当が金井小の先輩だったらどうしようと思ってたんです」

「そう言えば昔から小学校同士が仲悪いなんて聞いたことがあったわね。
 全ての人が仲良くできるわけではないのだから仕方のない話だわ。
 それでも改善する気があるのか、取り組む気があるのかは重要でしょうね」

『ちょっと八早月ちゃん、新一年にそんなこと言ったら怖がっちゃうでしょ。
 もっとリラックスできるよう優しく案内してあげようよ』

『ああそうだったわね、これが新入生の案内だと言うことを忘れていたわ。
 でもいつの間にか眠気も覚めているし、これならもういつでも大丈夫よ?
 いつでも本性を表しなさいと言ったところね』

 今のところ本性はともかく、力を自認しているかさえも不明な状態だ。そのため藻孤も真宵たちも姿を見せることは出来ず、気配も姿も出さずに警戒を続けて待機している。

 自己紹介も済んだところでいよいよ学校案内が始まった。八早月たちの班は一番にスタートするからなのか、三階にある音楽室が最初の案内施設である。そこから視聴覚室と進み二階、一階と下って行った。

 予定通り順調に回って行き、各部室を終えたところで午前の予定は終わり、出発地点の昇降口へ戻ってきた。この班が最初に出発したはずなのに、先に戻ってきている班がいたのは不思議であるが、これは書道部の展示を長々見ていたせいかもしれない。

「展示されていた習字、すごく上手でしたね、
 中学生ならまだあたしと変わらないと思ったのにビックリガッカリです。
 でも書道部って部員二人しかいないなんて意外でした。
 金北は書道盛んなんですよ? 中学上がったらみんな辞めちゃうのかなぁ」

「植田さんは書道部に入りたいの? きっと歓迎されるよ。
 だって一人は三年の先輩だから来年から二年生一人なんだもん。
 その部員は私のお友達でとっても優しい女の子だから居心地いいと思う」

「そうね、他人の恋愛に首を突っ込みたがるところがあるけど確かにいい子だわ。
 それに金井小出身なのに同窓と仲が良くないのが、あなたにとっては好都合ではないかしら?」

「また八早月ちゃんたら脅かすようなことを―― えっ!?
 夢ちゃんって同じ出身小の子たちと仲良くないの? 大丈夫なの?」

「私も詳しくはわからないのだけれど、金井小卒業生の委員長とは犬猿の仲ね。
 事あるごとに言い争いをするくらいには折り合いが悪いわよ?」

「あの、あたしやめときます…… そういうの苦手なので……」

「ああ、ダイジョブダイジョブ、今のは八早月ちゃんの冗談だからね。
 入学後に体験入部とかから始めればいいし今決めなくてもいいんだってば。
 えっと、愛甲さんはなにか気になるとか気に入ったのとかあったかな?」

「そうですね、いつみは櫛田先輩が気になります、お二人仲良さそうですよね。
 寒鳴先輩とは学年も違うし話し方は怖そうだけど嘘つけ無さそう。
 いつみも嘘つけないし、愛想笑いとかも出来ないから学校で浮いてたんです」

『やはり妖ではないかしら、いくら山奥の村でも宙を飛ぶなんておかしいでしょう?』

『八早月ちゃん、自分が普段していることを思い浮かべてから言ってよね。
 しかも今は空飛んでるって話じゃないから余計なこと言っちゃダメだよ?』
「それで愛甲さん、なんで八早月ちゃんのことが気になるの?
 自分と同じで村出身だからとか?」

「いいえ、その名札に書いてある名前、八に早いに月ですよね。
 これでなんでやよいって読むのかなあって気になっちゃったんです。
 いつみは自分で変だと思ってるけど櫛田先輩はどうなんですか?
 親に文句言ったりしたことありますか?」

「文句も何も、名に使われた漢字の読みに決まりはないでしょう?
 大体、自分の名を読み書きできるころにはすでに違和感を持ってないもの。
 漢字などと言う物は所詮人の決め事、神に捧げるための言葉こそが大切なのよ」

「は、はあ、神ですか? もしかしてヤバい宗教とかにハマってませんか?
 いつみのは大おばあちゃんがちょっと変わってて困ってるんですよ。
 だって玄関先になめくじが這っていたら吉兆とか言うんだもんなあ」

「でもあなたもなめくじの生まれ変わりでしょう、お仲間を嫌ってはいけません。
 それに小さき生き物を大切にするのは素晴らしきこと、お婆さまが正しいです。
 万物生ける物すべては神により作られたのですからね。
 すなわち本来はすべてが神の遣い、なのに人はいつしか信仰を棄ててしまった。
 まったく嘆かわしいことです、あなたも先祖を敬い脈々と紡がれてきた道筋を把握し血筋に感謝すべきでしょう」

「なっ、なめくじ!? いつみがですか!?」

 八早月の言い出したトンデモない台詞に、卒倒しそうになる綾乃だった。
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