限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第十二章 弥生(三月)

341.三月十七日 昼 口は禍の門

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 新入生説明会にて共に案内係をしている八早月が、さっそく来年の新一年生である愛甲一二三いつみをなめくじの生まれ変わりなどと言い出してしまい心臓が止まりそうになっている綾乃である。

 何とかこの場を取り繕わないとと考えたが、焦りのあまり思いついただけでうまく組み立てられていない言葉をつらつらと並べてしまっていた。

「ちょっと八早月ちゃんってば、後輩たちがヒイてるからその辺にしといて。
 あの、ごめんね、私たちはこの地方に伝わる古い神社の神職なの。
 わかり易く言うと巫女のようなもの、だと思ってくれるとわかりやすいかな。
 だからちょっと熱が入って言い回しがおかしくなっちゃったけど気にしないで」

 それを聞いた後輩二人は目を輝かせて食いついて来た。この後の流れは大体想像がつくが、綾乃はどさくさで自分まで地域の神職だと言ってしまったし、八早月の場合は一般的に想像されるような巫女ではないので、何とかぼろ・・を出さないようにしなければならない。

 そして真っ先に来るであろう女子ならではの質問は――

「スゴイ、先輩たちカッコいい! やっぱ普段は巫女服着てるんですか!?
 いいなあ、憧れちゃう、袴姿ってかわいいですもんねえ」

「それほどいいものではないわ、冬は寒いし夏はごわごわして暑苦しいわ。
 体操服のほうがよほど快適だと言うことを知っておいた方がいいわね。
 大体袴なら誰でも似合うわけではないわ、背筋を伸ばしてしゃんと――
 そう、真宵さんのように――」

 先輩と呼ばれ続けて気分を良くしたわけでもないだろうが、きょうが乗ってきた八早月は、つい真宵のことを思い浮かべ手本にするつもりで呼び出してしまったのだ。

 綾乃が制止するより前『あっ!』っと言う間に二人の後ろに真宵が顕現けんげんする。もしこの子が以前の綾乃同様、自分の力に無自覚のまま人あらざるなにかが見えるのだとしたら騒ぎになりかねない。

 しかしそれはどうやら杞憂だったようだ。一二三も南も一体誰のことだろうと言った表情をありありと出しながらきょとんとしている。それを見た綾乃は止めていた呼吸を再開でき、窒息せずに済んだのだった。

「真宵さんは八早月ちゃんのお姉さんみたいな女性ですごくステキなの。
 いつも和服? 袴姿なんだけどキリっとしてて容姿も立ち振る舞いも綺麗よ」

『綾乃殿、お褒め頂くのはありがたいですが、もそ・・とお手柔らかに願います。
 こう、なんと言うか、背筋がむず痒くなってしまいますから』

『真宵さんはいい加減褒められ慣れてもいい頃でしょう?
 私だけでももう八年は褒め続けていると言うのに当初と変わらぬその仕草。
 ですがいつまでの姿を現していると想定外の事態に陥るやもしれません』

 八早月がそう言うと真宵の姿はまた常世へと戻っていった。どうやら見られずに済んだと考えて良さそうだが、今の反応が演技であり見て見ぬ振りと言うことも考えられる。まだ注意深く観察する必要があるだろう。

 そんな心配をしている八早月と綾乃の心は露知らず、真っ先に口を開いたのは南であった。しかもそれはそれこそ想定外、しかし聞きなれた台詞とも言える。

「もしかして寒鳴先輩と櫛田先輩って恋人同士なんですか!?
 いえいえ無理に聞き出そうとかうわさを広めようなどとか思っていません。
 入学前からこんな尊いカップリングに出会えるなんてあたしついてます!」

「綾乃さん、私はこちらの植田さんは書道部へ入るべきだと感じます。
 もしかしたら気のせいかもしれないけれど、私の勘は時々当たるのですよ?」

「奇遇だね、私も今同じこと考えてたよ、でも書道部の活動が変わりそうだね。
 そう言えば新部長はどうする気なんだろう、一人でも続けるのかなぁ。
 た、だ、だって、どちらかと言うと四宮先輩を眺めるのが目的じゃない?」

 綾乃がつい口を滑らせて余計なことを言ってしまったからか、植田南の瞳はこれ以上ないくらいに輝きを増していった。どうやら気のせいではなく南は夢路の同類だと言うことで間違いないだろう。

「寒鳴先輩! その四宮先輩を眺めるってとこ詳しく! 詳しくー!
 でもあたしが入学した時にはもういないんですよね、残念過ぎるー」

「ま、まあ高等部まで行けば会える、のかなぁ。勝手に入れないけどね。
 文化祭の時には合同で作品制作したり指導してもらえたりするよ。
 展示は中等部と高等部で合同だったもんね」

「あたし今年の文化祭来ました、高等部の書道部部室で席上揮毫せきじょうきごうやってました。
 皆さんかっこよかったですねえ、あたしもいつかやってみたい」

「席上揮毫がなんなのかわからないけどそれならやっぱり書道部入ったら?
 今決めるんじゃなくて前向きにってことで、ね」

「そうですね、そしたら四宮先輩にもお会いできますかね?
 どんなカッコいい先輩なんだろうなあ、楽しみー」

 無邪気にはしゃぐ南を見ながら奥歯をかみしめる綾乃、それを見ながら頷く八早月である。この分であればいずれは本当の許嫁、いや恋人になっていくのではないかと感じていた。仲の良い綾乃が身内になってくれるのであれば大歓迎だし、四宮家の将来も早々に心配無用となる。

 これでおかしな話になる流れは避けられたように見えた。しかし南が大人しくなった代わり、次は自分の番だと言わんばかりに一二三が身を乗り出してくる。明らかに自分にも言わせろとの気持ちがありありと出ていて八早月たちは思わずたじろいだ。

「でも南ちゃんの言い分もわかるんですよね、いつみも二人は怪しいなって。
 たまに急に会話が止まって二人で目配せしたり表情だけで会話するでしょ?
 それってどう見ても恋人同士の仕草だと思うんですよね、図星でしょ?」

「今時の小学六年生はマセすぎ。確かにアイコンタクトで済ますこともあるよ?
 でも大した意味は無いよ? おかしいこと言って無かったかな、とかだし。
 それに八早月ちゃんには私が入り込む余地なんてないん―― あっ」

 またもや燃料投下である。この後設けられていた給食の時間中、八早月と綾乃は一二三と南に質問攻めにあい、交友関係や異性関係について丸裸にされてしまった。
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